「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、ASEAN不動産研究所所長や一般社団法人海外不動産協会理事長を務め、『ASEAN不動産投資の教科書』の著者でもあるエイリック代表取締役の田中圭介氏にインタビュー。

日本・ASEAN各国双方でお互いの国への企業進出を支援されている田中氏。海外不動産に関する各国の情報にも精通されています。海外不動産投資で注意すべき点、海外不動産を持つことのメリットなどについて、お話を伺いました。

  • エイリック代表取締役 田中圭介氏/ASEAN不動産研究所所長、一般社団法人海外不動産協会理事長。『ASEAN不動産投資の教科書』の著者でもある

海外進出支援・不動産情報の提供によって「海外で戦える日本人を育成したい」

――今日はありがとうございます。改めて、田中さんが代表取締役を務められている「エイリック」の事業内容を教えていただけますか?

海外不動産購入に関する勉強会やセミナーの企画開催、物件掲載などの広告事業と、海外進出支援(各種調査・法人設立支援・マーケティング支援・提携やマッチング支援などのコンサルティング事業)の大きく2つがあります。クロスボーダーで海外企業の日本進出支援もしています。

――海外不動産、海外進出に関する事業をされていると、やはりコロナの影響は受けていらっしゃいますよね。

はい。海外に行けないですし、影響は大きいですね。早く東南アジアに行きたいです(笑)。

――すみません、影響がないわけないですよね。正直今は海外進出どころではないという企業も多いと思いますが、ここ数カ月は、どんな活動をされていますか?

最近は、オンラインで現地の人たちと打ち合わせをしたり、日本の企業さんや投資家の方々とオンラインやリアルに打ち合わせをしたりしています。

現地に行けなくても、今はできることをしている感じです。東南アジアと日本をつなぐことは、ライフワークだと思ってますので。

エイリックのビジョンには、「海外で戦える日本人を育成する」というのがあります。このビジョンの実現のために、行っているのが、セミナーや進出支援などです。

――なぜ「海外で戦える日本人を育成する」というビジョンを掲げていらっしゃるんですか?

私は2011年にタイで現地法人を立ち上げ、現地不動産ポータルサイトを作りました。そのときに感じたのが、「駐在員は別として、個人は海外で戦えない」ということです。海外で戦うためには勉強が必要で、その支援や情報提供をエイリックでできたらと思っています。

例えば、野球選手だと野茂選手やイチロー選手、松井選手、サッカーだと中田選手や長友選手のように海外で活躍しているアスリートがいます。

ビジネスパーソンでも、そういう風に海外で活躍する人を増やしたい。なので、海外ではなく日本を基点に事業をしています。

よく勘違いされてしまうのですが、不動産仲介はしていません。ビジョンにないですから。

――田中さんは、海外不動産業界では稀な誠実な人でいらっしゃると、僕は感じています。ポジショントークをしないですし、ダメだと思ったらダメだと言ってくれる。目的に応じた各国の情報をバイアスなしで提供してくれるのは有難いです。普通は、タイの不動産屋さんだったらタイ贔屓になるし、インドネシアの不動産屋さんだったらインドネシア贔屓になるじゃないですか。ポジショントークとまでは言わないまでも、バイアスはかなりかかると思うんですよね。

それをしてしまうと、ビジョンから大きく離れてしまうので。やっぱり、駐在していたタイの情報は多く入ってきますし、経験からお話できることもあります。あとは、マレーシアやベトナムにも強いと思います。ですが、できる限り網羅的に、俯瞰的に情報は集めるようにしていますね。

海外不動産投資で注意すべきことは?

――ASEANの不動産投資事情に精通した田中さんにぜひお伺いしたいのですが、田中さんが海外不動産投資で注意した方が良いと感じるポイントはありますか?

たくさんあり過ぎてまとめきれないですが、「1人の人間の情報を鵜呑みにしないこと。1人から情報収集をしないこと」が、まずはありますね。

これは基本中の基本だと思います。多角的に情報を集めた方が良いです。少なくとも私は投資に関する情報であれば3人以上の方に立地や評判などを聞きますし、情報だけでいうと3つ以上のデータ元から調べるようにしています。

それと、これも当たり前のことなのですが「契約書は翻訳して読む」ことも重要です。契約主体(売主・買主)も確認してください。契約主体の名前が、契約書で初めて登場することもあります。

――今まで商談で一度も顔を見たことのない人が契約主体として登場するケースですね。

はい(笑)。ビックリしますが、ありますよね。それと、契約主体と契約金の送金先が一致しないこともあるので、それもよく確認した方が良いです。

契約書にある特約も必ず確認してください。工期が延びることはよくあるのですが、工期が延びた場合の免罪期間や違約金の有無なども要確認です。

さらに、契約書と平米や間取りが変わったり、設備が変わったりすることもあります。実際に、「部屋に窓がない」ということがありました。それでも「文句を言うな」と特約に書いてある場合があります。

部屋の広さが増えたら建設コストは上がりますし、その差額は当然請求してきます。

――日本の当たり前を海外の当たり前と思ってはいけないですよね。

そうですね。ですので、現地の大手企業や上場企業が建てた物件が安心ではあります。立地も重要ですね。上場会社であれば、なにかあれば上場廃止になるリスクはあるので、品質や契約内容はしっかりしているケースが多いです。

海外不動産投資の醍醐味とは?

――一方で、海外不動産を持つメリットや意義は何だと思いますか?

メリットは人によると思うのですが、日本だと地震や台風があって何が起きるかわからないという不安があるので、日本とは別の居場所をつくっておくことは人生のリスクを軽減させるという意味では重要だと思います。

ただそれよりも、不動産を持っておくと、現地の人やコミュニティと関わる機会ができますし、その交流が結果的に人生を豊かにすると思います。

価値上昇や家賃収入も当然重要ですが、それだけが海外不動産の魅力ではないんですよね。必ずしも海外不動産を買う必要はないと思いますが、海外にも居場所を持つということは人生の選択肢を広げて、ご自身の人生を豊かにする一助になると考えています。

――最近では、オンラインサロンも運営されていますよね。

はい、ASEAN不動産の相談・質問ができるコミュニティづくりとして始めたのですが、今後はサロンメンバーのみなさんや信頼できる人と一緒に、企業と街をデザインするようなこともしていきたいですね。

例えば、時代に取り残された物件ってあるじゃないですか。両隣は高層ビルなのに、その間に古い物件が残されてる、みたいな。

そういう場所を、地主さんから借地して運営したいなと。新興国は地価上昇が期待できる分、地主さんが強気で持ち続けるケースも多いのですけど、景観も悪いですし、そのまま放置するのは良くないと思うんですよ。

景観も悪い、収益物件でもない。放置しても良いことはないので、立地が良ければ街のために開発する。50坪とか100坪くらいの小規模で、それができたらなと思っています。

掘っ立て小屋の街並みがきれいになっていくと、象徴的な建物ができたりして街が変化していくと思うんです。

実際に、あるオランダ人が東南アジアの街で地主さんたちを集めて説得し、おしゃれなバーや飲食店エリアをつくったというエピソードがあります。

すると、そのおしゃれなエリアが近くにあることを理由に、ホテルができたり、コンドミニアムができたり。そうやって、街が変化していった。土地の価値も上がっていった。これって、街をデザインしているということですよね。

そういう発想ができる人、地主さんとの交渉ができる人って、すごく貴重だと思います。

――それは間違いないですね。

また、海外の人に日本の魅力をもっと知ってほしいとも思います。いろんな人が日本と海外を行き来することで、最終的に日本や東南アジアのためになれば、と勝手に思って活動しています。