騙されない投資家になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は、金利の上昇についてです。

いきなり質問です。

「米国の金利が上昇していますが、米ドル円相場はどうなっているでしょうか」

金利上昇とは

この質問が今年9月から10月初めにかけてのタイミングで出たものなら、答えは「米ドル円は上昇している」あるいは「米ドル高円安になっている」です。

しかし、この質問が今年1月から2月にかけてのタイミングだったなら、答えは「米ドル円は下落している」あるいは「米ドル安円高になっている」となったはずです。

答えが真逆になったのは、金利上昇の性質が異なるからです。前者は「良い金利上昇」、後者は「悪い金利上昇」と判断できます。もう少し詳しく説明しましょう。

まず、ここでいう「金利」とは国債利回りのことです。主に、長期金利=10年物国債利回りを指します。市場で売買される際の金利(国債利回り)と価格は正反対の関係にあります。金利が上がれば価格は下がり、金利が下がれば価格は上がります。

良い金利上昇

さて、「良い金利上昇」は、景気が良好で企業や個人が借り入れを積極的に行う場合に起こります。金利はおカネを借りる際の料金とも言えるからです。

こうした状況下では中央銀行も利上げを行うので、政策金利(短期金利)も上昇しています。そして、景気が良好で高金利なので、外国から投資資金が流入し、自国通貨は上昇します。

足もとの米国景気は良好で、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は来年にかけて断続的に利上げを行うと予想されています。「良い金利上昇」と言えそうです。

金利上昇は株価にとって、バリュエーション(評価)の面からはマイナスです。金利上昇により国債が割安になり、株式から国債に資金が流れやすくなるからです。借り入れによって株式投資を行うハードルが高くなるとも言えます。

ただし、「良い金利上昇」のケースでは景気が良好で企業収益に対する期待が高まるので、株価はさほど下落圧力を受けないかもしれません。実際、冒頭の例では、今年10月初めに米国株の指標であるNYダウは最高値を更新していました(その後大きく下げていますが……)。

悪い金利上昇

一方、「悪い金利上昇」は、景気は低迷していても、インフレが高まって国債の魅力が低下する、あるいは財政赤字が拡大して国債発行額が増えるなどの場合に起こります。

国債に対する需要が低下する一方で、供給が増大するから、国債の価格は下落します。こうした状況下では、外国からの投資資金はあまり積極的に流入しないか、あるいは逃げ出すので、自国通貨は下落します。

また、企業収益に対する期待が高まらないなかで、金利が上昇するため、株価には下落圧力が加わります。

今年初め、昨年末に成立した「トランプ減税」によって財政赤字の拡大が懸念されました。また、米国と中国との貿易摩擦が浮上するなかで、中国が大量に保有する米国債を売却するのではないかとの警戒感もありました。米国は国債発行残高の約4割が外国によって保有されています。

したがって、米国の「悪い金利上昇」は米ドル安につながる傾向が強いように思われます。景気は比較的良好で、FRBの利上げ観測も根強かったため、「良い金利上昇」の面もありましたが、「悪い金利上昇」の側面が強かったと判断できるでしょう。

イタリアの金利上昇

最近、悪い金利上昇の典型的な例がありました。イタリアです。今年6月にポピュリストの「五つ星運動」と「同盟」による連立政権が誕生しました。

この連立政権は選挙公約の「フラット税率」や「最低所得保障」を2019年の予算に盛り込もうとしており、財政赤字が拡大するとの懸念が市場で強まりました。

イタリアの長期金利は5月初めの1.8%から10月に入って一時3.7%まで上昇しました。この間、ドイツの長期金利は0.5%前後であまり変化しませんでした。

同じ10年物で、同じユーロ通貨建ての国債でありながら、両者の利回り差が大きく拡大したのは、イタリアの財政赤字が嫌気された「悪い金利上昇」が起こったからです。

日本では、日本銀行が国債の大量購入を続けており、長期金利をゼロ%近辺に誘導しています。そのため、長期金利はほとんど動かなくなっているのが現状です。

これに対して、米国やその他の国では、長期金利が様々な材料に反応して機動的に上下動します。そして、特に長期金利が上昇した場合、白黒ハッキリしないケースもありますが、それが主に「良い金利上昇」なのか、あるいは主に「悪い金利上昇」なのかを判断することが、投資を考える上で重要な役割を果たすはずです。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。