『Behind the Candelabra』という新作映画が米国時間26日夜に、大手ケーブルテレビ局のHBO(ウォルト・ディズニー傘下)で放映される。スティーブン・ソダーバーグが監督、そしてマイケル・ダグラスとマット・デイモンが共演ということで、思わず「オーシャンズ」シリーズとか「ディパーテッド」あるいは「ブラック・レイン」のようなアクションもの、硬派の話を思い浮かべてしまうところがだが、実際はさにあらず……1950~80年代にかけて米国などで人気を誇ったリベラーチェというゲイのピアノ弾きと、彼の若い愛人スコット・トーソンをめぐる話、と知ってちょっとびっくり仰天してしまった。
[Liberace Music Video & Entrance 1981]
(リベラーチェのステージを記録した映像。長い毛皮のコートを着たのがリベラーチェ、そしてロールス・ロイスの運転手としてちょっとだけ出てくるのが愛人のトーソン(作品中でマット・デイモンが演じた人物)。私は今回初めて知ったが、リベラーチェというのは「70年代に1週間で40万ドルも稼ぐ」(New York Magazine)ような超売れっ子で、このラスベガス・ヒルトンでのステージが当時はかなり有名だったらしい)
この作品、もともとは劇場上映を想定して企画されたが、登場人物や内容がセンセーショナルなあるせいか、ハリウッドの大手映画会社などからは軒並み敬遠されてしまったとか。HBOの支援が得られて、何とか実現にこぎ着けたらしい。またソダーバーグはNew York Magazineに、「なぜだかわからないがリベラーチェのことが気になって、2000年頃からこの企画のアイデアを温めていた」などと語っている。
Michael Douglas on Playing Liberace, His Son's Imprisonment, and Beating Stage-Four Cancer
いっぽうこの最新号(5月20日号)には、作品のプロモーションを兼ねたマイケル・ダグラスの特集記事が掲載されている(表紙を飾った写真は『ウォール・ストリート』などで見慣れたダグラスとはまったくちがう、女性のメイクをほどこしたものとなっている)。
記事の内容は、ダグラスの近況アップデートといった趣のもので、彼自身の闘病生活(がんとの闘い)や、ドラッグの所持で投獄された息子・キャメロンについて話、それにヒッピーをしていたという彼の若い頃のことなど、さまざまな話題が含まれるが、この記事の冒頭に「ダグラスはリベラーチェを演じる上で、巨大な男性器のことだけが唯一気がかりだった」という記述がいきなり出てくる。「リベラーチェは性交が大好きで、そのこと自体は私は問題とは思わなかった。けれども、このR指定の映画を自分の子供に見せたいと思っていたから、彼(リベラーチェ)がゲイのポルノ映画を観ているシーンで、画面上に巨大な男性器が出てくるのだけはいやだった。そこでこれは「HBOで放映されるんだから……」とソダーバーグに言って脚本を手直しさせた」などとある。
NYTimesには、この逸話の背景を補足するような話が出てくる記事がある。
The Boy Toy’s Story - NYTimes
この記事によると、リベラーチェの愛人だったトーソンはその後身を持ち崩し、いまは監獄のなかにいるという。ドラッグ常習癖が原因で1982年にリベラーチェから捨てられたトーソンは、ロサンゼルスを根城としていたエディ・ナッシュというドラッグ・ディーラーの元締めと付き合い、一時はナッシュの邸宅で暮らしていた。このナッシュの邸宅に強盗が押し入った際、有名なポルノ男優だったジョン・ホルムズがその手引きをし、ナッシュの手下になぶり殺しにされたエピソードまで紹介されている。トーソンは後に、このジョン・ホルムズ殺害事件に関して警察側の証言者になったらしい。マイケル・ダグラスがNY Magazineの記事のなかで懸念していた”巨大な男性器”とは、このジョン・ホルムズのものだと思われるが、一説には14インチもあったとされる伝説の逸物だとか……。いずれにしても、このトーソンについてのNYTimesの記事を読むと「事実は小説よりも奇なり」という言葉を思い浮かべずにはいられない。