新作アルバムが大ヒットを記録し、今また「時の人」となったジャスティン・ティンバーレイク(JT)。そのJTが4月9日にホワイトハウスで開かれた「メンフィス・ソウルの夕べ」という催しで名曲「ドック・オブ・ザ・ベイ」(Dock of The Bay)を披露した……というニュースはすでにいろんなところで報じられていると思う。


「音楽好きのオバマ大統領が、この財政逼迫の折りにまた血税を使って……」というような皮肉も一部で出ていたので、「一体どれほどのギャラでJTをこういうところに呼べるのだろうか」と疑問に思い、ちょっと検索してみたけれど、生憎と答えやその手がかりとなりそうな数字は見つからなかった。そこで、といっては何だが、今回はこのメンフィス・ソウルに関連する映像をたくさん紹介したいと思う。


[President Obama Hosts In Performance at the White House: Memphis Soul]
(ジミー・ファロンも顔負け?のMCぶりを披露するオバマ大統領)


以前に触れた通り、ホワイトハウスのこの種の催しというのは過去にも「モータウン」「ブルース」「カントリー」などいくつもの例がある(こういうニュースを目にする度に、私は大統領官邸のスタッフになりたいと思う)。今回の催しで「やるなぁ」と感心したのは出演者の人選だ。60年代に生きて歴史を作ってきた大ベテランのスターたちが目白押しだった点。サム&デイブの「サム」(サム・ムーア)やブッカー・T・ジョーンズなどは当然として、それ以外にシンディ・ローパーやクィーン・ラティファなども登場、さらに若い人を意識したのか、昨年のアメリカン・アイドルでベストスリーに残ったジョシュア・レデットなども呼ばれていた。


[In Performance at The White House Queen Latifah Performs I Can't Stand the Rain]
(ミュージカル映画『ヘアスプレー』のなかで、テレビ局の人種隔離の方針に反対して立ち上がる番組司会者役を演じていたこともあるクィーン・ラティファ)


白人のJTがそういう場に呼ばれたと聞いて一瞬意外に思ったが、彼がメンフィス出身(しかもNBAメンフィス・グリズリーズのマイノリティ・オーナー)で、現在「Tennessee Kids」というバンドまで従えて歌っていることをすぐに思いだし、文字通り思わず膝を打ってしまった次第。

メンフィス・ソウルとは何なのか、簡単に説明しておこう。まだまだ人種差別問題が色濃く影を落としていた60年代。その解消に向けた公民権運動が大いに盛り上がっていた時代だ。南部テネシー州のメンフィスにあったスタックス・レコードなどのレーベルから、白人と黒人がいっしょに制作、あるいは共演したR&B作品がリリースされ、モータウンに代表されるノーザン・ソウルと双璧をなすサザン・ソウルの一角として広く認知されるに至った。前述の「ドック・オブ・ザ・ベイ」「リスペクト」「トライ・ア・リトル・テンダーネス」などの歴史に残る名曲も生まれ、またブッカーT&MG'sやサム&デイブ、ウィルソン・ピケットのようなスターも誕生した。そういう米国の歴史のなかで果たした重要な役割についての話などが、同じ9日にホワイトハウスで開かれた高校生向けのワークショップのなかでも語られている。


[Soulsville, USA: The History of Memphis Soul Student Workshop]
(歴史をつくってきたスターらに混じって、JTもゲストで登場しているとても豪華なワークショップ。SNLやLate Nightなどのテレビ出演時とは異なり、高校生たちの質問に対して、慎重に言葉を選びながら答えていくJTの話しぶりがちょっと新鮮)


同時代に数多のヒット曲を生み出したデトロイトのモータウンに比べて、より玄人好みというか、泥臭くてファンキーな音が特徴と私は理解している。(モータウンが白人の若者までターゲットにして曲をつくっていた、そのことはモータウンの話を下敷きにしてつくられた『ドリーム・ガールズ』の映画などからも伺える)


[Booker T. & The MG's - Booker-Loo (1968)]
(今回のホワイトハウスの催しで音楽監督を務めたブッカー・T・ジョーンズらのグループ「ブッカーT&MG's」。登場する人たち、とくに女性などのファッションや踊りに注目)


このメンフィス・ソウルのなかでも、おそらくもっとも有名なアーティストがオーティス・レディングだろう。若い頃から『ブルース・ブラザーズ』『ザ・コミットメンツ』といった映画を何度も観ている者としては、「この人がいなかったら……」「この人がもっと長生きしていたら……」(26歳の時に飛行機事故で死去)などと思わずにいられない存在だが、いずれにしてもそのパワフルなパフォーマンスが当時の人々を大いに熱狂させていたことはいまYouTubeにある映像などからもはっきりと伝わってくる。JTが今回カバーした「ドック・オブ・ザ・ベイ」(いまでもテレビのCMに時々使われていたりする)のようなおとなしい曲はむしろ例外的だったのかもしれない。


[Otis Redding LIVE - My Girl/Respect - '66 - HQ]
(英国のテレビ番組に出演したオーティス・レディング。テンプテーションズのバージョンでも知られる『マイガール』、そしてアレサ・フランクリンなど多くの歌い手がカバーした『リスペクト』を披露。圧巻のパフォーマンス)


大勢のブラスセッションを後ろに従えて歌うユニット構成を見ると、現在の「JT & Tennessee Kids」とそっくりなことがよくわかる(音楽のスタイルは大きく異なるかもしれないけれど)。

さて。そんなオーティス・レディングの代表曲を何とするかは判断の難しい事柄だ、その候補に「トライ・ア・リトル・テンダーネス」が含まれることは間違いない。


[Otis Redding - Try A Little Tenderness - 1967)] (ノルウェーでのライブ映像らしい)


下掲の2つの映像はその影響力の強さを示す好例といえよう。50年近くも前のヒット曲が、こうした形で繰り返し歌われ、あるいは「本歌取り」されているというのは、ちょっと羨ましいことにも思えたりする。きっとそうしたものが「文化的な共通の基盤」として働くのかもしれない。



追記1:億万長者夫妻のキューバ旅行が物議

ビヨンセ&ジェイ・Z夫妻(B&J)が結婚5周年の記念旅行で、米国とはいまだに正式な外交関係のない「キューバに出かけた」といって、一瞬ちょっとした騒ぎになっていた。

Republican lawmakers seek details on Beyonce, Jay Z Cuba trip - Reuters
Exclusive: Beyonce, Jay-Z Cuba visit had U.S. Treasury Department OK - source - Reuters

「反カストロ政権」で支持者を集めている一部の共和党議員などから、2人の渡航が(法律で禁じられている)「観光旅行だったのではないか」などとクレームが出たというこの問題、「財務省のお墨付きをもらって行った」ということですぐに騒ぎは収まりそうに見えたものの、その後ジェイ・Zがそんなリアクションをおちょくる曲を発表、しかもそのなかにあたかも「オバマ大統領から直接許しを得て行った」というようなフレーズが出てくることから論争が再燃。この火の粉はホワイトハウスにまで降りかかり、報道官が「大統領はこの件について、ジェイ・Zとは話をしていない」と否定したという話も出ていた。

追記2:今週の衝撃映像

テレビドラマ『グリー』でジェイン・リンチ(スー先生)がなんとニッキー・ミナージュをカバー。芸よりもむしろ視覚的なインパクトがすごい?



追記3:今週の意外な映像

『レ・ミゼラブル』でオスカー女優になったアン・ハサウェイがラップを披露している(1年ほど前の映像。この人は多芸ぶりには驚かされる)



追記4 ブルース・ブラザーズのライブ映像

『サタデーナイトライブ』(SNL)というと、先ごろJTがゲストMCとして5度目の登場を果たしたり、あるいはジミー・ファロンが世に出るきっかけとなったりと、いまだによく話題になる超長寿(お笑い)番組。われわれの世代が初めてその名を知ったのは、「ブルース・ブラザーズ(ジョン・ベルーシとダン・エイクロイド)を生んだ番組」として紹介していた雑誌「Popeye」がきっかけだったように思う。