「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回のテーマは「海外投資や海外事業で失敗する3つの理由」。
失敗する理由1: 信頼関係を理由に契約書を交わさない
仮想通貨(暗号資産)投資に関することは、別稿『今からでも遅くない? 経験者が語る仮想通貨の現在とこれから』で書いてきましたので、今回は私が行っている海外事業について書きたいと思います。
私は2014年にインドネシアのバリ島へ一時的に移住し、その後、日本に帰国してから日本の税理士さんと一緒にバリ島でデベロッパー事業をしています。具体的には、ローカルの方々向けのアパート経営です。
2015年の春頃から「バリ島でなにか事業をしよう」という話が出始め、同年秋に現地へ行ってアパート投資をすることになり、翌年の2016年春頃に現地法人の登記を始めました。 現地法人の登記が完了したのは、2016年の年末のことです。その後、2017年10月に地鎮祭を行い着工。アパートが完成したのは、2018年の7月でした。完成後はすぐに満室になり、初年度のグロス(表面利回り)は12.19%、ネット(実質利回り)で10.88%でした。
ただ、現在は新型コロナウイルスの影響もあり、家賃を一律30%ほど値下げしています。
バリ島では外出禁止や外出に規制がかかっている時期がありました。観光が主な産業でありながら、入国・入島に制限がかかるというのは、死活問題です。収入の大幅減は避けられないでしょうから、家賃を下げることで住環境が安定し、少しでも現地の方々に貢献できればうれしい限りです。
アパート管理は、地主さんであり、現地法人の社員にもなってもらっている友人に任せています。その友人も「家賃を下げてもらえてよかった。観光の仕事がないから、みんな田舎に帰っている。でも中には帰れない人もいるから、アパートにいられることで安心できる人もいる」と話していました。
信頼関係で成り立っている私たちのバリ島でのデベロッパー事業・アパート経営ですが、日本の投資家や中小企業オーナーの方々とお話をしていると、思わぬ失敗パターンが見えてくることがあります。
客観的に見ると、「なぜそんなことをしてしまったのだろう……」と感じることもしばしば。多いのは、契約書を全く交わしていないケースです。
「現地のパートナーを信用している。だから、契約書は作っていない」 「パートナーが裏切るようなことはない」
そう言って、契約書を交わしていないことがあります。これは、絶対にやってはいけないパターンです。
相手との信頼関係があるからこそ、契約書はしっかりと交わした方が良いでしょう。本当に信頼関係があるなら、「契約書を交わそう」の一言くらい言えて当然です。末永いお付き合いをするためにも、契約書は絶対に交わすことをおすすめします。
契約書は、現地の言語と英文の2言語で作っておいた方が良いです。例えば、インドネシアでは最高裁で「インドネシア語以外の契約書は無効」とする判決が出ています。多くの新興国でも似た傾向があるかもしれません。必要に応じて日本語にも翻訳し、現地の法律に精通した人にリーガルチェックをしてもらうことも大切です。
契約書は、「万が一」に備えて後々トラブルにならないように、あらかじめ約束事を取り決めておくものです。トラブルになってからの対応ですと、海外の場合「時すでに遅し」ということもありますから、法的に効力のある方法で契約書を交わしてください。
失敗する理由2: 前例や実績を過信する
前例や実績があることはとても大切なことなのですが、「去年はできた」という実績がなんの根拠にもならないことがあります。「この方法で大丈夫。だって去年も、その方法でできたから」と安心していると、予想と全く異なる結果が待っているかもしれません。
特に新興国では、法律や規制がコロコロ変わる国も多いでしょう。毎年変わるのは当たり前。早ければ数カ月に一度。もっと早ければ、ほぼ毎月変わるほど。あまりにもコロコロ変わるので、だれも正確な情報をキャッチアップできていない、なんてこともあります。実際に、「ルールはそうだけど、現場の運用は違う」ということもあります。情報が末端まで行き届いていないということですね。
これは、新興国に限った話ではないかもしれません。日本でも、法律や条例などは次々と新しいものもできていますから。ただ、新興国はその変化が激しい気がします。「先月はできたけど、今月はどうかわからない」くらいの気持ちで臨む方が、精神衛生的にも良いでしょう。何事も、やってみないとわからないのです。
私たち夫婦がバリ島に移住した2014年、ビザについて調べていたとき、2011年頃からバリ島に住んでいる日本人の友人が、
「だれも正しい情報をキャッチアップできない。エージェントや役人でさえも。法律で決まっていても、窓口レベルでは解釈が違ったり、情報が下りてきてないこともある。つまり、やりながら対応・順応していくんです」
と教えてくださいました。本当に、やりながら順応していくしかありません。
それだけルールが流動的に変わると、本を読んでもあまり役に立たないことが多いです。数年前に発行された会社設立に関する本を読んでも、「こういうルールもあったんだな」くらいの認識に留めておいた方が賢明でしょう。
日本人の感覚からすれば、会社設立代行はほとんどルーチンワークに思えますが、新興国ではそうもいかないようです。2~3年前の情報でも、役に立ちません。1年前の情報でさえ、役に立たないかもしれません。1カ月前の情報でも、もしかすると……。20年近い実績があるエージェントの方でさえ、常に新しい情報を得る努力を続けています。柔軟性と忍耐力が鍛えられますね。
外国人がインドネシアで会社を設立する場合、ローカルPT(内資)とPMA(外資)の2種類があります。事業目的毎に産業番号(KBLI)を取得する必要があり、外資100%で会社を設立できるかどうかは、コロコロ変わる法律次第です。
PMA(外資)の場合、インドネシア投資調整庁(BKPM)でプレゼンテーションを行い、許可を得る必要があります。プレゼンテーションは、通訳が同席はできますが、基本的には設立予定の代表者がBKPMに出向いて行います。このプレゼンが却下されて、インドネシア進出を諦める方もいるようです。「進出すらできない」というケースもあるということですね。
日本での会社設立なら、1~2週間で完了することが多いでしょう。それがインドネシアでは約半年かかります。「なんて長いんだ……」と思いましたが、私たちは順調な方でした。日本食堂を営む日本人の方曰く、「半年でできたならラッキーだ。設立できない人だって多いんだから。良いエージェントに出会えたね」とのこと。進出すらできずにインドネシアから撤退するケースが、本当に多いそうです。
失敗する理由3: 契約は履行されると思い込む
日本ですと、「契約書に書かれていることは履行される」と認識している方が多いと思いますが、インドネシアではケースバイケースです。
契約書に「着手金の50%は、プロジェクトが廃止になった場合返還される」と記載があっても、お金が契約書のとおりに戻ってくる可能性は五分五分。「戻ってくればラッキー」くらいの認識が正しいかもしれません。
プロジェクトが廃止になったとしても、
「いや~、もうお金は使っちゃったんだ」
「親が病気になっちゃって…」
「………(音信不通)」
という反応をされることが多いでしょう。一度支払ったお金は、二度と戻ってこないと考えていた方が、後から怒る必要もありません。金額によっては一部戻ってくるかもしれませんが、労力に見合うかどうか。切り替えて次に進んだ方が良いかもしれません。
海外では先入観を捨てよう
海外不動産投資についてネットで調べると、ネガティブな情報に行きつくことがあります。具体的には、「工期が延びるのは当たり前」「物件が完成しない」「仲介者が音信不通になった」などです。
バリ島でも、「工期は延びに延びる。延びるのが当たり前」と言われていましたが、支払いが遅れなければ契約書の工期どおりに進むこともあります。私たちの場合、契約書の工期よりも1カ月ちょっと早く完成しました。これは、とてもポジティブなことですね。
一方で、「そんなことあるんだ……」ということもあります。数十年に一度の天災に自分たちが遭遇するなんてことは想像していませんでしたが、着工前にバリ島のアグン山が54年ぶりに噴火しました。噴火によって、建材の値段が少し上がりました。
今回は、インドネシア・バリ島でのアパート経営について書いてみました。読んでいると、インドネシアやバリ島での事業運営について私が深く理解しているように感じるかもしれませんが、私は現地を数パーセントしか理解できていないと思います。バリ島は、それだけ奥深いところです。これからも、想定外のことばかりが起こるのでしょう。柔軟性と忍耐力を持って続けていこうと思います。