南海電鉄南海本線は、大阪府の難波駅と和歌山県の和歌山市駅を結ぶ64.2kmの路線だ。難波~住ノ江間は複々線だけど、難波~岸里玉出間は南海本線・高野線の複線が並ぶ形、岸里玉出~住ノ江間は南海本線単独の方向別複々線となっている。運行系統としての南海本線は全線複線、そのうち岸里玉出~住ノ江間が複々線だ。

和歌山市駅から先は和歌山港線があり、一体と考えて良さそうだ。和歌山港から南海グループの南海フェリーが徳島を結んでいる。関西国際空港の開業後は、泉佐野駅から空港線が分岐し、関西空港駅に乗り入れる。南海本線は大阪と和歌山を結ぶ都市間連絡の他に、大阪と四国を連絡するルート、大阪と日本全国・世界各国を結ぶルートという役割もある。しかもほぼ全区間でJR西日本の阪和線と並行し、ライバル関係にある。競争力を高める工夫が列車ダイヤに現れていそうだ。

その南海本線で、空港特急「ラピート」と12月18日公開の映画『スター・ウォーズ / フォースの覚醒』とコラボした列車が走っている。その動きを追ってみようと南海本線のダイヤを作ってみたら、奇妙な列車を見つけた。南海本線の列車種別は特急・急行・普通の3種類で「シンプルなダイヤだな」と思ったら、朝の上りに3本だけ準急がある。南海では準急行が正式名のようだけど、それにしてもなんだこれは? 『スター・ウォーズ』仕様の「ラピート」よりも、こちらのほうが貴重ではないか。

南海本線・和歌山港線平日ダイヤ(2015年12月)

南海本線に和歌山港線も加えた列車ダイヤ全体像を見る。赤線が特急、青線が急行、黒線が普通。緑が準急で、太線にして目立たせてみたけれど、列車の密度が高いため、縮小状態だと隠れてしまう。南海本線は泉佐野駅を境に列車の密度が明確に変わる。泉佐野駅から空港線が分岐し、特急「ラピート」や空港急行は空港線を走る。

普通もこの区間が多い。関西空港駅に乗り入れるか、泉佐野駅のひとつ先の羽倉崎駅で折り返す。なぜ泉佐野駅ではなく羽倉崎駅だろう? と思って、GoogleMapの航空写真を見たら、羽倉崎駅に車庫があった。南海本線・空港線の列車が忙しく行き交う泉佐野駅で折り返すより、ひとつ先の羽倉崎駅のほうが都合がいいようだ。こうした普通の増発もあることから、難波~泉佐野間は通勤需要も大きいとわかる。

一方、泉佐野~和歌山市間は運行本数が極端に減る。通勤時間帯の他は特急と普通だけ。減ったといっても、日中は1時間あたり特急2本、普通4本だから、大阪へ行く乗客も、和歌山市へ行く乗客も不自由はなさそうだ。和歌山~大阪間はJR西日本の阪和線も使える。南海本線の難波~和歌山市間は特急「サザン」で56分、920円、阪和線の天王寺~和歌山間は紀州路快速で66分、860円。いい勝負だ。

南海本線は関空特急「ラピート」が1時間に2本、本線特急「サザン」が1時間に2本、その間を急行と普通がほぼ同数で補完する。列車種別としては空港急行・区間急行などと別れるけれど、通過区間の停車駅は同じ。列車の種別を絞り込んでパターン化し、それぞれの列車をなるべく速く走らせようとしているからだろう。

さて、ラピートより気になる準急を見てみよう。

南海本線難波~羽倉崎間を拡大

準急は羽倉崎駅始発が2本、春木駅始発が1本。春木駅には折り返し用のホームがあり、難波~春木間の区間列車が設定されている。岸和田競輪場の最寄り駅で、折り返し用のホームは競艇開催時の臨時増発列車用として設置されたようだ。その設備が平日の普通の増発用に役立っている。

準急は堺駅まで各駅に停車。堺駅から難波駅までは急行と同じ。ダイヤを見ると、たしかに堺駅を境に(ダジャレか!)列車の線が立ち上がり、速度が上がっている。泉佐野駅から堺駅まではのんびりとしたもので、急行と特急を続けて待避する駅もある。それが堺駅からは俊足だ。所要時間は特急や急行と変わらず、今度は普通を追い越す立場に変わる。

なぜこんな列車が設定されているのだろう? 準急は朝の通勤ラッシュ時間帯の上りだけ。ということは、この準急は朝の通勤ラッシュ対策用の列車だ。羽倉崎駅発、春木駅発の増発列車は普通のみ。そして、住之江~堺間に注目する。この区間は追い越しできる設備がない。

きっと、この準急は普通として増発したかったのだろう。しかし、難波駅へ近づくにつれて、最も混雑した時間帯に突入すると、どこかで急行や特急に道を譲らなくてはいけない。ところが、後から近づく特急や急行が追いつきそうな堺~住之江間の途中には、待避できる駅・設備がない。そこで、「仕方ない、ここから急行になって逃げきってしまおう!」と、方向別複々線の通過線に入ってしまう。

南海電鉄のダイヤの歴史をひもとくと、かつては準急がもっと多かった。方向幕などで色を変えて、堺駅より南が各駅停車の「青準急」と、泉佐野駅から南が各駅停車の「赤準急」があった。これは乗り慣れていないとややこしい。そこで関西国際空港の開業で「ラピート」を新設したときのダイヤ改正をきっかけに、列車種別の整理を実施。「赤準急」は区間急行になり、「青準急」は準急として残した。

「青準急」は当時のダイヤ改正前はもう少し多く、下り列車もあったようだ。ダイヤ改正で全廃してすっきりしても良さそうだけど、前述の理由で、朝の上りラッシュ時に少しでも運行本数を増やすために、あえて残したと考えられる。

最後にもうひとつだけ。「ラピート」の使用車両のパターンを推理してみた。

ラピートの運用パターン

「ラピート」だけの列車ダイヤを作り、南海電鉄のウェブサイトに掲載された特急ラピート「スター・ウォーズ / フォースの覚醒」号の対象列車一覧を元に、同じ編成を使う「ラピート」を色分けした。もっとも、車両の点検などの都合で、途中から予備の編成に切り替わる場合もある。毎日の詳しい運行予定はウェブサイトを参照していただくとして、代替4本ごとに同じ編成の「ラピート」が来ると考えて良さそうだ。

本当はこっちを詳しく追っていきたかったけれど、もっと貴重な準急に心を奪われてしまった。列車ダイヤは銀河系と同じくらい奥が深い……。