「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は「哲学的web3」と題して、ビットバンクの廣末氏、Blockchain Tech Farmの籠原氏との鼎談を行いました。

廣末紀之氏

ビットバンク株式会社 代表取締役CEO 廣末 紀之氏/野村証券株式会社を経て、GMOインターネット株式会社常務取締役、ガーラ代表取締役社長、コミューカ代表取締役社長など数多くのIT企業の設立、経営に従事。2012年ビットコインに出会い、2014年にはビットバンク株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)理事、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長を務める。また、デジタルアセットに係る新しい資産管理サービスの提供を目指す日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)でも代表を務めている。

籠原吉広氏

株式会社Blockchain Tech Farm CEO籠原 吉広氏/「ブロックチェーンを活用した新たな価値を持ったビジネスモデルの創造」「ステークホルダー資本主義経済の実現」という理念を掲げる株式会社Blockchain Tech FarmのCEO。2005年に営業コンサル会社・株式会社ANALOG WORKSを設立。同社を皮切りに保険の販売、広告代理店、飲食店経営などのさまざまな業種において営業や経営の実績を残す。2014年、ビットコインとの出会いでブロックチェーン技術分野に参入。大きな可能性を感じ、同分野の先進諸外国を訪問した。各国で先進的取り組みを経験し、ブロックチェーン事業確立のため、2017年に株式会社Blockchain Tech Farmを設立。ブロックチェーン2.0と言われる非金融部門で事業を展開している。直近では、SDGsや気候変動対策などの世界的な流れから、その先にあるべき実現社会であるサーキュラーエコノミー(循環経済)分野でビジネス展開するめたにcarbon eyes株式会社を設立し、同社でも代表を務めている。

web3の背景にある思想や哲学を理解しておく

――暗号資産のニュースというと、「価格の暴騰」「価格の暴落」「ビットコイン終了」などの話題にばかり注目が集まりがちで、業界の草創期から携わっているお二方からすると不満もあるかと思います。価格の乱高下に一喜一憂しないためには、ビットコイン誕生の背景や根底にある思想、哲学を理解しておく必要があると思うのですが、いかがでしょうか?

廣末氏:暗号資産の文脈や、その根底にある思想の理解は欠かせないと思います。ビットコインは、2008年のサトシペーパー(サトシ・ナカモト論文とも呼ばれる)の公開から始まりました。その翌年2009年には、ビットコインのブロックチェーンにおける最初のブロック(ジェネシスブロック)が生まれ、そこには「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank(和訳:イギリスの財務大臣が二度目の銀行救済の瀬戸際にいる)」というメッセージが刻まれています。これは、サトシ・ナカモトによって書かれました。この文は2009年1月3日のイギリスのタイムズ紙の記事の見出しです。リーマンショック後の中央銀行の在り方を問うているメッセージだと思います。

資本主義が発展する過程の中で金融システムも拡大し、中央集権化が進んできました。利用者保護の観点から、大きな銀行は潰せないという面があります。本来の資本主義のルールは、市場にゆだねられて淘汰されるべきは淘汰されるわけですが、実際はそうなっていません。矛盾が生じた結果、中央銀行の貨幣発行や血税で救済されるわけです。

「ケインズvs.ハイエク」と対立して語られるように、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは「大きな政府に基づいて政府は市場に介入するべきである」と主張し、一方のオーストリア・ウィーン生まれの経済学者・哲学者フリードリヒ・ハイエクは、政府の市場介入に強く反対しました。ケインズvs.ハイエクの論争は常に行われていますが、ハイエクは、『貨幣発行自由化論』で中央銀行が独占している貨幣発行権を解放し、民間が自由に貨幣を発行できるようにするべきであるという理論を展開しています。既存の金融、あるいは既得権に対するアンチテーゼであり、そんな背景がビットコイン誕生にはあると言えます。政府が通貨発行権を独占し、そこに依存する限り、通貨の乱発によるインフレ、つまり通貨の減価は免れ得ません。これを防ぐために、通貨の発行を民間にゆだねるべきではないか、というハイエクの主張です。

例えば、今回のコロナで仕事がこれまでどおりにはできないという状況があり、各国政府は救済のために財政政策を行いました。これにより救済された人もいますが、一方でインフレを招いたわけです。インフレにしても増税にしても、その代償は今の国民や未来の国民が負うことになります。ケインズ型が良く作用することもあれば、悪く作用することもあります。ハイエク型の貨幣発行は理論として存在していたものの、現実社会において主流になってはいませんでしたが、デジタル上では、ビットコインの誕生によって技術的裏付けができ、初めて実現ができるようになったのです。

しかし、ケインズ型にせよ、ハイエク型にせよ、一長一短が必ずあります。ケインズ型を中央集権型、ハイエク型を分散型(非中央集権型)としたとき、すべてが分散型であるべきとも思いません。

――「すべてが分散型であるべき」「すべてがweb3になる」といった分散原理主義者のような人もいますが、良いところと悪いところ、うまく作用することと悪く作用することがありますから、冷静に見極めることが重要ですよね。

なぜ今「分散型」に魅了される人が増えているのか

――今はweb3ブームというか、「猫も杓子もweb3」という面があると感じているのですが、集中と分散のくり返しの歴史のなかで、なぜ今「分散型」に魅了される人が増えているのだと思いますか?

籠原氏:かつて中央銀行ができて、お金ありきの経済圏、お金ありきの生活スタイルができました。人によっては、命よりも大切な存在にお金がなっていったという面もあります。お金(法定通貨)が、国家や社会の核になっていて「国に依存するから守ってほしい」という人もいますが、本当にそれで良いのか?という自問自答があります。国に依存しない、あるいは会社に依存しない自律した生き方を模索している、求めている人が増えているのではないでしょうか。それが人々の民意であり、web3ブームの背景にあると思います。

民意が反映されていない、つまり権力が集中した例として、農業で例えて言うと、買取仲介者を挙げることができます。本来、買取仲介者は生産者がいるからこそ成り立つのですが、この買取仲介者が巨大化・既得権化することで立場が逆転し、市場を動かすほどになってしまったのです。これでは生産者の民意が反映されず、分散型社会とは言えません。分散型社会は、このような既得権益からの離脱、本来人々が利益を享受できる世界への回帰と言えます。

そしてまた、ビットコインもweb3の代表です。

最初は、「ビットコインなんて詐欺だ。長く続かない」と無視されていました。ところが、政府も人々も無視できない存在になっていった。これは民意であり、世界がみている方向性だと感じます。

廣末氏:私がビットコインを知った2012年頃は、渋谷のミートアップなどのコミュニティでもハイエク信仰者や自由主義者が多かったです。参加者・ホルダーみんながwin-winになれる。そんな明るい未来を感じていたのかもしれません。

価格の乱高下に一喜一憂している場合ではない

――ビットコイン等の価格の乱高下に一喜一憂する人はまだまだ多いと思いますが、価格のことばかりが注目されるこの雰囲気はいつか終わると思いますか?

籠原氏:「1BTC=○○ドル」のように、常に法定通貨とセットで考えられてしまうので、しばらく続くと思います。コミュニティのなかで使われるトークン(暗号資産)になっていけば、コミュニティ内で価値交換ができれば良いので、わざわざ法定通貨換算する必要もなくなるのかもしれません。コミュニティはリアルだったり、メタバースだったりすると思います。

廣末氏:法定通貨が主体だから一喜一憂してしまうと思います。まだまだ社会への浸透が甘いのではないかと感じますね。ビットコインのボラティリティの高さは徐々に落ち着いていくと思いますが、この雰囲気はしばらく続くでしょう。価格の乱高下が機能性として着目されているという面もありますから。

しかし、GameFi・ブロックチェーンゲームなどで暗号資産のユースケースは拡大しており、「価格のことが二の次になる」「価格への関心度が低下していく」という可能性も感じています。私の場合、そもそも未来のイメージがありますから、一喜一憂することはありません。

――日本では、「ビットコインだけで生活している」という人はほとんどいないと思いますが、海外ではいますよね。私の場合、インドネシアで事業をしている都合でインドネシアルピアも少し持っているのですが、現地で使う分には為替のことはあまり意識しません。「物価が上がったなぁ」とは思いますが。ビットコインは、地域通貨・コミュニティ通貨であり、世界通貨でもあるわけで、「法定通貨の経済圏とビットコインの経済圏、どちらでも生活している人」が増えていけば、価格の乱高下も気にならなくなるでしょうね。

廣末氏:ビットコインの背景やルーツ、技術を理解していないことも一喜一憂してしまう原因だと思います。以前、FLOCブロックチェーン大学校というブロックチェーンやビットコインについて学べる学校を運営していたのですが、多くの人は理解する前に学ぶことをやめてしまいます。知らない単語が出てくると抵抗感があるのでしょう。まだまだ啓蒙が必要だと思います。なにか決定的なユース、例えば「ビットコインで劇的に生活コストが安くなる」とか、細かな説明が不要でベネフィットがある、本質的欲求にアプローチするユースケースが出てくると、浸透も進むと思います。価格上昇もそのひとつの要素ではありますが。

私は、GameFi、ブロックチェーンゲームはわかりやすいユースケースになり得ると感じています。新しいゲーム体験がもっと生まれていくでしょうし、「楽しいからゲームをプレイする」という極めてシンプルな動機が行動につながっています。他には、「暗号資産を持っているとモテる」とか、そういうシンプルな動機が暗号資産を持つきっかけになっても良いと思います。

籠原氏:私は最近、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に関心があって海外の事例などを調べています。オランダなどが先行しているのですが、日本以上に非金融領域のブロックチェーン活用、トークン活用が進んでいる印象です。

社名に“ブロックチェーン”とついていると、日本では未だに「どのコインが儲かりますか?」と聞かれてしまうのですが、海外はそうでもない。ブロックチェーンという言葉に対する印象・イメージがおそらく日本とは違っていて、その背景には廣末さんが仰るとおり「思想や哲学、技術への理解」が違うのだと思います。web3と言っても、日本以上にいろいろなビジネスモデル、ユースケースがあります。

例えば日本で「NFT」というと、多くの企業はNFTマーケットプレイスの開発ばかりです。web2企業が顧客の囲い込みのためや株価のためにやっているという感じですし、NFTの高額取引ばかりが注目されています。諸外国では、web3の技術でどんなことができるのか? 社会に求められているソリューションは? 社会にどんな良いインパクトを与えられるか? などに意識が向いていて、見えている世界や未来も違うのだと思います。

(後編に続きます)