経済産業省は東京証券取引所と共同で、2012年度より女性活用を積極的に進めた上場企業を「なでしこ銘柄」として発表している。このなでしこ銘柄に、2013年度と2014年度の2年連続して選定されたカルビー。特に2014年度は、多様な人材をいかす「ダイバーシティ経営」を推進した企業が選ばれる「ダイバーシティ経営企業100選」とのダブル受賞となった。どのような点が評価されたのか。同社人事総務部部長の高橋文子さんに話を聞いた。
”数値目標”を設定し、女性管理職が5年間で3倍に増加
「成長戦略の一環として女性を積極的に活用していこうというのは、今や特別なことではありません。ただカルビーは女性をどんどん登用していくということを、具体的に数値目標を掲げてやってきた。そこが評価されたのだと思います」と高橋さん。同社の全管理職に対して女性管理職が占める割合は、2010年は5.9%、2015年は19.8%。5年間で3倍以上に伸びた。この間、全従業員に対する女性従業員の比率は48%前後とほぼ横ばいであることから、相当チャレンジングな数字を達成してきたと言える。
この目標が比較的スムーズに達成されてきた理由として「カルビーが家庭的で温かい会社だからではないか」と高橋さんは分析する。「もともとが小さな会社でしたから、その頃からの社風が続いていて、上司と部下の距離が近い。普段からうまくコミュニケーションがとれているから、トップが示したビジョンに共感し、結果を出している」という。
「2020年までに30%」といういわゆる「2030(にいまる・さんまる)」は指導的立場の女性を全体の30%まで増やすという政府の掲げた数値目標だが、同社松本晃会長は「日本で最初の2030企業を目指す」と従業員に伝えている。女性登用に関するトップのメッセージが明確で、かつ従業員がそれに耳を傾ける風土があることで女性管理職数の飛躍的な伸びにつながった。
とはいえ急激に増えた女性管理職。女性登用の裏で男性管理職が減ることになる。ひずみはなかったのか。「ポストが減ることで男性は危機感を持っているかもしれません。ただ適材適所が進み、全体としては良い方向に向かっている」と高橋さんは言う。これまでは力のある女性でも女性だからという既成概念で指導的立場を希望しない場合もあったが、ダイバーシティの旗振りをすることで、「そのポストにつく、つかないは実力次第」という認識が社内で定着したという。
管理職も実働5時間の時短勤務が可能
新たに管理職となった女性の中には30~40代の子育て中の母親もいる。年代的にもまだまだ子育て真っ最中というケースが少なくない。家庭との両立はどうしているのか。同社には「育児短時間勤務」という、日に5時間以上働けば働き方に合わせて勤務時間を選択できる制度がある。例えば10時から16時まで、もしくは9時から15時までというような働き方を選択できるこの制度は、管理職、非管理職にかかわらず、子どもが小学3年生になるまで使えるそうだ。同社初の時短勤務執行役員となった中日本事業本部長の福山知子さんも、小学生2人を抱えながら、短時間勤務で中京、阪神地域の890名の従業員を統括してきた。
「管理職のほうが自分に裁量がある分、仕事のコントロールはしやすいかもしれません。育児短時間勤務を選んだ時点で、限られた時間で仕事をこなすことが大前提なので、仕事が終わったら早く帰りなさい、家のことも大事にしなさいというのが会社の考えです。管理職だから早く帰ってはいけないということはない」と高橋さん。
女性が会社を辞めるきっかけの1つに結婚、出産の他、管理職への登用があるといわれているが、同社では「管理職になるから辞めます」という声はほぼ聞かないという。自分に本当にできるのか不安を抱える女性は多いかもしれないが、初めて部課長に登用された女性社員には執行役員がメンターとして付くなど、バックアップ体制も整えている。管理職候補者を集めてのキャリア研修も随時行い、管理職を育てていこうという取り組みを全社的に行っている。
管理職、非管理職の区別なく取得可能な育児短時間勤務制度は、子育て中でもキャリアを重ねることができ、女性にとって心強いバックアップといえるだろう。 後編では「早期復帰感謝金」など、充実しているカルビーの育児支援策をご紹介する。