前回は、デットファイナンスを活用した黒字倒産の回避法について説明しました。今回は、筆者が2018年に読んだ本の中から財務担当者向けの参考文献を挙げていきます。偶然探し当てた20年以上前の書籍も含まれています。
財務担当者向けの参考文献
■財務制限条項の実態・影響・役割―債務契約における会計情報の活用
第17回でも引用した書籍ですが、本連載では取り上げていないデットファイナンスにおける財務制限条項(コベナンツ)について解説しています。財務制限条項は、信用力の低い(借入余力の小さい)企業が融資を受ける際に、金利水準や保証・担保に加えて更に譲歩する内容を指します。過去には配当制限や追加借入制限が課せられることが多かったものの、最近はEBITDA等※のキャッシュフローを意識した内容が多く利用されていると紹介されています。
※EBITDAは「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略語です。税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて計算します。融資の返済原資を推計する際に用いられます。
企業再建時のDDS・DES※を用いた経営改善計画の立て方について、ガイドラインが示されている本です。赤字の環境下で融資を申し込むケースにおいて、再建期間をどの程度に設定してどのような条件を提示すればよいのか、考える際に参考になります。金融機関に対する言葉遣いに関するアドバイスも載っていて、プレゼンテーションの前にコメントを練ることの重要性をあらためて認識しました。
※DDSは「Debt Debt Swap」の略語で、既存借入金の一部を劣後ローンに振り替える方法です。DESは「Debt Equity Swap」の略語で、既存借入金の一部を株式に振り替える方法です。財務体質の改善を目的として利用されます。
小説で有名な池井戸潤氏は、過去に実用書も執筆しております。手形割引の実務や、融資実行時に設定する担保に関する実務について解説されており、資金を貸し出す側がどのように安心材料を揃えていくのかを垣間見ることができます。また、同氏の著作「イメージと銀行の見た実力はこんなに違う 会社の格付 有名企業56社の格付を公開」の巻末付録のスコアリングシートには、金融機関側が融資を検討する際の評価ポイントが列挙されており、資料作成時の情報整理に役立ちます。例えば、債務償還年数やインタレストカバレッジレシオ、流動比率、売上高経常利益率、業歴等の数値が挙げられています。
金融機関の審査・調査の担当者が執筆した資料があります。業界毎に市場の規模や動向、関連法令、業界団体、代表的な資金ニーズ、利用できる制度融資等の情報がコンパクトにまとめられています。自社の説明資料の構成を決めるときや、内容に抜け漏れがないか確認するときに参考になります。
倒産情報や業界動向が紹介されているニュース媒体ですが、筆者は有識者の連載記事を楽しみにしています。用語解説をはじめとした基礎的なものから、金融検査マニュアルの解説のような玄人好みの読み物、弁護士が綴ったリアリティ溢れる体験談まで、内容は幅広く非常に勉強になります。
参考文献は以上です。 今年の連載は4週のみでしたが、日々の業務を通じて集めた情報を整理して提供させていただきました。2019年も、不定期ながら書き続けたいと思っております。お読みいただき、ありがとうございました。
※写真と本文は関係ありません
執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)
株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)
ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。