関東鉄道常総線は列車ダイヤファンにとって興味深い路線だ。取手~水海道間は複線の通勤区間で、旧国鉄タイプの気動車がすれ違うこともあり、まるで昭和時代の国鉄幹線のようだ。一方、水海道~下館間は単線で、列車は駅で対向列車を待つ。ローカル線の雰囲気たっぷりだ。

列車ダイヤを見ると、水海道駅を境に通勤路線とローカル線の差がはっきり出る。複線・単線の路線といえば、東武東上線や西武池袋線などもある。「乗り鉄」にとっては都心から田舎への景色の変化も楽しい。常総線もそんな路線のひとつだ。

常総線(取手~下館間)の営業キロは51.1kmで、西武池袋線の57.8kmとほぼ同じ。西武新宿線の47.5kmより長い。妄想ダイヤでレッドアローのような特急列車を走らせてみたいけれど、いまはそれどころではない。「平成27年9月関東・東北豪雨」により、鬼怒川が決壊し、常総市内の線路が水没してしまった。9月19日時点で水海道~下妻間の運転見合わせが続き、復旧作業が行われている。今回は稼働区間の暫定ダイヤを比較してみよう。

関東鉄道常総線、平常時の平日ダイヤ

まずは平常時の平日を眺めてみよう。水海道駅を境界として、上の取手方面が複線区間、下の下館方面が単線区間だ。運行本数の違いがよくわかる。複線区間だけを見れば、朝夕の通勤・通学時間帯にしっかり増発しており、日中の運行本数も多い。都心のターミナルを発着する大手私鉄とそっくりだ。

緑色の線は快速列車で、朝ラッシュ時は下館発取手行が2本ある。ただし、途中駅での普通列車の追い越しはない。通過運転は守谷駅までで、守谷~取手間は各駅に停まる。列車の本数が多いから、スピードを上げても先行列車に追いついてノロノロ運転になる。利用客も多い。ならば各駅停車に……というわけだ。このコラムでも何度か紹介した平行ダイヤである。

快速列車は通勤・通学時間帯に設定されているけれど、ほとんどが守谷行だ。これは守谷駅でつくばエクスプレスに乗り換える利用客が多いからだろう。常総線の乗降客数の1位も守谷駅とのこと。つくばエクスプレスの快速に乗れば、守谷~秋葉原間は約35分。つまり、常総線沿線から都心までは通勤1時間圏内になっている。常総線快速で守谷駅に着くと、取手方面への普通列車に乗り継げる。取手駅はJR常磐線快速の始発駅。上野東京ラインが開通し、品川駅まで直通する。こちらも便利だ。

単線区間はローカル線の雰囲気だけど、運行本数が多い。複数の駅のすれ違い設備を活用し、ほぼ等間隔で列車を運行している。水海道駅は常総市の中心、下妻駅付近は城下町、下館駅はJR水戸線・真岡鐵道と接続する。真岡鐵道はSL列車でも有名だ。常総線にもSL列車に接続する観光快速列車があると楽しそうである。

都心への通勤圏として住宅開発が進んだ常総線だけど、常総市を中心に大規模な水害が発生し、常総線は9月10日から全面運休となった。甚大な被害であり、家を壊され、東京への通勤どころではない人々も多いけれど、鉄道の復旧は地域再生の第一歩だ。道路の被害も大きく混雑しているというから、鉄道が開通すれば、復旧作業に関わる人々も現地入りしやすくなる。関東鉄道は全線一括ではなく、区間ごとにできる限り早く復旧させていく方針で、まずは9月14日から、比較的被害の軽い下妻~下館間を復旧した。

関東鉄道常総線、9月14~15日のダイヤ

下妻~下館間で、1編成が単純往復するだけの特別ダイヤになった。この区間はすべての駅にすれ違い設備がある。平時と同じダイヤも可能だけど、それができない理由はいくつか考えられる。まず車両が足りない。常総線の車両基地は水没した水海道駅付近にあるから、この区間に車両を送り込めない。

この区間の運転休止は9月10日の8時46分だった。平常時のダイヤを見ると、通勤時間帯で複数の編成があったと思われる。1編成しか稼働していない理由は、駅のポイント操作に支障が発生したか、車両が被災し、稼働できる編成が少ないか。

関東鉄道常総線、9月16~17日のダイヤ

9月16日、取手駅側の取手~守谷間が復旧した。しかし、こちらも運行本数が少ない。理由は下館駅側と同じで、水海道から車両がやって来ないからだろう。運転休止は9月10日14時50分頃。通勤時間帯の増発列車は車庫に戻ってしまっていた。こちらは2編成をフル稼働させている。平常時のダイヤを使って間引き運転する方法もあるけれど、ダイヤは新たに作成された。少ない車両で少しでも多く列車を運行したいという、関東鉄道の意気込みが感じられる。

関東鉄道常総線、9月18日からのダイヤ

9月18日から運行区間が拡大されて、取手側は水海道駅まで復旧した。そしてダイヤは取手~守谷間を変更せず、列車をそのまま水海道駅まで延長させた。こうすると2編成では運用できない。しかし、水海道駅に待機車両がいる。被害の程度は明らかではないけれど、水海道車両基地もあり、編成数を増やせた。

取手~水海道間を平時と同様のダイヤに戻すという選択もできただろう。そうしなかった理由は、水海道~下館間や守谷駅・取手駅へ到達する利用者がいないため。あるいは水海道車両基地の被害も大きく、すぐに稼働できる車両が少ないという事情もありそうだ。また、関東鉄道の従業員自身も被災していることを忘れてはならない。

真ん中がぽっかり空いたダイヤを見ると辛い。少しでも早く、この区間に希望の汽笛が響きますように。