今年6月に、男性が育児休業を取得しやすくなる制度が盛り込まれた育児・介護休業法の改正法案が衆院本会議で成立しました。男性の育休取得には追い風が吹いているようにも感じられますが、まだまだ周囲には育休を経験したパパが少ないのが現状。男女ともに「夫婦での育休、うまくいくかな?」と不安に思うこともあるかもしれません。

そこで今回は、第一子の誕生にあたって2カ月の育休を取得し、著書『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!~ママの社会進出と家族の幸せのために~』を出版された前田晃平さんにインタビュー。理想通りにはいかない育休生活の現実や、育休を通して気づいた社会課題に至るまで、赤裸々に語っていただきました。

  • 撮影/白倉利恵(光文社写真室)

前田晃平さん/プロフィール


1983年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部中退。認定NPO法人フローレンスでマーケティング、事業開発に従事。政府、行政に政策を提案、実現するソーシャルアクションもおこなっている。妻と娘と3人暮らしの毎日で、子育てに奮闘中。2021年5月に『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!~ママの社会進出と家族の幸せのために~』を上梓。

「大人2人で子どもを見るなんて余裕だろう」を覆す、壮絶な育休期間

――まず、育休を取ろうと思われたきっかけを教えていただけますか?

私が勤務しているNPO法人フローレンスは、男性の育休取得率が100%の組織なので、当たり前の選択として育休を取得することになりました。ただ、今振り返ると育休の実情はあまり理解できていなくて、取得前は「なんだかんだ言って、小さい子どもを大人2人で見るんだから余裕だろう」なんて思っていたんです。

読書でもしようと本をたくさん買ってウキウキしていたくらいで……でもフタを開けてみたら、育休期間は1冊も本を読むことなんてできなかったですね(笑)。

――想定していた育休とは全く違うものだった?

育休期間は、妻の体もズタボロだし、想定していたよりもはるかに壮絶な期間でした。

例えば授乳だって、これまでメディアを通じて見たことがある神々しい授乳シーンみたいなものはうちには全くありませんでした。産後しばらくは娘もうまくおっぱいを飲めないし、妻は乳腺炎を発症していたので痛みもあるし……「授乳=修羅場」という感じだったんです。

そうした壮絶な場面を間近で見ることで、これまで男性は仕事や組織に対して責任を負う姿勢が一般的なあり方だったけれど、組織よりも家族を優先するべきなんじゃないかと考えるようになりました。

組織は、僕1人がいなくなったところで、正直いかようにでも回りますよね。だけど、この家族は自分1人がいなくなったら本当に立ち行かなくなる、そう実感しました。産後の大変な時期に、サポートする人がいないのはどう考えてもおかしいと思ったし、夫も育休を取れるなら絶対に取るべきだと感じました。

――育休は大変だけれど"取るべきものだ"と感じられたんですね。

はい、ただし大変なだけではなくて、その大変さを補って余りある幸せをもらったと思っています。僕にとって、娘の成長を間近で見られたのはすごく幸せなことでした。

今でも僕が「ただいまー」って帰ると、娘は満面の笑みで「きゃー!」って言いながらダッシュで駆け寄ってきてくれるし、こんな嬉しいことって他にないなぁって思うんです。当時からの積み上げがあるからこその今なのかなぁと思うし、妻との信頼関係も育休中に強くなったなと感じています。

夫婦喧嘩が激増した背景にあったもの

――本書では育休中の夫婦喧嘩についても赤裸々に綴っていらっしゃいますね。

育休中は家事や育児の方法を巡って妻との喧嘩が激増しました。その多くは、妻からの「なんでそういうことするの? ちょっと考えればわかるでしょ!」という一言から始まっていて、こちらとしては"良かれと思って"やったことが地雷となり妻を怒らせてしまう。しかも、なぜ怒られているのかわからない。そんなことが続きました。

――どうしてそうなってしまったのでしょうか?

「育児に関する意思決定が妻に偏っている」ことが問題だったと思います。我が家は母乳育児をしていたので、育児スケジュールは妻の授乳の状況に直結します。そのため僕は、妻の意思を優先するようになり、育児全般に関して「指示待ちマン」になっていたのです。その結果、育児に対する意識や知識に大きな差が生まれてしまいました。

もし育休を取得したいと考えている男性がいたら、陥りがちなケースだと思うので意識してみるといいかもしれません。

――その後、お互いの家事・育児についての衝突はどのように解決されていったのですか?

喧嘩になったことをきっかけに、お互いが担当している家事と育児を全てリストアップしてみました。やってみたら、まるで玉入れの後で玉の数を数えるときのように、僕のタスクリストがとっくになくなった後も、妻のタスクがいつまでもあがりつづけるんです(笑)。気づけば僕の想像を超える量のタスクが妻に偏っていました。

「こんなことになっていたのか」と目から鱗だったし、意識が劇的に変わりました。今はゆるい役割分担の中で、それぞれが主体的に家事・育児に取り組んでいます。

  • 夫婦の家事・育児の偏り(前田家の場合)/著書より引用

ただ、時間がたつとまただんだんとお互いの期待値がずれていくので、今でも喧嘩は定期的に勃発していますよ。その都度話し合って、溝が埋まり、また開いて喧嘩してということを定期的に続けていますね。

――きちんと話し合えているから改善もできるし、家族のいろいろなフェーズに合わせて変えていけるんですね。

会社の中では、同僚とのコミュニケーションやワンオーワンの重要性が認識されていますが、コミュニケーションを1番大切にしなければいけないのって、家族だと思うんです。忙しい日々の中では相当強く意識しないと話し合いの時間って確保できないので、例えば私たち夫婦は在宅ワークの間に一緒にランチをしたり、子どもを預けて2人でお出掛けしたりしています。2人だけの時間は大事だなと思います。