「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回はゴールベースアプローチの重要性について、株式会社マネミル 代表取締役・CEOの亀山陽平氏にお話を伺いました。
亀山陽平 氏
富裕層専門FP・江上治氏との出会いが独立のきっかけに
――本日は、ありがとうございます。亀山さんとは共通の友人が複数いて、同世代ということもあって勝手に親近感を覚えています。今日は、資産運用のプロとしてインタビューさせてください。まずは自己紹介からお願いします。
亀山陽平氏(以下、亀山氏):ありがとうございます。大学を卒業後、大同生命に入社して9年ほど仕事をしました。主に、税理士/会計事務所のサポート営業をしていました。保険代理店業務を行っている税理士/会計事務所の売上アップがミッションです。在職中の9年間のうち、約2年は資産運用部門にいました。ですので、資産運用には長く親しんでいます。
2015年に、ベストセラー作家であり、富裕層専門FPとして知られる江上治氏と出会い、江上さんの講座で「全国1番になる」と宣言をして。宣言どおり、新契約高で380人中1番になることができました。独立願望はなんとなくあったのですが、宣言を実現できたことが自信になって、一歩を踏み出せたという感じですね。
一社専属で営業することに不自由さを感じていたことと、もっと自由にやりたいという気持ちもあり、独立したい気持ちも徐々に強くなっていたので2019年にフリーランスとして独立しました。それで、「じゃあ、何を仕事にして、だれにどんな貢献ができるか?」を考えて。やはり、在職中に長く携わっていた税理士/会計事務所へのサポート・コンサルティングが自分の強みだと感じていたので、そこからスタートしました。
独立当初は、何でもやって生計を立てないといけませんから、頼まれたことは何でも対応しました。例えば、「アルコール中毒のスタッフをケアしてほしい」というご依頼もあって。専門でも何でもないのですが、本を読んで必須に勉強して対応しました。
――それは、「専門の病院に行ってください」という感じの依頼ですが、対応できてしまう亀山さんが素晴らしいですね(笑)。
亀山氏: ただ、「これはずっとはできないな」と感じましたね。それで、過去の棚卸しをして。税理士の先生とアライアンスを組んで、ファイナンシャルプランニングをするということをずっとしてきたわけですから、これに絞ろうと。
税理士/会計事務所にFP事業部をつくって、そのFP事業部の責任者として入って支援をしています。現在7つの事務所に入っているのですが、身体は一つしかありませんので、対応できる数に限界があります。
それで、2021年5月に株式会社マネミルを設立して、『金融資産View』という中小企業経営者とお金の専門家をつなぐマッチングサイトを立ち上げました。専門家とチームを組むことで、対応可能なニーズや社数がグッと広がりました。
――中小企業経営者から多い相談には、どんな内容がありますか?
亀山氏: やはり多いのは、「思っていたよりお金が残らない」というご相談ですね。財務改善や資産運用のニーズは、ますます高まっていると感じています。
FPのパーパスは「顧客に伴走するコーチ」
――亀山さんが考える"理想のFP像"について教えてください。
亀山氏: FPという仕事の再定義が必要になってきていると思います。FP(ファイナンシャルプランナー)という肩書きを持っていたとしても、実態としては保険や証券、不動産などの営業です。
保険も証券も不動産も、実は資産運用の手段にすぎません。目的は、「資産を守り、増やしていくこと」なのですが、それを忘れてしまいがちです。ですので、FPは顧客に常に伴走し続けるコーチのような役割だと考えています。それがパーパス(存在意義)です。
例えば、年収は2500万円以上あり、裕福なご家庭だとしても「貯蓄は700万円ほど」というケースがあります。中小企業経営者のご家庭の場合でも、「会社の業績優先でずっとやってきたから、個人資産はほとんどない」というケースが多いです。
――そういうご相談は多いですよね。「個人資産を少しでも増やしたい」という話は、私にもときどき来ます。
亀山氏: そうなんですよね。年収2500万円であれば、日本で1%ほどしかいない裕福な層と言えるのですが、支出が多くお金が思ったより残っていないということがあります。お子さんが小さくて、「これから学費がかかるので不安」という方もいらっしゃいます。
そのようなご家庭の支出を細かく見ていくと、食費や医療費、教育費に分類されない「その他」に該当する支出が多いのです。「その他」を分解していくと、使途不明金が多いことがわかります。支出を可視化したり、可視化された支出を見直したりしていくきっかけづくりもFPの役割です。
――それは重要な役割ですね。収入が多いと、無造作にお金を使ってしまうという面もあるでしょうからね。他に亀山さんが重要と感じる役割には、どんなことがありますか?
亀山氏: 中長期的な視点に立って、資産運用を継続するためのコーチングが重要な役割だと思います。
ボストンの金融調査会社・ダルバーのレポートによると、2015年12月31日までの20年間のS&P500の毎年の平均リターンは9.85%であったのに、同期間における株式投資信託の投資家のリターンは5.19%です。このリターンの差は何か? それは、短期の価格変動に一喜一憂してしまうからです。価格が上がってくると買いたくなり、下がってくると売りたくなるという誘惑に負けてしまうのですね。
YouTubeやブログ、書籍などで資産運用の情報に触れる機会は増えました。情報は世の中に溢れているはずなのですが、資産運用で成功している人は相変わらず少なくて、10年以上増えてないという実感があります。それは、短期的に儲かる儲からないを考えてしまうからだと思います。多くの人は途中で売ってしまい、継続できない。だから、ゴール達成のために資産運用を継続させるコーチが必要です。
ゴールベースアプローチの重要性
――なるほど、確かに途中で売ってしまう人は多いですよね。最近改めて注目が集まっているビットコインなどのクリプト(暗号資産)も同様で、「持ち続けること」が難しいようです。「あのまま保有していれば、今頃は資産が何倍に…」という後悔をしている人が多いですね。
亀山氏: 長期的な視点を持っていないことが原因だと思います。「ゴールベースアプローチ」という言葉があるのですが、まずは何をゴールにするのか、その特定が重要です。そして次にシナリオ設定です。シナリオ設定は、期間を短期、中期、長期に分けて行います。株が良いのか、保険なのか、不動産なのかという投資手段の選択は、本来はゴールの特定とシナリオ設定が終わってから行うものです。ところが、「どんな投資が良いか」という投資手段の選択から入ってしまう人がほとんどです。ゴールをベースとした中長期的なアプローチの中で、定期的な資産組替などが必要になってきます。
ゴールが明確でないと、途中で気が変わったり欲にかられて売ってしまったりします。ゴールが明確であれば、そういうこともなくなりますね。
――若い人ほど、早くから資産運用を開始できますからゴールベースアプローチが重要になりますね。
亀山氏: そうですね。また、ある程度のご年齢になると資産が分散していることが多いです。どこにどんな資産があるのか忘れてしまっていることもありますから、資産の名寄せが必要になります。いわゆる「現状把握」が必要です。法人の場合は決算書があるのでわかりやすいのですが、社長個人のB/S(バランスシート)とP/L(損益計算書)をつくるサポートもしています。
長期的な資産運用5つのポイント
――長期的に資産を守り増やしていくためには、どのような視点が必要だと思いますか?
亀山氏: ポイントは5つあります。「長期的に考えること」「分散」「コツコツ」「コスト意識」「世界に視野を広げること」です。
長期的に考えることは、まさにゴールベースアプローチです。分散は、よく言われる「すべての卵を一つのカゴに盛るな」ということです。
コツコツというのは、ドルコスト平均法で投資するタイミングを分散させることです。底値で買おうとして買うタイミングを逃してしまうことがあります。いつ株価が上昇するのか、そのタイミングはだれにもわかりませんから、コツコツ積み立てていくことが大切です。
コスト意識は、手数料と税金のことです。リターンの数字ばかりに気を取られてしまい、コストに目がいかないことは多くあります。
最後の世界に視野を広げることも非常に大切で、どうしても自分の国のことにしか目がいかないことがあるのですが、日本だけでなく世界に目を向けることで多くのリターンを得られると考えています。投資は、経済活動に参加することがその本質ですから、例えばアメリカのように継続的に成長している国や、今後伸びてくる新興国に関心を持つことは有意義だと思います。
――なるほど、すごくわかりやすいですね。大きな時代の流れ、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)であったり、SX(サスティナビリティトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)などの流れは避けようがない変化だと思います。大局をつかむことができれば大きくはミスしないのですが、変な個別案件に投資して財を失ってしまうのが人間の性ですよね。
亀山氏:守・破・離という言葉がありますが、基本に忠実であることや原理原則を守ることはとても重要ですよね。千利休が遺した「規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」という歌があって、「教えを守り続けながらも、いつしかそれを打ち破り離れていくことも大切であるが、そこにある基本精神は忘れてはならない」と解釈されています。資産運用や仕事にも同じことが言えると思います。
――まったくそのとおりですね。世阿弥が記した能の理論書『風姿花伝』の中に、「核(型)に入らなければデタラメになる。核に入れば窮屈になる。核に入り核を出て、初めて自由の境地に至る」という言葉があるのですが、何事にも原理原則となる核があるのですよね。
亀山氏:資産運用の基本は、「時間を味方につけること」でもあると思います。原理原則を守って、若いうちから資産運用を始めることは、長期的な利益になりますね。
日本は「ずっとデフレ」と言われているのですが、東京都の物価推移のデータを見ると、昭和60年からの約30年で物価は約1.5倍になっています。私立大学の授業料は約2倍です。デフレデフレと言われながらも、着実にインフレしているのが日本社会です。また、税率が上がっていますから、自由に使える可処分所得は減っているわけです。預金だけでは相対的に資産が減ってしまいますから、運用ニーズが高まるのは必然です。
――コツコツできることから始めることが大切ですよね。亀山さんが今20代だったら、自己投資の観点からどんなことを学んでおきたいですか?
亀山氏:いろいろと学びたいことはありますが、あえて挙げるとすると「金融」「ブロックチェーン」「心理学」の3つですね。
「日本の金融は1950年代レベル」と、現代経営学の発明者であるピーター・F・ドラッカー氏は指摘していました。日本の金融教育の遅れはずっと前から指摘されていますが、世界の一流の人から金融を学びたいですね。今はオンラインで世界中の講座などを受講できますから。
ブロックチェーンについては、金融以外の領域でも活用されるテクノロジーで、大きな革命だと感じています。
心理学については、時代が変わっても変わらない本質というか、普遍的なものを感じていて。特に金融の領域はAIがサービス提供するようになっていくと思うのですが、それでも人間の理解は必要で、やはりお客様は人間ですから、心理学は学んでおきたいですね。
――どれも必要な知識やスキルですね。ブロックチェーンは、2020年はDeFi(分散型金融)、2021年はNFT(非代替性トークン)とDApps(自律分散型アプリケーション)がトレンドでした。2022年はGameFi(ブロックチェーンゲーム)でしょうか。新しいものがどんどん生まれてきますが、原理原則や本質、普遍的なことも忘れてはいけませんね。