ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。
本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
今回のテーマは、「仮想通貨の価値が上昇するタイミングとは」。
経済危機・金融危機による仮想通貨の価値上昇
全般的にボラティリティが高いとされる仮想通貨ですが、どんなタイミングでその価値は上昇するのでしょうか?
未来のことは誰にもわかりませんが、過去の事実を振り返ると未来が多少は見えてくるかもしれません。
これまでに仮想通貨、特にビットコインの価値が急上昇したタイミングは何度かありますが、有名なのは2013年3月に起こったキプロスショックです。この金融危機によって、ビットコインに注目が集まりました。
キプロスショックとは、キプロスと密接な関係を持つギリシャで2010年に起こった金融危機によって、キプロス国内の銀行が保有していたギリシャ国債などが、巨額の不良債権と化したことに端を発する金融危機のことです。
EUは、キプロスへの金融支援に応じますが、その条件として結果的に預金封鎖や引き出し制限を伴うことになる厳しい金融政策の実施をキプロス政府に迫りました。キプロス国民の全預金に、最大9.9%の課税をするというものです。そんなことをされたら、「預金をすぐに引き出さないと損をする」となりますよね。
案の定、銀行や金融機関には預金者が殺到し、現金を引き出せないという事態が起こりました。キプロス国民は、自国の政府、銀行や金融機関への不信感から、自分の資産を守るためにビットコインを買ったというわけです。
ビットコインを買う人が増えれば、ビットコインの価格は上昇します。ビットコインは、キプロスショックによって「政府や銀行(中央集権)の管理を受けない独自の通貨」として世界から注目されることになりました。
さらに、投資対象として投資家・投機家に注目されたことで、ビットコインの価格はますます上昇していきます。キプロスショック後にビットコインの時価総額は10億米ドルを超え、一時は1BTC=266米ドルまで跳ね上がりました。2010年、1BTC=8セントが初値だったことを考えると、実に3325倍です。
ブームによる仮想通貨の価値上昇
2016年~2017年は、仮想通貨ブームとも呼べる年でした。特に2017年は「仮想通貨元年」なんて言葉もメディアにはよく載っていましたね。
テレビで仮想通貨取引所のCMを見ることも多かったですし、SNS広告や雑誌広告、看板広告なども仮想通貨取引所の広告が多く掲載されていました。著名人や芸能人による仮想通貨関連の発言も多かったと記憶しています。
ビットコインが円建ての終値ベースの最高値をつけたのは2017年12月17日のことで、1BTC=222万7388円を記録しました。
ブームを陰で支えていた(押し上げていた)のは、ネットワーカーたちです。印象の悪い表現を使えば、マルチ商法やネズミ講となってしまいますが、ネットワークビジネスのすべてが悪なわけではないと思っています。派手であまり近寄りたくない人が多いのは事実ですが。
彼らは、独自の人脈を駆使してビットコインやICOを含むアルトコインの営業を行い、仮想通貨の存在を広めました。最初から悪意を持って投資勧誘した意図的詐欺の人たちもいたでしょうし、悪意はなく善意で投資話を広めたものの、投資案件が失敗に終わり、結果的に詐欺となってしまった人たちもいたでしょう。
意図的詐欺か結果的詐欺かは別として、あまりにも失敗とされる案件が多かったため、仮想通貨全体の印象は悪くなってしまいました。
ですが、印象の良い悪いに関わらず、仮想通貨そのものの認知度は確実に上がったと思います。これは功績といえば功績です。有名なマウントゴックス事件でも、ハッキングや横領というネガティブなニュースだったにも関わらず、ビットコインの認知度は上がり、その後価値も上昇しました。
2016年~2017年のブームで仮想通貨の認知度は上がり、各国で法整備が進み始めていますので、第50回の記事でお伝えしたように、あとは正しいモラルを持った企業や個人が正しい方向に進めていくことで、仮想通貨の普及が実現すると思っています。
新型コロナショックでは上昇せず
2020年3月現在、世界中に影響を及ぼしている新型コロナウイルスですが、ビットコインの値動きにも影響が出ました。
1BTC=100万円前後だったビットコインは、3月12日夕方から13日にかけて40%以上下落し、一時は1BTC=50万円を割り込み、45万円台を記録しました。1BTC=45万円台になったのは、2019年3月以来約1年振りのことです。
私のところにも「ビットコインが大幅に下がっていますが、大丈夫ですか?」と連絡が来ましたが、私の場合、ビットコインや仮想通貨の取引で生計を立てているわけでもないですし、何の影響もありません。むしろ大幅に下がったら買い時です。
キプロスショックのときは資産逃避先となったビットコインでしたが、今回のコロナショックでは逃避先にはならなかったということかもしれませんね。2013年の頃に比べると、仮想通貨の種類も増えましたし、仮想通貨のほかにも資産の形はさまざまあります。
選択肢が多かったため、キプロスショックのときと同じようにはならなかったということでしょう。
2020年3月中旬時点では円高になり、かつ米国金利が下がりました。世界の情勢が不透明になると円高傾向になるので、「円が安全資産とみられている」と捉えることもできますが、持っているドル資産を売却して「円での支払いに備えるため、結果的に円高になる」と捉えることもできるでしょう。
「有事の円買い」「有事のゴールド買い」「有事のビットコイン買い」など、世界情勢に不安が見られるとお金がどう動き、どの資産価値が上昇するかは、ますます読みにくくなっています。
価値を上げるのに最も有効なのは「価値が上がった」という事実
・革新的な技術情報の公開や実現
・グローバル企業や大手企業の仮想通貨事業参入
・著名人によるポジティブな発言
など、仮想通貨の価値を上げ得るニュースはいろいろとありますが、もっとも有効なニュースは「価値が上がった」という事実です。
人には「儲け損ねたくない」という心理があります。2016年~2017年の仮想通貨ブームのときも、その心理が強く働いたことで一気に仮想通貨の存在が広まったのだと思います。「価値が上がった」という事実は、儲け損ねたくないという人の心理を強く刺激するようです。
ですので、今は全体的に値を下げている仮想通貨ですが、やがて回復傾向になり、上昇していけばかつて仮想通貨を保有していたホルダーたちがまた仮想通貨市場に戻ってくるでしょう。
「しょせん投機」「仮想通貨なんてオワコン」と今は思っている人も、「儲かりそうだな」というニオイがすれば再参入してくるものです。人間の欲に限界はないですからね。一時的な値動きに一喜一憂せず、仮想通貨の未来を楽しみにする気持ちで投資するのが健全だと思います。
次回は、「コンセンサスアルゴリズム」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。