「キャッシュレス決済」という言葉がブームになっている。この言葉は、クレジットカードに電子マネー、そして最近流行のスマートフォンを使った決済サービスなど、現金を使わず(キャッシュレス)に商品やサービスを購入することを指すが、「具体的にどのような方法があり」「利用者側にどのようなメリットがあるのか」という部分は特に気になるはず。

そこで今回は、「キャッシュレス決済入門」と題し、3回にわたってその基本的な情報をまとめていきたい。

  • 経済産業省のキャッシュレス決済の目標は2025年までに40%だという

なぜいま「キャッシュレス決済」なのか

現金を使わない決済手段は古くから日本に存在している。いまなお世間で広く利用されている「クレジットカード」も国内で誕生してから50年以上が経っており、Suicaなどの交通系ICカードに代表される「電子マネー」だけでも20年近い歴史がある。すでに日々の生活で利用されている方は多いかもしれないが、やはり気になるのは「なぜ、いまこのタイミングでことさら『キャッシュレス決済』が強調されるのか」という点ではないだろうか。

ひとつは、日本における「キャッシュレス決済比率」が世界的に見て低いことが理由に挙げられる。

キャッシュレス決済比率とは、前述の現金ではないキャッシュレス決済手段(クレジットカード、電子マネーなど)の年間決済金額合計を、年間約300兆円と言われる民間最終消費支出で割った数字だ。

2016年時点での日本のキャッシュレス決済比率は19%台で、そのうちの18%程度はクレジットカード決済が占めていた。デビットカードが広く普及している欧州や豪州での平均が50%前後で、クレジットカード利用が多い米国がそれに続く。

近年急速にキャッシュレス決済手段が発達し、実際に利用が進んでいる中国ではその比率が60%以上に達するという話もある。20%に満たない日本はそれだけ「現金主義」の国というわけだ。

政府目標として、経済産業省によって2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」が発表され(PDF資料)、この中で「現在の20%程度のキャッシュレス決済比率を2025年までに40%にまで引き上げる」という具体的なゴールが掲げられている。現在この目標達成に向け、関係各所が互いに連携する形で環境整備に向けて動いているのである。

  • キャッシュレス決済を盛り上げるため、各社からはさまざまな施策が打ち出されている。例えば、スマホ決済サービス「メルペイ」は今年のゴールデンウィーク期間中、「セブンイレブンでiD決済を行うと70%のポイントが還元される」キャンペーンを実施していた

「なんで政府の言いなりになって自分たちの生活スタイルを変えなければいけないのか」と憤る人もいるかもしれない。だが具体的な目標が設定されたいま、その達成に向けて必要な予算や設備が次々と市場に投入されつつあるわけだ。それはつまり、すでにキャッシュレス決済を利用していた人にとっても、あるいは今まで現金利用が中心だった人や小売店舗にとっても、そのメリットを存分に享受できる環境が整いつつあると言えるのではないだろうか。

顕著な例が、ソフトバンクグループ傘下のPayPayが昨年末から開催していた「100億円あげちゃうキャンペーン」だ。同キャンペーンはすでに第2弾が終了しているが、期間中はPayPayのサービスを使って買い物すれば自動的に10-20%の還元が行われるわけで、日々クレジットカードの1-2%還元でポイントを集めていたような人には魅力的に映ったかもしれない。また、これを契機にPayPayを使ってみたというキャッシュレス決済入門者の方もいたことだろう。

「キャッシュレスブーム」を賢く使う

結局のところ、この「キャッシュレス決済」の波をうまく利用するのが、その波を乗り切るための「賢い使い方」だと言える。

キャッシュレスブーム到来を機に、各社はそれぞれが提供しているサービスを積極的に利用してもらうべくさまざまなキャンペーンを打ち出している。

PayPayは好例だが、連日の報道やTVCMを通じて初めて「スマートフォン決済(スマホ決済)」「キャッシュレス」といったキーワードを知ったという人も少なくないだろう。実際、PayPayの登場以降、その知名度は自身のブランドとともに業界全体の認知度向上へとつながっていることが調査報告でわかっている。

  • PayPayが示す「ブランド認知度」と「サービス理解度」の時系列推移。2018年末から急上昇していることがわかる。実際に関係者の話を聞いていると、PayPayのキャンペーンを皮切りに一気に一般層での認知度が上昇したという

政府側の施策も見逃せない。現在展開されている施策は主に2つ。

1つは、これまでキャッシュレス対応を行っていなかったような中小の小売店が、最新のPOSレジやクレジットカードなどを処理する決済端末を導入したいと考えた場合、国が最大で4分の3まで補助金を交付し、設備導入負担を軽減してくれるというものだ。

特に今年2019年10月1日より実施が見込まれる消費税増税において、飲食物などを中心に軽減税率が適用されるため、POSのソフトウェア改修や値付けルールの変更など、小売店舗側の負担が大きくなる。

これを支援しつつ、「どうせなら最新の機材に買い換えて、(後述の)ポイント還元施策を目当てにキャッシュレス決済に対応しよう」といった形で小売店オーナーらの意欲を刺激して、国全体のキャッシュレス決済比率底上げを行っていこうというのが施策の狙いだ。

もう1つは、今年2019年10月1日より実施が見込まれる消費税増税に合わせて行われるポイント還元施策だ。

ポイント還元施策では、何らかのキャッシュレス決済手段を用いて買い物が行われた場合、チェーン店など大規模店舗で2%、中小店舗で5%のポイント還元が買い物客に行われる仕組みとなっている。

東京五輪が開催される2020年夏までの1年間弱を目処に実施され、このポイント還元を見込んで顧客を取り込めるよう小売各社でのキャッシュレス決済手段導入を促すのが大きな目的だ。

ゆえに、今年10月1日を目標にレジや決済手段を刷新する小売店は数多いるとみられ、当然ながらキャッシュレス決済手段を提供するサービス各社もキャンペーン合戦がさらに熾烈化すると見込まれる。つまり、利用者としてキャッシュレス決済を賢く使うなら「いま」というタイミングを活用しない手はないわけで、そのメリット/デメリットを把握しつつ、どのように活用していくかを理解しておく必要がある。

次回はより具体的に、キャッシュレス決済にどのような種類があり、実際にどのように活用されているのかを見ていこう。