これを書いているのがちょうど7月7日の七夕だ。ご存じの通り、西日本は6日からとてつもない豪雨に見舞われた。

我が家は高い位置にあるので、うちが水没するようになったら、もはや日本が沈没しているレベルなので大事には至ってないが、実家の方は高校生の時台風で床下浸水し、倉庫に保管していた、エヴァンゲリオンのDB(ドスケベブック)がカピカピになった苦い思い出があるので心配である。

だが、7日現在、すっかり晴れている。もうこの年になると、カップルに対する妬みは、制服デートしている奴ら以外にはそんなになくなっており。彦星や織姫に対しても勝手にしやがれという感じである。

逆に言うと「牽牛や織女にまでムカついていた」という事実がすごいのだが、昔のインターネット野郎にノリと言うのは「クリスマスしねしね団」とか、本当にそんな感じだったのである。

最近の非リア充は、そもそもそんなに他人に興味なさそうで「賢いな」と思う。だからと言って、七夕に笹を調達して願い事をするガッツもないのだが、願掛けや神頼みは嫌いな方ではない、むしろ現状を打破できるのは神以外いない、というところまで来ている。

ここで注意したいのは、七夕や神社で願掛けをするとき「目標を言ってはならない」という点だ。

己の力で出来そうな範囲の目標を書くと「それに向かって努力しなきゃいけない感」が出てくるし、叶わなかった時「挫折したような空気」が漂ってしまう。

どうせ神とか、牛の牽引作業をしている奴とか、あやふやな物に願うのだから、願いだって絵空事にした方が良い。

よって私は、こういう時常に「二兆円」を願うようにしている。

「二兆円さえあれば」は私の口癖と言って良いが、これは非常に崇高な精神から発せられている言葉なのである。

「二兆円さえあれば」というのは、誰のせいにもしていない、本当はいろんな原因があった、他人を責めたい時もある、だがそれを全て「二兆円がなかったんだから仕方がない」と飲み込んでいるのである。

まさに罪も人も憎んでいない、ピースフルな主張である。さらに日本は、金がなければ死ぬ国であるにも関わらず「金の事を言うのは下品」という風潮がある。

私のように、原動力が金と承認欲求しかなく、金の話しかしたくなお、金のでない仕事は受けない、受ける時は必ずツイッターで「これタダなんやで」と言うように心掛けている者にとっては非常に生きづらい国である。

しかしこの「金の事を言うのは下品」は金の桁が上がれば上がるほど、下品さが反比例して下がるという現象がある。

少し前「5000兆円欲しい」が流行ったのもそのせいではないかと思う、桁が多すぎてもはや金の話をしている感じすらしないのだ。

それよりも「2,410円欲しい」と言った方が「こいつ、すたみな太郎行こうとしてるな?」とわかって品がない気がする。

だが私は一貫して「二兆円」である。

二兆という数字の由来だが、お笑いコンビFUJIWARAの原西さんの「自分はギャグを1兆個持っている」というのに対し、その亡くなられたお母さまが「私は二兆個持っている」と言ったことから、二兆という数字の美しさに魅せられたのがきっかけである。

それ以来、私の夢は全てひっくるめて「二兆円」になった。5000兆円が流行ったことにより「二兆円でいい」という奥ゆかしさをアピールできるようにもなった。

さらに、これは「生きてるだけで丸儲け」にも似た思想なのである。 「生きてるだけで丸儲け」と言う時は、おそらく「死んではないけど大損」という状態だと思う。

ただ「損した」というのではなく、生きてるんだから「儲けた」という非常にポジティブな考え方である。

それと同じように、何かで大損した時もそれが二兆円以下なら「はした金」とあきらめることができるし、二兆円以上損したと言う場合は「そんなに損出来てすごい」と考えることができる。

どんなでかい会社の倒産でも負債が二兆いっているケースはそうそうない、損出来る数字もその人間の能力がでかければでかいほど大きいのだ。

よって、七夕に願うとしたらことしも「二兆円」である。

ただここで「二兆円(非課税)」をつけるのを忘れるてはならない。私がいくらガチャ課金をしていると言っても税金に比べれば微々たるものである。

つまり私の最推しは「日本」ということになり、あのコナンの安室透さんと「同担」ということになる。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。