投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。

資産運用に関してどの程度のリスクをとってどの程度のリターンを目指すべきかを考えるため、前回は預貯金や内外の債券(国債)への投資を取り上げました。その続きを見てみましょう。

  • 1億円あればどうしますか?

1億円でいくら稼ぎますか

元手が1億円あったとして、投資でどの程度稼げたら満足ですか(以下は、11月下旬の本稿執筆時点の情報を基にしています。税や手数料などは考慮していません)。

FX(外国為替証拠金取引)のケース

FXのリターンは、為替差損益とスワップ(2国間の短期金利差)の合計です。為替相場が全くのランダムに動くのであれば、期待できる差損益はゼロです。

他方、短期金利の低い国の通貨を売って高い国の通貨を買えば、スワップはプラスです。例えば、現在米ドル円を買えば(=円を売って米ドルを買う)、スワップは年間2%近くになります。

これは前回取り上げた米国の10年物国債利回りの3%程度を下回りますが、一方で債券のように市場金利の変化を反映して直接に価格が変動することはありません。

かつては、豪ドルやニュージーランドドルに投資すれば、比較的高いスワップを受け取ることができました。しかし、現在の低金利時代において、主要な先進国の中で米国の政策金利が最も高くなっています。

トルコリラやメキシコペソ、あるいは南アフリカランドといった、いわゆる新興国通貨はもっと高いスワップを提供していますが、一方で為替相場が下落するリスクも大きいと判断できます。

ところで、FXでは、レバレッジをかけてリターンを高めることもできます。例えば、上述の米ドル円で5倍のレバレッジをかければ、スワップは元手(証拠金)に対して年間10%近くになる計算です。

ただし、リスク(リターンの変動率)も5倍になります。つまり、比較的変動の小さい主要国通貨であっても、やり方次第では相当なハイリスク・ハイリターンになるということです。

なお、筆者は将来的に円安が進行する可能性が高いとみています。

そして、そうしたシナリオに備えて金融資産の一部を外貨で保有すべきと考えており、そのための一手段としてFXを勧めています(第6回「外貨を持つことの意義」、第10回「外貨投資は資産運用に不向きか」など)。

日米株式のケース

最後に株式を見てみましょう。株式は配当狙いというより値上がり期待で投資するケースが多いため、一定のリターンを想定するのはなかなか困難です。

ただ、何らかの目安を持つ必要はあるので、長期保有した場合の実績を調べてみましょう。あくまでも過去の実績であって、将来も保証されているわけではありません。

例えば、株価の指標である日経平均は2008年10月末から2018年10月末までの10年間で年平均10%上昇しました。これに配当収入(現在2%弱)が加わります。

ただし、起点となった2008年10月末はリーマンショック直後で株価が底に近いタイミングだったため、それだけ上昇率は高くなりました。

仮に、投資の起点をさらに1年遡った2007年10月末とすれば、2018年10月末までの11年間で年平均2.5%の上昇にとどまりました。

配当を含めてもリターンはせいぜい5%といったところでしょう。その場合、1億円の投資で年平均500万円の利益が期待できることになります。

もっとも、このうち比較的高い確率で毎年受け取れるのは配当分に当たる約200万円であり、残りの300万円分はあくまで過去の実績の平均値であり、年によって大きく変動する可能性があります(損失になるケースも当然あります)。

NYダウの場合、2018年10月末までの11年間に年平均5.5%上昇しました。期間を延ばして過去40年間でみれば、年平均8.5%の上昇でした。

配当利回りは日本とあまり変わらないので、この間に米ドルは対円で年平均1.2%下落したことを考慮しても、円建てで10%程度の利益は見込めるかもしれません。1億円で投資するなら年平均で約1000万円の利益となる計算です。

ただし、日本株と同じく各年のリターンはかなり不確実であり、加えて為替変動のリスクを抱えることにも留意する必要があります。

前回分と合わせて、まとめると……

期待すべきリターンは5-10%程度!?

安全性を第一に考えれば、期待すべきリターンは1%未満かもしれません。また、株式や為替という相応のリスクをとった投資でも平均すれば5-10%の期待リターンがせいぜいといったところでしょう。

つまり1億円を持っていても、運用の成果だけで裕福に暮らすのは相当難しいということです。

とりわけ、若い世代の方は、安定した収入を確保し(=職を持ち)つつ、将来に向けて無理のない範囲で資産運用を行うべきでしょう。失敗することもあるでしょうから、失敗してもリカバーできる範囲の投資で経験を積みながら、徐々にリスクの大きい投資を組み入れていくのが良いのではないでしょうか。

「70の法則」が教える投資

なお、投資には「70の法則」というものがあります。

これはリターンを再投資する複利運用を行うと仮定し、年平均リターンと運用年数をかけて70になる組み合わせの場合に保有資産が2倍になるというものです(「72」の方が実際に近いですが、計算を簡便化するためにここでは「70」とします。なお、リターンを極端に高く設定すると誤差は大きくなります)。

別の言い方をすると、リターンが10%なら資産が2倍になるのに7年、5%なら2倍になるのに14年かかる計算です。1%なら資産が2倍になるのに70年かかります。それぐらい腰を落ち着けた運用が望ましいと言えるでしょう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。