「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、ドル建て暗号資産トレーディングファンドの「Cygnosファンド I」、ビットコイン、イーサリアム、ステーブルコイン建て暗号資産トレーディングファンドの「Cygnosファンド II」を手掛ける、シンガポール拠点のファンド運営会社・シグノスキャピタル(Cygnos Capital)の三原弘之氏にお話を伺いました。

三原弘之氏

シグノスキャピタル(Cygnos Capital) 代表取締役CEO 早稲田大学を卒業後、楽天株式会社にエンジニアとして入社し、楽天市場の開発業務に従事。2014年、ビットバンク株式会社へ社員第一号として参画し、執行役員COOとして国内最大級の仮想通貨取引所へ成長させる。仮想通貨のさらなる発展と普及を目的として、2020年にCygnos創業。2017年発売「マンガでわかるビットコインと仮想通貨」監修。

日本の仮想通貨草創期を支える

――三原さんはビットバンクさんの社員第一号であり、その後は執行役員COOとしてご活躍されたことで有名ですが、改めて自己紹介をお願いします。日本の仮想通貨業界の草創期を支えてきた方ですよね。学生時代から経済や金融にはご興味があったのですか?

三原弘之氏(以下、三原氏):ベンチャー志望ではあったのですが、必ずしもそうではなかったと思います。早稲田大学に2007年に入学して、在学中の4年間は男子寮にいました。毎日が飲み会で、毎月が体育祭という感じの生活で、骨折するほどの本気の騎馬戦をやったのも良い思い出です。

みんな金融関連や商社への就職を希望していたのですが、私はベンチャー企業で働きたいと考えていました。それで運良く楽天にエンジニアとして入社しました。その後、別のベンチャー(フィリピン)でも仕事をして、ご縁あってビットバンクの社員第一号として暗号資産(当時の名称は仮想通貨)業界に参画しました。

――ビットコインを知ったのは、フィリピンでの仕事がきっかけだったのでしょうか?

三原氏:そうですね。ビットコインの初期から関わってきた人は、みんな海外での仕事や生活を経験している人が多いと思います。利便性もあり、海外送金代わりにビットコインを送ったりもできますから。ビットバンクには2020年6月までいて、6年ほど仕事をさせていただきました。COOというとカッコ良さそうですが、資金決済法に係る業登録や業務改善の対応、海外事業者や機関投資家の対応、海外カンファレンスでの登壇など、泥臭いことも含めて貴重な経験をたくさん積ませていただきました。

――シグノスキャピタル(Cygnos Capital)を起業されたのは、コロナのはじめの頃だったのですね。

三原氏:はい。コロナ禍において「人間いつ死ぬかわからない」という思いもあって、約6年の経験で得た業界の知見や海外機関投資家とのネットワークを活かし、暗号資産の月次複利レンディングサービスを始めました。レンディングをわかりやすくいうと、貸株の暗号資産版です。

ほかにも起業のアイデアはあったのですが、レンディングサービスからスタートしました。日本ではレンディングサービスは暗号資産取引所くらいしか提供しておらず、日本の取引所のレンディングサービスはビジネスモデルも違い、市場全体の伸びもまだまだ期待できると思って。

レンディングサービスからファンドへ転換

――今は、ヘッジファンドの運用がメインになっているのですね。なぜレンディングサービスから転換しようと思ったのでしょうか?

三原氏:いずれ必ず規制が入り、事業として長続きしないのではないかと考えたからです。いつかサービスの提供をできなくなるなら、早い段階でピポット(業種転換)しようと思いました。また、ファンドにした方が投資家にとっても圧倒的に有利になると考えました。情報を公開するので、ブラックボックスがないからです。海外ではそのような選択肢があるのですが、日本ではまだありません。

それと、「暗号資産に投資しようと思ったときの選択肢が少ない」という課題感を持っていたので、選択肢を拡げることで暗号資産の普及につながり、社会的なステータスも上がっていくのではないかと思ってファンドの組成を目指すことにしました。「ビットコインで投資して暗号資産で運用し、ビットコインで増やす」という選択肢や、「ドルで投資して暗号資産で運用し、ドルで増やす」という選択肢も投資家が選べるようにしていきたかったのです。

――それはとても良いですね。株式投資でいっても、アメリカ企業の個別株に直接投資する人よりも、インデックスファンドなどに投資する人の方が多いと思います。それと同じで、まだまだネガティブなイメージもある暗号資産ですから、直接的な投資よりも間接的な投資の方がニーズがありそうです。しかし、許認可を取るのは大変だったのではないですか?

三原氏:そうですね。トークン現物への投資を行うクリプトファンドは、web3の流行もあって日本でも増えてきましたが、暗号資産を証拠金としてトレーディングを行うファンドは多くはなく、あまり前例がないので手探りで弁護士の先生と相談して意見をいただきながら進めました。日本では金商法というしっかりとした法律がありますから、その解釈についても会議を何度も重ねましたね。例えば暗号資産で出資した場合、法務面・税務面からどのように解釈されるのかを議論して、結果として日本国内向けの「Cygnosファンド I」 では暗号資産では受け付けず、すべてドルで出資を受けることになりました。

適格機関投資家等特例業務として、海外クリプトヘッジファンドの戦略へ分散投資する日本初のファンドです。ビットバンク以前から大変お世話になっている、加藤順彦さんに適格機関投資家としてご出資もいただきました。こうして今、取材を受けているのも加藤さんからのご縁ですから、とてもありがたいです。

――三原さんが拠点にされているシンガポールには、たくさんのweb3企業、暗号資産関連企業があると思います。取材に限らず、いろいろと連携していけたら嬉しいです。2020年の12月には、東南アジア最大手銀行のDBS銀行による暗号資産取引所「DBSデジタル取引所」がサービスを開始するというニュースもありました。機関投資家や個人富裕層、ファミリーオフィス向けのサービスも増えそうで楽しみですね。

(後編に続きます)