ママたちが味わってきた"理不尽"に気づいた

――育休中には、子育て中の女性が抱えているつらさや社会課題についても、気づくことがあったとか。

生後2カ月の娘を連れて、地元から都心にある会社へ挨拶に出掛けようと地下鉄に乗っていたとき、娘が何をしても泣き止んでくれず、同乗していた中年男性から舌打ちをされたことがあったんです。

普段なら笑顔でスルーできるのですが、連日の激しい夜泣きによる寝不足で、精神的にも参っていた私の心に、この舌打ちは見事にトドメを刺しました。

「子どもと一緒に電車に乗っただけなのに。私は、人様に舌打ちをされるようなことをしているのだろうか」と、暗澹たる思いでしたね。私は、ママたちがこれまで味わってきた理不尽のほんの一部を体験したと感じました。

  • 書籍より引用

それから今の日本では、「子育てしながらキャリアを積むなんてとても無理」とも思いました。

「女性の社会進出を促そう」とか「女性の役員比率を上げよう」とは言うけれど、実際にはなかなか進んでいません。「女性のやる気がないから」という考え方もあるようですが、子育て中の親はどんなに大切な仕事があっても保育園のお迎えは絶対にあるし、家に帰ってきたら家事と育児があって、さらに予測不能な事態も次から次へと起こります。

仕事に長時間を費やさなければ昇進できないようなシステムでは、とてもじゃないけれど、やっていけないと思いました。

――キャリアアップを目指さないというのも選択肢の一つですが、現状では「選択」するハードルが非常に高いということですよね。

今の女性や男性のあり方を、社会が固定化させてしまっているということが問題だと思います。家族を持ちたくても持てない人もいるし、本当は働きたくても働けない人もいる。そういった構造的な問題をなくして、みんなが本当にどうしたいのかを考えて選択できるといいですよね。もっと社会のくびきをなくして、フラットに考えられるようになったら今の一般的な「家族の形」というのは絶対に変わると思います。

――たしかに、育児において「お母さんでなければいけない」というマインドがまだまだ当たり前のように見られますよね。

お母さんにしかできないことって、実は授乳しかないんですよ。母性本能について語られることは多いですが、男性にも父性はちゃんとあって、子どもと一定期間しっかり触れ合うことで、父親になっていけることが研究でもわかっているんです。

重要なのは性差ではなく、個人差。お母さんの方が得意なこともあるし、お父さんの方が得意なこともあるはずです。その家庭ごとで、お互いに何をどう担当するかを考えていければいいと思います。

自分自身の幸せを正面から見つめてみよう

――改正育児・介護休業法が成立し、男性の育休取得には追い風が吹いているようにも思えます。この流れについてどのように受け止めていますか?

男性の新卒社員の8割が育休取得を希望しているというデータもあります。育休取得について、男性の心のあり方はすでに変わっているけれど、組織が変わらないから行動に反映されていないのが今なんですよね。

改正法では、企業の男性育休取得率が公表されることが示されています。そうなれば、今後企業も努力をすることになると思いますから、大きな変化が期待できると思います。

――男性の育休取得が増えて、さらに女性の社会進出も進めるためには、家庭単位ではどのようなことが大切なのでしょうか?

せっかく育休を取ったのに、妻から「家事や育児ができないから育休を取ってもらった意味がない」と言われてしまう男性は少なくないようです。でもきっと家事や育児ができていないのではなくて、「妻が想定する家事と育児ができない」ということだと思うんです。

ママたちは、最初は夫に対して「非効率だな」とイライラすることがあっても、中長期的な目線で見守ってもらえるといいなと思いますね。ママたちには"自分が最後の砦だ"という意識があると思いますが、思い切って1日くらいパパに子どもを預けてみるのもいいのではないでしょうか。

逆に男性側が、ちょっとイライラされたくらいですねて「じゃあもうやめた!」なんていうのは言語道断です。そしてもし信頼して子どもを預けてもらったら、ぜひこれまでのパートナーの大変さとか、苦労を想像してほしいのです。きっと、家事育児の見え方が変わると思います。

――では、会社では男性の育休取得率を上げるために、どのような取り組みが必要だと考えますか?

前職は民間企業に勤めていて、午後8時~10時くらいに仕事の電話がかかってくることも当たり前だったし、その電話は絶対に取らなければならない風習がありました。そんな風土の職場で全員が育休を取得するって、ハードルが劇的に高いじゃないですか。

でも今の職場に転職してみたら、午後6時以降は電話もかかってこないし、かかってきたとしても取らないと聞いて、とても驚きました。

日頃から業務時間内に収まるように業務設計して、顧客との関係性もしっかりと構築しておけば、それが可能なのだと気づいたんです。

――そんな職場であれば、育休中だけでなく、復職後もパパが育児に関わりやすくなりますね。個人でも職場でも社会でも、できることはまだまだたくさんあると感じます。

真面目な話になりますが、「何のために生きているか」と考えるとみんな「幸せになりたいから生きている」のではないかと思います。少なくとも僕自身は自分が幸せになりたいから頑張って生きているのですが、その幸せってなんだろうと思ったときに、家族を大切にすることは自分自身の幸せだなと感じるんです。

一人ひとりがもっと自分自身の幸せを正面から見つめることができれば、結果的に社会のより大きな幸せにつながっていくと思うんです。ですから、まずは目の前の幸せを実現するにはどうしたらいいのか、できることから始めてみていただきたいなと思います。

『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!ママの社会進出と家族の幸せのために』(前田晃平/光文社)

これからパパになるなら絶対に知っておきたい「男性育休」「長時間労働」「子育て自己責任論」「夫婦間の不平等」「日本版DBS(性犯罪者を保育・教育現場に立ち入らせない仕組み)」などを、豊富なデータに実体験を交えてわかりやすく綴ります。本書を読まずして、パパになってはいけない!