漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「税金」である。

これが掲載されるころには、確定申告シーズンも大詰めを超えて、もはや「諦め」という明鏡止水の心になっている者も多いと思うが、私はすでに税理士に必要書類を送っている。

  • 税金

だが、その後税理士から何の連絡もないので、近々私の家にダンボールを持った人が大挙してくるかもしれない。

しかし、来たら来たでそのことをネタに1本は原稿を書くに決まっている。エッセイをやる奴というのはいつもそうだ。

何が起こってもまず考えるのは「書くことができた」という神経が切れている生き物なので、一度執行猶予なしの実刑を食らわせたほうが良いのだが、もちろんそれも獄中エッセイにする。

このように書くと、お前らはへこたれることがないのか、と思われるかもしれないが、意外なことにダンボールが来た瞬間はちゃんとへこんでいるのである。

ただへこみ終わった後、反省するのではなく「せっかくだからネタにしよう」と思うだけなのだ。つまり絶対反省はしないので、食らわせるなら無期懲役がいい。

すなわち、起こったことは躊躇なく書くが、書くことを作るためにわざわざ事件を起こそうとは思わないのである。

よって、ダンボールが来たらそのことをネタにするとは思うが、極力来ないように確定申告及び納税はちゃんとしているつもりだ。

しかし、ちゃんとしているつもりでも、私と税務署で「確定申告」に対して「解釈違い」を起こしている可能性はある。

確定申告の解釈に関しては税務署のほうが「公式」なので「悪いが解釈違いだ」でブロックすることもできず、従うしかない。

去年から計算は税理士に任せているのだが、それも私が渡す書類に不備があれば同じことである。

しかし、こういった故意ではない申告漏れがあるのも仕方がないのではないか。何故なら納税は国民の義務であるにも関わらず、私の記憶する限り、義務教育で確定申告の仕方を教えていないのだ。

全員が一生確定申告の必要がない会社員になるわけがないし、会社員ですら場合によっては確定申告の必要がある。そんな人生において必須と言える行為の仕方を教える授業が何故ないのだ。

因数分解とか教える時間があったら、学校は確定申告と正しい性行為の仕方を教えるべきだろう。

今の発言は因数分解が必須な分野に対して失礼だったので、撤回する。学校は、確定申告と性行為と因数分解をきちんと教えるべきだ。

学校で基礎知識を学んでいないため、人は自分に確定申告の必要が出て初めて確定申告と向き合うことになってしまうのである。

よって「領収書を取っておかないと地獄を見る」とか「無職になると次の年に住民税が来て地獄を見る」など「一度地獄に落ちて覚えるシステム」になってしまっているのである。

無知と言われればそれまでだが、常識だというなら、子供の時から教えておくべきだろう。そして「わからなかったら税理士に丸投げしろ」というところまで教えて欲しかった。

もちろん税理士に依頼すると税理士費用がかかる。そこを惜しんだり、税理士に依頼するほどでもないしという理由で、この時期に明鏡止水になったりしているフリーランスは私だけではなかった。

しかし、ついに心折れて税理士に依頼するようにした同業者は、ほぼ百発百中「もっと早く頼んでおけば良かった」と言っている。

手間がかからない、というだけではない。税理士費用自体そこまで高くない上、節税効果で「むしろプラス」だったりするのだ。

つまり、自分で確定申告をするというのは節約どころか、「時間と金、両方ドブに捨てる」という、「ただの全損」という事実が発覚するのである。

私も8年ほど謎の意地で全損させ続けたが、ついに税理士に依頼するようになり、御多分に漏れず「もっと早く頼めば」と言っている口だ。

そしてこの季節、自力でやっている人を見ると「頼めばいいのに」と、禁煙した途端、たばこを吸う人間に「まだ金払って肺汚してるの?」と言い出す奴のような状態にまでなっている。

ただ私の場合、頼んだところで、作るものが激安すぎるせいか経費自体があまりなく、結局は還付どころか追納になるケースがほとんどであり、毎年「こんなに払うなら働かなければ良かった」という、こんなに悲しいなら愛などいらなかったサウザー様状態になる。

しかし、人間はいつ働きたくても働けなくなるかわからないし、いつ税金のお世話になるかわからないのである。

税金は払い捨てではなく「困った時に自分にキャッシュバックがくる」と思って今は払うしかないだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。