いまや、メインで使うSNSアカウントとは別に、趣味や情報取集など、目的ごとに複数のアカウントを使い分けることは当たり前。なかには、表には出せない情報や、他人への中傷まがいの本音をさらけ出すために“裏垢”を活用する人もいます。先ごろ回転寿司店での迷惑行為が騒動になりましたが、コンプライアンス意識の高まりを受けて、調査会社に採用者の「SNS調査」を依頼する企業も増えているそう。そこで、SNS調査の実態を探るため、“裏垢特定”サービスを提供する調査会社、企業調査センターに話を聞きました。

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SNSは「オンライン上の履歴書」-約9割のアカウントは特定できる

同社では2019年に企業専門のSNSの裏垢特定サービス「Sトク」をスタート。現在250社以上の企業と契約しているそう。

「欧米では採用選考時に、候補者の過去の経歴に虚偽や問題がないかを調査する『バックグランドチェック』が当たり前です。日本では外資系企業で行われていた程度でしたが、今では人事のほとんどが、採用候補者のSNSをチェックするようになりました。ただ、特に若い世代ではサブ垢・裏垢など5~6個を持っている人はザラにいて、担当者も採用候補者のすべてのSNSはチェックできません。そこでネット調査の手法でSNSアカウントを特定するサービスを始めたところ、多くの企業からオファーいただくようになりました」と、専務取締役の剱持さん。

SNSはいわば“オンライン上の履歴書”。その投稿を見れば、その人の性格や人柄、趣味、普段の様子など、素の一面をうかがい知ることができるため、採用の過程でSNSをチェックする流れは浸透しています。

「私たちは特に、実名以外で登録されているサブ垢・裏垢を中心にチェックします。多くの人が“裏垢は特定されない”と思っているかもしれませんが、それは甘い考え。投稿の内容だけでなく、学校名、会社名、誕生日などの情報や、ニックネーム、趣味嗜好などをヒントに絞り込んでいき、該当するSNSアカウントを探し出します。またフォロワーやフォローしている人、リプの内容も特定のヒントになります。昔の友人で繋がっているケースが多く、中学・高校時代くらいまでさかのぼって調べれば、全体の9割程に何らかのアカウントが特定でき、そのうちの半数程度がサブ垢や裏垢など複数のアカウントを持っています」

9割も! 匿名だからとウカツな投稿をしていると、痛い目を見ることになりそうですね。では実際に、裏垢でどんなことをチェックしているのでしょうか。

「誹謗中傷などの悪質な書き込みはもちろん、破産歴や犯罪歴なども見ています。裏垢で愚痴や悪口などネガティブを投稿するのは当たり前なので、侮辱や暴言の内容の悪質さの程度や回数をチェックします。新卒採用の場合は経歴などの情報が少なく、履歴書と数回の面接だけでは、なかなか“素の人柄が”見えてこないため、SNSはその人を知るための大きな情報源になります。悪質な書き込みのほかに発覚することが多いのが、未成年の飲酒や喫煙。さらに男性は下半身の露出などやらかし行為、女性はパパ活なども目立ちますね」

採用候補者のSNS、企業がチェックするポイントは

そうして裏垢の内容を隅々調べ尽くして得た情報が、依頼主の企業に提出されます。「我々は独自の基準を設けており、調べた結果をA、B、C、Dの4段階に分けて評価しています。Aは、裏垢を一切持っていない、あるいはさほど悪い情報を投稿していない場合。Bは、汚い言葉遣いや誹謗中傷など人間性を疑うような部分はあるが、許容できる範囲。Cは、先ほど申し上げたように未成年の飲酒や喫煙、下半身の露出、また闇バイトなどの犯罪に抵触する行為。さらに迷惑動画の投稿や、100回の投稿のうち80回以上が悪口に当たるような内容だったり、誹謗中傷の度が過ぎている場合。Dは、情報漏洩、犯罪歴など重大な懸念事項がある場合です。B~Dに該当するパターンは約3割にも及びます。

また、企業の業種によって注視するポイントも異なります。たとえば金融系の企業なら、借金の有無や破産歴、ギャンブル依存などお金絡みの情報が重大事項に。採用候補者がギャンブルアカウントで、「オンラインカジノでいくら負けた!」なんて投稿をしていたら、金融系の企業は警戒しますよね。製造業なら転売の有無、IT系なら情報漏洩などが懸念事項として挙げられます。それら裏垢から分かった情報に4段階の独自の判定を加えて提出しています。企業側も、採用前にしっかりと調べた方が、入社後に問題が起こりづらくなりますからね。

逆に、SNSでその人の良い一面が見えてくることもあり、それらのポジティブな情報も依頼企業に報告します。その人のポテンシャルから活躍人材を絞り込めるだけでなく、配属先の適性を見極める際に役立てているそうです。Z世代の若者は、自分の功績をひけらかすのを嫌がったり、隠す傾向がある。たとえば大きな大会で優勝した経験や、ボランティア活動をしているなどの側面がSNS調査でわかってプラスの評価につながることもあるわけです」

若気の至りかもしれないが、軽い気持ちで投稿した内容のせいで不採用になってしまうのはもったいない。だとすれば、裏垢は持たないに限るのでしょうか。

「いや、持つのは良いと思います。ただし『一度オンラインにあげたら、誰にでも見られる』ことをしっかり認識して、投稿する前に内容を吟味すべきでしょうね。就職活動を始める段階で、これまでの内容を全て消したとて、削除したアカウントでも特定できてしまうわけですから、絶対にバレたくないものは、鍵アカにすることをおすすめします。鍵アカまでは、我々も特定しませんからね。ただ、そこにもフォロワーはいて、その中の誰かがスクショしている……なんて可能性もあるので、注意は必要です」

「デジタルタトゥー」と言われるように、ひとたびオンライン上にあがった情報は、たとえアカウントを消しても、痕跡の全てを消去することはできない。それを決して忘れることなく、SNSと上手くつきあっていくネットリテラシーが、これまで以上に重要といえそうです。