(C)2013 The Jobs Film,LLC.

この1週間もいろんな気になるニュースが目白押し……といったところで、まずはアシュトン・カッチャー主演のスティーブ・ジョブズ伝記映画が出足で大きくつまずいた、という話から。

A・カッチャー主演『Jobs』、公開週末の売上はたったの670万ドル

アシュトン・カッチャーがスティーブ・ジョブズ役を演じるということで、一部で大きな期待を集めていた『Jobs(邦題:スティーブ・ジョブズ)』が米国時間16日に北米市場で劇場公開されたが、さんざんな出足だったらしい。これとは別に、ウォルター・アイザクソン著の公認伝記本を原作に、『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンによる脚本で映画化する話がソニーで進んでいることは周知の通り。

Steve Jobs Biopic Crashes on Opening - WSJ

米国時間18日付けのこのWSJ記事によると、 Five Star Feature Filmsという独立系プロダクションが1200万ドルかけて製作した『Jobs』は、米国とカナダの複数の劇場で上映されるところまではなんとかこぎ着けたものの、いざフタを開けてみればば興行収入はわずか670万ドルという厳しい結果になったらしい。


Jobs Official Trailer #1 (2013) - Ashton Kutcher Movie HD


元々がインディーズ系の低予算映画だから、初夏から8月はじめにかけて次々に封切られた大手の超大作映画とは比較しようもないが、やはり同週末に公開され、興行収入トップとなったフォレスト・ウィテカー主演の『The Butler』の2,460万ドルと比べても4分の1強に過ぎない。

エンターテイメント系だけでなく、テクノロジー系や、一般紙などさまざまな媒体にレビュー記事を掲載してもらったり、カッチャー自身が前週にあった「Teen Choice Awards」のスピーチのなかでジョブズのことに触れたり、あるいはCNETとのインタビューで「テクノロジー系ベンチャー投資家」としての知見を披露したりと、さまざまな手をつかって売り込みを図っていたことが伝えられているが、残念ながら新作映画の成績には結びつかなかったようだ。


Ashton Kutcher Speech - Teen Choice Awards (HQ)


Ashton Kutcher wants you to know he's a tech guy at heart - CNET

成績不振の原因は、どうやら話自体がつまらないことにあるようで、たとえばNYTimesのレビュー記事のなかには「カッチャーの演技力にも難があるけれど、もっと問題なのは製作陣(監督と脚本家)の力量の足りなさで、アイザクソンの公認伝記本にみられるようなジョブズの情熱、完璧主義、悪魔的側面、強い願望、職人気質の部分、それにコントロールへの執着といった部分がほとんど表現されていない」などとするかなり手厳しい批判も見受けられる。

Portrait of the Artist Behind Apple - NYTimes

さらに、スティーブ・ウォズニアック(ジョブズといっしょにアップルを創業したエンジニア)が、「実際にはなかったような部分が目立つ(間違っている部分がたくさんある)」とBloomberg TVで喋ったり、「ほかの人に薦められるような作品ではない」「本当に製作を手伝いたかったのに、こちらに声がかかったときにはもう脚本がすっかりできあがっていたのだから手助けしようもない」云々と自らGizmodoのレビュー記事コメント欄に書き込んだりしていたことも、よくなかったのかもしれない。

ごく最近まで生きていた人の伝記映画をつくるというのはやはり実に難しいもの、ということだろうか。日本での公開は11月1日。

[Wozniak Says `Lot of Things Wrong' With Jobs Movie - Bloomberg TV]

Jobs Movie Review: A Sadly Appropriate Metaphor - Gizmodo
Woz On What's Wrong With Kutcher's Steve Jobs Movie (Update 2) - Gizmodo

豪華出演陣が楽しみな『The Butler』


The Butler - Official Trailer (HD) Oprah Winfrey


8月に入って、オプラ・ウィンフリーのインタビューなどを各所で見かけるようになっていた『The Butler』(ウィンフリーは、フォレスト・ウィテカーが演じる執事の妻役で出演)。アイゼンハワーからレーガンまで7人の大統領に仕えたホワイトハウスの執事の話ということで、『フォレストガンプ』と似たところもあるというその展開よりもさらに気になるのは、出演者の豪華な顔ぶれ。その一部を書き出してみると……(括弧内は役柄)

  • ロビン・ウィリアムズ(アイゼンハワー大統領)
  • ジェームズ・マースデン(ケネディ大統領)
  • リーヴ・シュレイバー(ジョンソン大統領)
  • ジョン・キューザック(ニクソン大統領)
  • アラン・リックマン(レーガン大統領)
  • ジェーン・フォンダ(ナンシー・レーガン大統領夫人)

ほかに、テレンス・ハワード、レニー・クラヴィッツ、そしてマライア・キャリーなども登場するという。実在の人物を演じる俳優たちは、アシュトン・カッチャーのジョブズ役と同様、どうしても「本物」との類似の程度(どこまで似ているか否か)が気になるところだが、これだけの顔ぶれが揃うというだけでも観てみたくなる作品と思える。

Black Man, White House, and History - NYTimes
Witnesses to History, Some Still Unfolding - NYTimes
'Lee Daniels' The Butler': What the Critics Are Saying - THR

スパイク・リーもKickstarterで資金調達(ちょっとした波紋も)

映画関連の話題をさらにもう一つ。

オンラインのクラウドファンディング・サイトKickstarterを使って、映画の製作資金を集める例が増えている、という話を以前に目にしたことがあった。

Kickstarter loves films. Seriously, just look at these ridiculous numbers - GigaOM

このGigaOMの記事によると、今年初めに開催されたサンダンス映画祭では、Kickstarter生まれの作品が19本も上演されていたという。また以前に紹介したリンジー・ローハンの話題作『The Canyons』の製作資金もこのサイトで集められたものだった。Kickstarterというと「Pebble」や「Romo」のようなガジェットのプロジェクトが真っ先に思い浮かぶが、それだけではない、ということらしい。

さて。最近では映画よりもニューヨーク・ニックス(NBA)関連の話題で名前を目にすることの多いスパイク・リーが新作映画の製作にあたり、Kickstarterをつかって約100万ドルを超える資金を集めてしまったことから、「実績のある大物監督がそんなマネするな(若手映画人から機会を奪うな)」といった批判の声も一部で上がっているという。


7月後半から始まったこの資金調達活動、米国時間21日の締め切りを前に、すでに目標額の125万ドルを上回る金額が集まっている。また資金提供を申し出た者のなかにはあのスティーブン・ソダーバーグ監督(最新作は『Behind the Candelabra』)の名前も混じっている。1万ドルの提供を申し出たソダーバーグは、スパイク・リーと食事した後、一緒にニューヨーク・ニックスの試合観戦に出かけることになるという。またこの申し出の理由について、「スパイク・リーは、デヴィッド・リンチ、ジム・ジャームッシュとならんで自分が尊敬する監督だから」などと説明してもいる。

Spike Lee Launches $1.25 Million Kickstarter Campaign for Next Film - THR
Steven Soderbergh Explains Spike Lee Kickstarter Donation - THR

一方、リーは批判の声に対して「まったくの誤解。自分に資金提供を申し出てくれているのは、これまでKickstarterの名前すら聞いたことがなかった人々が大半」「若手の育成に興味がなかったら、わざわざ15年もニューヨーク大学で講師をしたりはしていない」などと反論している。

Spike Lee to Kickstarter Critics: You're 'Plain-Out Wrong' (Video) - THR
Kickstarter Defends Spike Lee's Campaign: 'This Isn't Charity' - THR

音響機器メーカーのビーツで、新たな資金調達の動き

スパイク・リーの出世作『ドゥ・ザ・ライト・シング』というと、巨大なラジカセから流れるヒップホップがすぐに想起されるが、時代の流れとのもにああしたものもほとんど姿を消してしまった。代わりに大いに普及したのが(よく目立つという点は共通する)大きなヘッドフォンで、その牽引役を果たしたのが「Beats by Dr. Dre」(以下、ビーツ)。

そのビーツがいま、HTCが保有する自社株式(全体の約4分の1)を買い戻すための資金調達に乗り出しているという。

Beats By Dre Looks to Drop HTC - WSJ

ビーツのふたりの創業者ーージミー・アイオヴィンとドクター・ドレについては、このコラムでも過去に紹介したことがある。ふたりは一昨年にビーツ株式の50.1%を約3億ドルでHTCに売却。ただし、昨年にはその半分を(売値とほぼ変わらぬ)1億5000万ドルで買い戻していた。HTCでは当初、ビーツの音響関連技術を自社製スマートフォンに取り入れ、他社製Android端末との差別化を目論んでいたが、これが結局空振りに終わった格好で、ビーツ側でも先の見通しが明るくないHTCとは早めに関係を整理し、他の音響製品や車載オーディオなど新しい分野への進出を目指すほうがが得策と踏んでいるようだ。

HTCといえば、米国では先週から、ロバート・ダウニーJr.を起用したテレビCMが流れているらしい。ハリウッドを代表する音楽業界の重鎮でも救えなかったHTCだが、ハリウッド(映画界)きってのドル箱となったアイアンマンなら、もしかしたら救ってくれるかも……ダウニーJr.起用の裏には、あるいはそんな願望があるのかもしれない。