前回解説したネルドリップの基本的な抽出法を踏まえて、今回はちょっとしたアレンジメニューを紹介する。アレンジ、と言ってもクリームやシロップを加えるのではない。「抽出時に使う湯の温度を通常より低い70℃に設定することで、味わいに変化をつけよう! 」といった少々玄人好みのアレンジ法だ。

「私の場合、ネルドリップで抽出する際には、通常80℃程度の湯を使います。しかし今回は70℃。この"たった10℃の差"が味わいに変化をもたらしてくれるのです」と語るのは、前回と同じく今回も解説を担当していただく「サザ コーヒー」の鈴木太郎さん。

アレンジメニューで使用する豆は、サザ コーヒーで販売している「徳川将軍珈琲」(1,500円 / 200g)。焙煎度はフレンチローストとイタリアンローストの中間なので、深煎りに分類されるコーヒー豆だ。「焙煎が強い豆は、高温の湯で抽出すると、苦味や渋みが出てしまいます。旨みを引き出しつつ、苦味を抑えるための方法として、70℃の湯で抽出するわけですが、そのまま飲むとぬるく感じます。そこで、抽出後に再加熱する方法を考えました」。では早速、淹れ方を紹介するとしよう。

材料(4人分=抽出量480ml):コーヒー豆(粉末) 専用スプーンすりきり5杯(50g) / 湯 適量(70℃)

作り方

1.サーバーとコーヒーカップにお湯を注ぎ、温めておく。ネルには、スプーン4杯分のコーヒー豆を入れる。
2.少量の湯を注いで、コーヒー豆を蒸らしていく。
3.蒸らしが完了したら、ゆっくりと「の」の字を書くように、湯を注ぐ。次第に泡が出てくる。茶色くてキメの細かい泡が理想。
4.サーバーを火にかけ、コーヒーを温める。直火に耐えられないサーバーの場合、小鍋にコーヒーを移して温めるとよい。
5.カップに入れていた湯を捨て、コーヒーを注ぐ。
6.完成したコーヒー。

コーヒーを加熱する際に、注意する点が1つ。コーヒーがサーバーや鍋の側面と接する部分は焦げやすくなるので、揺らしながら温めていってもらいたい。今回は深煎りの豆を使用したが、浅煎りの場合は湯の温度を高くすることで香り高いコーヒーを淹れることができる。その場合、再加熱する必要はない。

表面に浮かぶ泡はおいしさの素!?

ここで皆さんに1つ、質問をしてみたい。カップに注いだコーヒーの表面に、泡が浮かんでいることがよくある。この"泡"は取り除くべきか否か。

コーヒーに浮かぶ泡って……

私自身、数年前からこの問題に突き当たっていて、様々な専門家に質問をしてきたが明確な答えを得ることができなかった。編集者的な考えだが、コーヒーを撮影する時には"泡"はない方がいいとも思う。しかし、スプーンで取り除いてしまって本当にいいものなのか……。そんな悩める私に、鈴木さんが"目からうろこ的"な回答を寄せてくれた。

「泡はあったほうがいいのです。泡がはじける時、コーヒーの香りを周りに広げてくれますから」。なるほど……。香りも味わいの大切な要素である。泡にもコーヒーのおいしさを高める役割があったとは考えもしなかった。最後にちょっとした豆知識も得られたことで、ネルドリップの解説は今回で終了となる。みなさんはおいしいネルドリップコーヒーを淹れることができただろうか。この連載の1回目2回目にかけて紹介したコーヒープレスは、手早く抽出できるのがポイントなので忙しい朝に。ネルドリップはゆっくりとコーヒーを飲みたい休みの日に、といったように抽出器具の使い分けをしてみてはいかがだろうか。次回以降も様々な抽出器具が登場する予定なので、お楽しみに!!

サザ コーヒー 社長室室長 鈴木太郎さん
1969年創業で茨城・ひたちなか市に本店を構える「サザ コーヒー」は、鈴木さんの父・誉志男さんが開いたコーヒー専門店。現在、鈴木さんは豆の仕入れ等を担当しつつ、様々なコーヒー農園の訪問や、海外のコーヒー品評会への参加など、積極的な活動を行っている。

写真:キミヒロ