漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「学校の先生」である。

モンスターペアレントという言葉が生まれて久しいが、何かあればすぐ親が学校に凸してくる昨今である。

そうかと思えば「いじめ教師」という、本来ならいじめを止める側が斬り込み隊長として先陣を切っていた事件もあった。

ともかく教職界は世紀末の様相を呈しており、「先生」を目指す人はますます減るのではと言われている。

なり手がいないとどうなるかと言うと、女が少なすぎて普通なら絶対モテないタイプの女が「姫」になってしまう「オタサーの姫」現象と同じように、本来なら絶対教師になってはいけないタイプの人間が「世紀末ティーチャー」として君臨し、学校は核の炎に包まれるという悪循環が生まれてしまう。

しかし、そういう「マッドティーチャー~怒りのクラス連帯責任~」はいつの世もいる。 むしろ、悪い意味で「おおらか」だった時代の方が多かった、とも言える。

よって30代以上に「学校の先生」の話を振ると、誰もが1人や2人、今思えば何故警察が動かなかったのか疑問な、クレイジーサイコティーチャーの話を持っているものだ。

ちなみに私は特にない。

トラウマになるような教師の思い出もなければ、人生変えてくれたような恩師もいない。

むしろ変えてもらった上で現在の「コレ」だったら、恩師に申し訳が立たない。

よって私の学校生活は、友達はいないし全く楽しくはなかったが、だからといっていじめられたりひどい目にあったり、という記憶も特にない。

もしかしてジョジョ吉良吉影が目指す「植物のような人生」というのはこういう感じなのだろうか。

だったら「つまらないから、やめとけ、やめとけ!」と例の同僚のように言うしかない。

しかし、変な教師がいなかったというわけではなく、生徒に暴言を吐いて飛ばされた教師がいたとか、当事者でないだけで、やはり「そこそこおった」のは確かなようだ。

高校の時は「生徒に手を出した」ことで飛ばされた教師の噂もあった。

娘を持つ親御さんは「明日から娘に鎖かたびらを装備させよう」と思っただろうが、待ってほしい。

私が聞いたのは「女教師が男子生徒に手を出した」という話である。つまり息子にも鎖かたびらを装備させろ。

手を出したと言っても、強制わいせつではなく、当人たちは恋愛と思っている「淫行」の方だと思う。

成年と未成年の交際に関しては本人の自由という意見もあるが、教師が生徒に手を出すというのは「育ててくだされ」と託された種もみを植えずに食ってしまうようなものだ。

北斗の拳の輩だって、奪った種もみを直で食ったりはしていなかったはずだ、非道すぎる。

このように「モヒカン肩パッド以上」が潜んでいるかもしれないのが学校だ。

しかも相手は「ジープ出勤」など、わかりやすい危険人物感を出してくれていない場合が多い。

普通にワゴンRとかで来て、普通に生徒を食ってクールに地方に去ったりするから性質が悪い。

気をつけろ、と言いたいところだが「教師注意」というのは「落石注意」と同じで、「変なのに当たりませんように」と神に祈る以外、特にできることはない。

私は悪いのにも良いのにも特には当たらなかったが、それでも印象深い先生はいる。

私が通っていたデザインの専門学校では、デザイナーやイラストレーターの人が副業で講師をやっていることが多かった。

そこでドローイングを教えているイラストレーターの先生がいた。

その先生は極めて絵が上手かったのだが、先生には向いていなかった。

私はデザインの才能がない、ということを学ぶためだけにデザイン学校に行ったのだが、実は1回デザイン展で賞をとったことがある。

どうしてとれたかというと、その先生が「全部描いた」からだ。

その先生は、生徒に教えている途中で「俺が描いた方が早い」という真理に到達することが多かったのである。

上手いだけではなく、描くのも早い。

生徒が一瞬課題から離れた隙に先生が「終わらせていた」というのは、もはや伝説である。

監督が選手にサインを出している最中に「俺がホームラン打った方が早い」となって、本当に打つのと同じだ。

選手としては優れているが、教えるのには向いていない。

もしかしたら「教える」というのは「俺がやった方が早いし上手い」との戦いなのかもしれない。親が「自分がやった方が早い」と何でもやっていたら、子どもは自分では何にもできない大人になってしまう。

その先生は「向いてねえ」と周囲も自分もわかったのか、ほどなくして講師をやめてしまった。

あまりに印象が深かったので、その先生の名前を自分の漫画のキャラクターにつけさせてもらうことにした。

その漫画は私のデビュー作となった。

もしかしたらその名前が画数的に最高で、その名前じゃなかったらデビューできなかったかもしれない。

そういった意味では恩師と言える。