「出演させてやるから金払え」だと……?
(Rolling Stoneより)

NFL(米プロ・フットボールリーグ)が来年のスーパーボウル(決勝戦)でハーフタイムショーに出演するアーティストから「出演料」を取ろうと画策しているらしい。そんな話がWall Street Journal(WSJ)で報じられて、米国で話題となっていた。

WSJの日本語記事(「来年のスーパーボウル、アーティストに『出演料』要求」)にもある通り、すでにリアーナ、ケイティ・ペリー、コールドプレイが打診されており、とりあえずは「冗談だろ」と冷ややかに受け止められているらしい。

「米国だけでも1億1000万人以上の人目に触れる」ような機会はほかにないし、アーティストはこの出演で弾みをつけてその後ツアーで稼げばいいじゃないか、というのがNFL側の言い分のようで、一見筋が通っているようでもある。しかし、30秒の広告スポットに「今年は何百万ドルの値が付いた」という類いの景気の良い話も毎年報じられるだけに、随分と強気な言い分(ある種のごり押し)という感じもする。

こういう話が出てくる背景としてひとつ思い浮かぶのは、今年のスーパーボウルで久々に「若手」のブルーノ・マーズを起用して、それがひとまず成功していたということ。それまでの過去10年ほどは、2004年に大騒動になったジャネット・ジャクソンの「ポロリ事件」("wardrobe malfunction")に懲りたせいかどうか、誰もが知っている大物アーティストの起用=無難な選択が続いていた。wikipediaにある過去の出演者リストをみても、ポール・マッカートニー(2005年)、ローリング・ストーンズ(2006年)、プリンス(2006年)、ブルース・スプリングスティーン(2009年)、ザ・フー(2010年)など、「誰もが名前は知っている」けれども、言葉を選ばずにいえば「すでに盛りを過ぎた」ような大物が続けて登場していた。そういう点で、大スターではあるが前年のビヨンセや、前々年のマドンナに比べれば知名度で一歩劣るブルーノ・マーズの起用は一種の賭けであった。

この冒険がまがりなりにも成功したことに気を良くし、NFLは大物まで”あと一歩”くらいの若手の「売り出しの場」としてハーフタイムショーを提供してやろう、と思い切った要求に出たのかもしれない。WSJの記事にあったように、ゲーム自体よりもハーフタイムショーのほうが視聴人数が多かったことも、計画を後押ししたのだろう。

ところで。NFLが別に「金に困って」こんな要求を口にしているわけではない、という点はちょっと説明が必要かと思う。

「100億ドル(一兆円)産業」になっているNFLは文字通り「儲かってしかたがない」状況が続いている。収益の柱のひとつである主要テレビ局(NBC、CBS、Fox、それにESPN)からの放映権料だけでも年間ざっと40億ドル程度。これは2011年に結んだ総額420億ドル(期限は2022年)の契約から算出している。それ以外に衛星テレビのディレクTVや、携帯通信事業者のベライゾンとも契約している。これらに加えて入場料収入やらグッズ販売などもあり、全部をひっくるめて年間売上100億ドルという計算だ。

また最近では「昨シーズンに、各チーム(計16チーム)に渡った分け前の総額が、初めて60億ドルを超えた(2006年から56%も上昇)」というニュースも出ていたようだ(各チームにはこれ以外にそれぞれが懐に入れる「ローカル収入」というものもある)。そういう金満状況をいちばんよく反映していると思えるのが、NFLリーグコミッショナーのロジャー・グッデルのサラリーで、2012年には4420万ドル(約44億円)ももらっていたらしい。NYTimesの記事には、S&P500にリストされている大手企業の経営責任者の平均年収がだいたい970万ドル、同年に一番たくさんサラリーをもらったラリー・エリソン(オラクル)でも9620万ドルといった比較の数字が載っている(もっとも今年2月にNBAコミッショナーの引退したデビッド・スターンでも推定2300万ドルだったとあるので、プロスポーツリーグのコミッショナーというのはそのくらいの相場観の仕事、ということだろう)。

さて。それほど儲かっているNFLだが、コミッショナーのロジャー・グッデルは「2027年には(いまの2.5倍の)年間収入250億ドルくらいまでいける」などと口にしている。周知の通り、北米以外ではほとんど人気が無いアメリカンフットボールなので、どこからそんなに新たな収入源を見つけるのだろう?と不思議に思えてしまうが、たとえば今シーズンからこれまで試合がなかった木曜の晩に新たに対戦カード('Thursday Night Football’)を設け、その放映権料を追加で得る、といったことを始める予定と聞く。この権利をうまく手に入れたCBSはとりあえずはウハウハな感じで、逆にそれでなくても調子のよくないFoxなどは「大事な木曜のプライムタイムに、さらに強力なライバル番組登場」と頭を抱えているようだ。

そんな大口取引に比べれば、スーパーボウルのハーフタイムショー出演者からかすめとる上がりなどは微々たるものにすぎないだろう。しかし、「成熟した市場で売上2.5倍」という目標を掲げているので、「お金を取れそうなところからはいくらでもむしり取ろう」ということかもしれない。

「大勢の視聴者が観たい」と思うアーティストと「お金を払ってでも売り出したい」とレコード会社サイドが考えるアーティストとは必ずしも一致しないことから、視聴者にとっては「残念な人選」となる可能性も多分にある。そして、それが視聴率に跳ね返る、つまり「イマイチなアーティスト」が出演して視聴率が下がれば、それが広告料金の低下=スーパーボウルという番組自体の価値低下にもつながりそうにも思えるので、実現した場合に得られそうな見返りと比較して考えると、それほど賢明な策とも思えないのだが……はたしてどういう結果になるのだろうか。

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