投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。

「私はたったこれだけで先月〇〇万円稼ぎました!」という類のネット広告をみると、「で、その前はいくら損したの?」とか、「いったい元手はいくら?」とか、心の中でツッコミを入れています。

もし、本当に元手わずかで短期間に大儲けしたとすれば、それはスッカラカンになる可能性があるようなリスクの大きい投資(ギャンブル)を行って、たまたま運よく儲けたということでしょうね。「運」は他人に伝授することはできません。

これまで、投資にはリスクがつきものだということを延々と解説してきたつもりです。では、どの程度のリスクをとってどの程度のリターンを目指すべきか。

それぞれの投資家が想定する投資期間、リスク許容度、資金的余裕などによって異なるので、正解が1つあるというわけではありません。実際のデータを参考にして、以下に考察してみましょう。

1億円でいくら稼ぎますか

元手が1億円あったとして、投資でどの程度稼げたら満足ですか(以下は、11月上旬の本稿執筆時点の情報を基にしています。税や手数料などは考慮していません)。

銀行預金のケース

安全を優先すれば、選択肢の筆頭は銀行預金でしょう。大手銀行の普通預金に預ければ、金利は年0.001%です。1億円預けて受け取る利子は税引き前(以下同じ)で1年間に1,000円。

税引き後で、かつ手数料を払って他行のATMから引き出したら、都心で満足なランチはできないかもしれません。

定期預金だと、1か月でも3年でも10年でも、金利は0.010%。普通預金の10倍ですが、それでも1年に受け取る利子は1万円。フレンチのディナー1回分程度でしょうか。

もっとも、ネットで調べると、定期預金の金利が条件次第で0.1~0.4%といった銀行もあるようです。それだと、1年に受け取る利子は10万円~40万円です。

日本の国債のケース

国債はどうでしょうか。日本の国債は期間7年までが利回りがマイナスです。したがって、償還まで8年以上を残す国債を買わなければ、利子はもらえません(ただし、個人向け国債の場合、0.05%の最低金利保証が付いているので最低で1年間に5万円です)。

10年物国債の利回りは0.1%程度なので、それに投資すれば、1年に受け取る利子は約10万円です。

ただし、市場金利の動向によって国債の価格は変動するので、満期まで持たずに国債を途中売却する場合は差損益が発生する可能性があります。売却時点の利回りが購入時点の利回りを上回れば損失、下回れば利益が発生します(これは社債や外国債券でも同じです)。

社債の利回りは国債よりも高いですが、発行元の企業が将来的にデフォルト(債務不履行)を起こすリスクを考慮しなければなりません。

外国債券のケース

外国に目を向けると、米国の10年物国債利回りは3%ちょっとです。ただし、これに1億円を投資して年間300万円の利子を受け取れるかといえば、そうとも限りません。

為替リスクがあるからです。購入時点に比べて、米ドルが対円で値上がりしていれば、300万円を超える利子が受け取れますが、逆に値下がりしていれば、受け取る利子は300万円を下回ることになります。

ちなみに、トルコの10年物国債利回りは約17%です。これに1億円を投資してトルコリラの対円相場が変わらなければ、1年に1,700万円の利子を受け取れます。利子所得だけでなかなかの暮らしができそうです。

ただし、「対円相場が変わらなければ」と仮定することはあまり現実的ではありません。トルコリラは過去10年間に年平均で11%下落しました。

トルコリラが対円で17%下落すれば、保有国債の円建て価格が1,700万円下落するので、利子分はパアになります。今年8月にはトルコリラがわずか4日間で20%下落した場面がありました。

今後、トルコリラがどうなるかは分かりませんが、保有資産の大きな割合をトルコリラ建て金融商品に投資するのはリスクが大きすぎるでしょう。

次回、騙されない投資家になるために~第16回「1億円でいくら稼ぎますか2」では、FX(外国為替証拠金取引)や株式投資に対して期待できるリターンと資産運用で目指すべきリターンについて考察します。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。