あなたは「守破離」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。芸術や芸道の世界での修業の過程を表す言葉として知られ、物事に取り組む時にはまずはしっかりと型を学び、徹底的に真似る「守」に始まり、そこから違うものに触れて、これまでと違うことをやってみる「破」を経て、最終的に自分らしさやオリジナリティのあるものを生みだす「離」にたどり着けるという意味です。

実はこの考えは新人にも当てはまります。今回は若手社会人のうちになぜ守破離の精神を大切にしなければならないのか、どのようなことを具体的に意識して行動すれば良いのかをお話します。

  • 仕事の守破離の大切さを知っていますか?(写真:マイナビニュース)

    仕事の守破離の大切さを知っていますか?

仕事の基礎から本質を学ぶ

私自身も経験がありますが、若手のうちはどうしても早く仕事ができるようになりたい、効率的に結果を出したいと焦ってしまうもの。

基本的なことを教えてもらってもなんとなく面倒に感じたり、先輩や上司に対して「こんな時はどうするんですか?」とついイレギュラーな応用方法を知りたいと思ったりしたことはありませんか?

基礎的な仕事というのは細かいルールが決められて、ややもすれば退屈なルーティン作業のように感じてしまいます。しかし、決まり事やルーティン作業にも意味があり、理由があり、これまで年月をかけて、会社が大事にしてきたもの、先輩や上司が築き上げてきたものがあるのです。

もちろん同じことをずっとやり続けることが大切なのではなく、変化や効率性を考えることは必要です。ただ、それはある程度基本となるルールを守り、毎日ルーティン作業を続けていくことで、その仕事の意味を理解しより良い改善案が生まれることを忘れてはいけません。

「自己流は事故る」なんていう言葉があるくらいです。

まずはしっかりと教えてもらったことを教わった通りに行い、正しく基礎を学ぶ。それを繰り返していくうちにその仕事の本質を理解していくことで、改善点を見つけていきましょう。

型破りと形無しの大きな違い

守破離と非常に似ている言葉で「型があるから型破り。型がなければ、それはただの形無し」というものがあります。

今は亡き歌舞伎役者の中村勘三郎さんの言葉として有名で、私も座右の銘にしているほど大好きな言葉です。これは読んで字のごとく、型がある人間だから型破りができるのであって、型すらないのであれば単なる形無しにすぎない、という意味です。

ビジネスに置き換えると、若手社会人の時代に基本となる型を体得せずに自己流でスタートしてしまうと、形すらないのと同レベルであるということ。何かしらの結果を運良く出せたとしても、その後長期間にわたって成功し続けたり、レベルを上げ続けたりすることは難しいのです。

私は研修講師として日頃から、新入社員や若手社員といった若手社会人の方々から管理職社員の方々と幅広い層のビジネスパーソンに出会います。若手社会人のうちはみな平等に社会人経験や人生経験も少なく、能力的にも人としてもそこまで大差がないのが正直なところです。

しかし、5年後、10年後、15年後……と先輩社会人になっていくと、とある変化が起きます。若い人たちにとって、「将来あぁなりたいな……」と憧れられる先輩と、「こんな風にはなりたくないな……」と反面教師となる先輩になんとなく分かれてしまう。

果たしてその差は何から起こるのかと考えた時に、原因となる要素は幾つかありますが、この「型破り」な人と「形無し」な人の違いが大きいように思います。

新人の頃は若さや勢いで許されていた「形無し」は、後輩の見習うべき先輩社員として通用しないのです。

正しい敬語や言葉遣いが信頼を生む

例えば、正しい言葉遣いや敬語が使えるか、という点でも型破りな人と形無しな人には大きな差があります。

型を理解している人は、正しい言葉遣いや敬語が相手への敬意や尊重する気持ちを表現するものだと知っていて、言葉を崩す相手やタイミングを間違えることはありません。だからこそ、型破りな人は親しみやすい、気さくだと好感を持たれます。

しかし、形無しな人というのは「敬語を使わないこと=親しみやすさ」だと安易に捉え、社内や取引先の相手から不快感や上から目線だと思われてしまうことも多々あります。本人は言葉を崩しているつもりですが、ただ崩れているだけであると気付く必要があります。

ぜひ若手社会人のうちから「守」「型(破り)」を意識して、まずは仕事の基本を徹底的に大切にしていきましょう。数年後、あなたが新入社員にとって憧れのカッコいい先輩となっていることを願って。