子育て社員の”働き方”に注目が集まる今、多くの企業が子育て支援の充実に力を入れ始めている。しかし、子育てしやすい環境を作っていくための方法はさまざまだ。この連載では、子育て支援の最前線を行く企業の取り組みについてご紹介する。
男性の育休取得率は100%! 「大同生命保険」
日本政府は職場における女性の活躍推進を図るため、男性の育児休業取得を促進している。男性の育児休業取得率を2020年までに13%にすることを目標に掲げているが、現状は2.30%であり、目標よりはるかに低い(厚生労働省平成26年度「雇用均等基本調査」より)。
そんな中、早々に男性の育児休業取得率100%を達成したのが大同生命保険(以下大同生命)だ。このほかにも、男性の育児参画を促進する取り組みが評価され、2015年10月には厚生労働省が主催する「イクメン企業アワード2015」でグランプリを受賞した。一体どのような取り組みをしてきたのか。同社人事総務部 人材力向上推進室長の大枝恭子さんに話をうかがった。
大同生命では、2013年度は33.3%(32名)だった男性の育児休業取得率が、2014年度には100%(107名)になった。わずか1年で飛躍的に取得率がアップした背景には、2013年4月の人事制度改定がある。従来の職群制度(総合職・エリア総合職・事務職)を廃止し、転勤の有無のみによる「全国型」と「地域型」に移行したのだ。これにより採用時には事務職であった女性も部長や支社長級まで昇進が可能になった。「会社が発展していくためには、女性の活躍が欠かせない」との考えから、まずは制度改定に踏み切ったのだという。
だが現実的には、女性が子育てをしながら役職について働き続けるのはもちろん容易なことではない。「女性のキャリアアップ推進は、仕事と家庭の両立支援と両輪で進めなければなりません。ただ、いくら制度を整えても、上司などの理解がなければ運用はうまく回らない。職場の全員が、自分たちも働きやすい環境を作っていくのだという意識を持つ必要があります」と大枝さん。そのための取り組みの1つとして、男性の育児休業取得率100%に向けて動き始めたのだ。
同社ではすでに2008年から、配偶者に子どもが誕生した社員に育児休業を取得するよう本人と上司にメールで案内していたが、人事制度改定後は、取得していない人に電話やメールで何度も連絡するようにした。さらに、上司からも本人にその趣旨を説明してもらい、より積極的な呼びかけをするように徹底。なかには取得の必要性をそれほど感じていない社員もいたが、まずは一度取得してみるよう粘り強く働きかけた。男性が育児を体験することで、育児の大変さや育児休業の重要性も理解でき、男女ともに育児休業を取得しやすい職場の雰囲気も生まれるとの考えからだ。
ちなみに同社の育児休業は、男女社員ともに最長で子どもが3歳になるまで取得可能。出生から8週間以内に取得した場合、最長2週間までは有給扱いになり、それ以外は無給扱い。実際には男性の育休取得日数は、連続3日~1週間前後を、期間中に1回取得するというケースが多いという。
労働時間を短縮し「日々の育児参加」も推進
取材を進めていくと、実は男性の育児休業取得率を100%にすることが同社のゴールではないのだという。「たとえ育児休業を1週間取得しても、3歳までのわずか1週間にすぎません。いかに日々の育児に参加できるかが重要」と大枝さん。最終的に同社が目指すところは、育児だけでなく、全ての社員が仕事も生活も充実し、いきいきした毎日を送ることのできる「ワーク・ライフ・バランスの充実」なのだという。
同社では以前から労働時間を縮減するためのさまざまな取り組みを行ってきた。2013年に始まった「リミット20」もその1つ。これは一般社員なら19時半、係長以上の役職者は20時にパソコンを自動的にシャットダウンさせるというもので、退社を徹底させるのだ。2003年には21時がリミットだったが、10年かけて1時間短縮させた。さらに月に2回は「早帰りデー」として18時半までの退社を推進。「18時半でもまだ早いとは思ってない。早く帰れるときは早く帰る。仕事はメリハリが大切」と大枝さんは力を込める。これにより社員の実労働時間は短くなった。しかし、退社時間が明確なのでその分集中して働くようになり、また仕事のスリム化も同時に進めたことで、実務に影響は出ていないという。
後編では、具体的にどのように仕事をスリム化していったのか。会議は原則45分以内という「仕事スリム化運動」などを紹介する。