あけましておめでとうございます。今回のテーマは「正月」だ。これが掲載されるのは1月3日である。そもそも、盆正月やゴールデンウイークというような連休中はインターネットへのアクセスが減るのである、このコラムにおいては誰も見ていないという恐れすらある。新年早々、壮大な独り言を展開している事態になっていないだろうか。

それにも関わらず、「新年1回目は休みにしましょう」という話にならない。百貨店でさえ、正月は休もうという向きになっているのに、完全に逆走である。別に原稿料が固定だからいいが、これでアクセス歩合制だったら、担当の家は今年「喪中」になる。

作家業の方は上記のような時代逆行型クライアントが多いため休みがないのだが、会社の方は7日休みがある。長いようだが、この休みというのは年が明けたら秒速で終わる。1日は夫に実家、2日は私の実家に行ったら、もうあと1日しかない、という仕様だからだ。このお互いの実家の集まりはもう8年目だが、両実家とも寸分たがわず同じプログラムで特に何も起こらないことに定評がある。

しかし、「テンション」だけは毎年違う。まず私の実家だが、私と兄に、子孫繁栄に対する興味が著しく欠けていたため、滅びる一方である。ババアどのも米寿を迎え、ついに寝ている方が多い生活になってしまった。しかし、ババア殿のババアばかりに目を奪われノーマークだったが、親父殿も相当ジジイになっている。70越えているのだから当たり前だが、結構心配になるレベルのジジイぶりだ。

つまり、年々当実家は死の香りが強くなってきている。人は必ず歳を取って死ぬのだから仕方ないのだか、実家に行く度に、もう少し実家のことを気にかけねばな、と思いつつもなかなかそれができていないのが現状である。

そう思うと、正月などまたひとつ歳をとって死に近づくだけであり、めでたくもなんともない、と正月にしゃれこうべを持って練り歩いた一休さんは偉い。そう言いたいところだが、私が実家にしゃれこうべを持って行っても、絶対「さすが我が娘」とはならない。やはり、育て方を間違えたと思うだけだ。

つまり、一休さんは正しいことを言っているかもしれないが、社会性が著しく欠けているということだ。あと、周りhs「さすが一休さん」とか言っちゃうのが悪い。「うまいこと言っているつもりかもしれないが、スベっている」と教えてやるべきだ。

では、子どもが5人もいる夫実家の方は、樽酒をハンマーで破壊して爆笑するような明るい正月かと言うとそうでもない。義父母勢が年々加齢の影響を見せるのは当然として、その下の我々の老化も見逃せない。食欲が格段に落ちているのだ。

よって、いつものノリでオードブルなどを購入すると半分以上残る、という事態に陥り、各家庭が密閉容器につめて持って帰ることになる。正直、ああいう場で食べるオードブルというのはそんなにうまいものではない。よって正月3日間、余った大してうまくないものを食い続けることになる。

子どもは食欲旺盛、と言いたいところだが、イベントごとでは食いたいものだけ食ってあとは遊んでいる、というのが子どもというものである。その子どもとて、永遠に元気ではない。確かに未就学児勢は元気だ。むしろ、彼らだけが元気だ。

しかし、中学生ともなると、中年勢より遥かにテンションが低い。自分を思い返してみても、思春期時代の親戚の集まりなんて面倒く、できれば欠席したいものだった。参加したとしても、ずっとゲーム機やスマホをいじるか、早々に別室に移り、ひとりで過ごすものだ。私はこの思春期を、父親の実家で30近くまでやり続けた。

よって、今元気な未就学児勢が中学生になる頃には、さらに義両親勢・中年勢は老化し、子ども勢は思春期を迎え、その両者よりもテンションが低いという状態になっているはずだ。こうなると、現在滅びの国である我が実家よりも、しゃれこうべが似合う雰囲気になっている気がしてならない。

しかし、「楽しんでいる層が皆無なので今年は止めましょう」とならないのが、親戚の集まりというものだ。楽しいとか楽しくないとかの問題ではなく、出席することこそが社会性なのだろう。

そして、古いメンバーがログアウトしたり新しいメンバーがインしたりして、また親戚の集まりは盛り上がったり盛り下がったりを繰り返していく。しかし、子どもを持つ持たないは個人の自由とはいえ、この先ログアウト予定しかない我が実家には、多少申し訳ない気持ちがある。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。