今回のテーマは「兄弟との遊び」である。

これに関しては、第9話「モロファミコン世代」の項で書き尽くしたし、残念ながら、カセットコンロのガスを交互に見張りに立ちながら吸った、などというおもしろい遊びをした記憶はない。それに、正直私の兄弟に関しての話はすでに打ち止めである。

するとしたら、過保護でイケメンの兄(なぜか血がつながっていない)か、ヤンチャでツンデレな弟(どういうわけか血がつながっていない)という、実在しない兄弟の話をするしかないのだが、残念ながら私には、二次元でも「兄弟萌え」というものがないのだ。残念ながら、以前に誰もそんな話は聞いていないと思うが、実際異性の兄弟がいる人間はリアルを知っているため、兄や妹という存在に萌えを見出さない場合も多いのだそうだ。

よって残念なことに、いつもなら二次元の話をしだすと止まらなくなるのだが、こと兄弟萌に関してはこれ以上語ることができない。重ね重ね残念である。自分の頭が。

前に書いた通り、私が兄と遊んでいたのは本当に子供の時だけであり、おそらくこれから先、兄と遊ぶということはないだろう。正直、大人になってからの兄弟なんてそんなものだと思っていた。しかし、そうじゃない兄弟もどうやらいるようだ。

私の夫にも兄弟がいる。男3人兄弟で、夫は長男だ。数年前、夫と夫の両親、そして夫の弟ふたりと私という、アウェーすぎるメンツで所用に出掛けることがあった。しかも、移動の新幹線は、3人がけの席に「夫の両親と私」「3兄弟」という風に分かれたのだ。

正直、義両親と話すことなど「暑い」「寒い」「晴れ」「雨」ぐらいしかない。しかも、義両親もそんなにおしゃべりな方ではない。よって、30分もするとわれわれは完全な無言となった。目的地まで2時間。しかし、その時は銀河鉄道ぐらい果てしない道のりに感じた。そして、後ろに座っている3兄弟も同じくらい静かである。「何をしているのだろう」と私は後ろをのぞいて見た。

すると、3人はトランプをしていた。

何のことはない、と思うかもしれないが、私にとっては3人並んでコンロのガスを吸っていたぐらい衝撃的だった。ちなみに、夫たち兄弟は全員小学生というわけではない。当時でもみんな30歳ぐらいの大人である。

30過ぎた兄弟でもトランプをする。「うちの家の主食は虫です」と言われたぐらい、カルチャーショックだった。夫の家庭はBBQをする家だと先日書いたが(第11話「夏休みの思い出」を参照)、やはりこういう部分も大きな違いがある。

結局彼らは、2時間ずっとトランプをし続け、帰りの新幹線でもトランプをしていた。逆に、「トランプってそんなにおもしろい遊びだったか? 」という疑問が湧いてくるほど、トランプをしていた。大人になっても遊ぶ兄弟、というのは私にとって、二次元の血のつながってない兄弟ぐらい架空の存在だったのだが、現にすぐ近くにいたし、彼らにとってはそれが普通なのだ。

それからまた数年後、結婚するまで毎年行っていた、新潟の祖母が亡くなった。100歳の大往生である。正直、新潟は遠い。だが、何となく行かねばならぬ気がして、私は会社を休み単身新潟へ向かった。葬式は滞りなくすんだし、出席して良かったと思う。

そして帰路の新幹線は兄と2人になった。新幹線でも6時間の道のりである。ずっと一緒にいるのも気まずいので私は別の席をとろうとしたのだが、兄は「ダメだ」と言って、隣同士の席をとった。

意外であった。兄とて別に私の隣に座りたいというわけではなかったと思う。多分、心配だったのだろう。ちなみに、私はその時4歳児というわけではなく、立派に30近かった。おそらく、親から「あいつから目を離すな」的なこと言われていたのだと思うが、親にとって私がいつまでも子供であるように、兄にとって私はツンデレやツインテール、何より美少女でなくても妹は妹なのだと思った。

しかし、その6時間われわれは本当に何もしゃべらなかった、正直、義両親よりもしゃべらなかった。人間ここまで黙っていられるものかと感動すらした。当然、トランプをする雰囲気ではないし持ち合わせもない。仮に通りすがりの人が「これを」とトランプを渡して来たとしても、私は右手と左手でひとりババ抜きをするだけだろう。

私たち兄弟はどんなに一緒にいる時間があっても、遊ばないししゃべらない。おそらく、夫たちから見れば異常なのだろうが、それがうちに普通なのだから仕方がない。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。