世間を騒がせた大手飲食チェーンでの迷惑動画事件では、投稿者だけでなく企業側も重大な損失を被ったことは記憶に新しいところ。採用においても、企業は候補者の人間性やネットリテラシーに、よりセンシティブになっています。この連載では現役の調査員が、採用調査や問題社員のリスク調査といった「企業調査のリアル」をお伝えします。
採用の可否に「バックグラウンドチェック」の結果を重要視する企業
前回に引き続き、中途採用のバックグラウンドチェックについて解説する。今回は、企業からの調査依頼で候補者の職歴調査とネット調査の両方の調査をしてつき止めることが出来た、ヤバイ事例を紹介していこう。
採用前調査を導入している卸売業S社は、多くの人が憧れる人気商品を扱っている。同社では過去に、商品の流通状況を取得し外部に漏らすことを目的に入社してきた人物が存在したため、採用前調査を導入することになった。経歴が申告通りであることとパーソナリティや交流関係に問題がないかの見極めを行い、信頼できる人物か確認を行う必要があるため、採用の可否にバックグラウンドチェックの結果を重要視している。
まず、「職歴調査って何? どうやってやるの?」と疑問を持つ方が多いと思うが、調査方法は、現職の勤務先や前職企業の人事部に実際に電話をかけて、現職の場合は在籍状況や評判の確認、前職の場合は申告している雇用形態や在籍期間に相違がないかを確認していく。今回はS社の販売店舗で採用を予定している候補者Cさんについて、現職での接客状況や顧客からの評判を含めトラブルがなかったかどうかの確認を行った。
前職での在籍期間にずれ、SNSの投稿で発覚したのは…
Cさんは、前職でアパレルを扱う店舗で勤務しており、「1年間勤務していた」と申告している。まず職歴調査で、前職の本社に問い合わせると、在籍期間に本人が申告する期間と大幅に時期がずれていた。次に、本人が勤務している現職の店舗に問い合わせると候補者Cさんについて「3ヵ月くらいで辞めた人ですね。いきなり辞められたのですごく迷惑でしたよ」という話を聞くことができ、「現職」と申告しているが、すでに辞めていることが発覚した。
職歴調査の結果から本人は1年間勤務していると申告しているが、実際には3ヵ月しか働いておらず、現在は無職で、実際本人には約7ヵ月の空白期間があると考えられた。
続いてネット調査を行うと、複数のSNSアカウントが発見され、特にInstagramの投稿を頻繁に行っている様子が確認された。内容を確認すると、先ほど職歴調査で発覚した7ヵ月の空白期間中に沖縄にある飲食店街で働く、いわゆる「リゾキャバ」をしていたことが確認された。「リゾキャバ」自体に問題はないが、現職での在籍を詐称していたことは、今後も何かしらの「ウソ」をつくのではないかと捉えてしまう。面接での印象が良かっただけに、正直に申告していれば何ら問題が無かった内容ではあるが、結果信用を失ってしまうことになってしまった。
面接や応募書類だけでは候補者からの申告を信じるしかなく、このような虚偽の申告を見抜くことができないため、知らずに採用してしまうことが何らかのトラブルとなってしまうことも少なくない。「こんなはずではなかった」「社会的信用を失ってしまった」なんてことにならないよう、採用前における事前のチェックは今や必須事項になってきている。
転職希望者はどう対応すべきか
企業も人材採用に慎重にならざるを得ない状況になっているのには、雇用者を守るための法律や慣習が大きく影響している。前提として、日本の企業は、一度採用したら基本的に退職の申し出や著しい問題が浮上しない限り、雇用を守り続けなければならない。
入社後に、パワハラやセクハラなど周囲に悪影響を与えるような人格でも、過去の問題行動が入社後に発覚したとしても、そう簡単には退職させられない。採用前調査の需要が増加傾向にあるのは、採用前にしっかり候補者の内面を把握する必要があり、未然に入社後のトラブルを防ぐ意味でも、採用候補者の素顔を知っておく必要があるからだ。
それでは、転職希望者側はそれにどう対応すればいいのか。面接で聞いた内容を信じるしかなかった企業が多かった時代とは異なり、現在は採用前調査を導入する企業が増え、経歴の確認をしっかりと行うため、虚偽の申告は通用しなくなっている。当然のことながら、自身の経歴に関し嘘偽りのない申告をすること、また、もし前職でのトラブルや現職への不満が理由で退職する場合でも、そのことに対し、「いかにして乗り越える方法を模索し実践したか」という点をしっかり説明する必要がある。