エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第9回は俳優の藤木直人さんのことを書いていきます。現在『グッド・ドクター』(フジテレビ系 毎週木曜 22:00~)に高山誠司役で出演中の藤木さん。ドラマでこの方の白衣姿を見るのは何回目なんでしょうか。オペシーンを見ていると本当に手術しているような錯覚にとらわれてしまう……。

ただの"甘顔"で終わらない、ちょい上から目線役で一世風靡

藤木直人

『グッド・ドクター』で藤木さんが演じているのは東郷記念病院の名小児科医の高山役。当初は自閉症の医師・新堂湊(山崎賢人)に嫌悪感を感じていたものの、次第に打ち解けて仕事を任せていく。ひとりでも多くの子どもを救いたい意志が同意したからだ。が、事態は変わり、高山の恋人ででもある病院の理事長・東郷美智(中村ゆり)によって小児外科病棟の閉鎖を余儀なくされることになる……。

というのが『グッド・ドクター』のあらすじ。技術が一流なだけに、自分にも部下にも厳しい高山の役柄は今の藤木さんにはうってつけだと思う。直近でいえば『FINAL CUT』(フジテレビ系)ではスタッフに上から目線の名司会者役だった。「てえへんだ! てえへんだ!」のセリフに度肝を抜かれたけれど完全な悪役ではない、ちょっと嫌味で孤高の存在が藤木さんによく似合っていた印象がある。

"ちょい上から目線"。これが藤木さんをキャスティングするうえで欠かせないポイントだ。

藤木さんにおける"ちょい上から目線"の印象づいたのは『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系 2007年)で演じた「ぶちょお!」こと高野誠一役。偶然にも一つ屋根の下で暮らすことになってしまった部下と、いつの間にか惹かれ合う物語。でも当初はドSキャラで登場、まさか恋仲になってなるわけがないと思っていた心がだんだん溶けていく。この溶け加減の表現が藤木さんは素晴らしい。

今回の作品で、

「おまえは医者失格だ! 今回は運が良かっただけだ。運が悪かったら、ふたりとも死なせていた」

と、高山が湊を突き飛ばして憤慨したシーンが話題に上がった。もちろんここだけではなく、自閉症患者に対する対応がいかがなものかという主旨だ。ただ私は視聴していて大した違和感を感じることはなかった。それは藤木さんが先述の溶け加減をよーく知っているからこそ、厳しい態度の高山を表現しているのだろうという予測があった。何か藤木さんと取引をしているわけではないけれど、なんだろうこの信頼感は。

俳優→私生活臭ゼロスタイルの先駆けに

ドラマヲタの私が藤木直人さんと言われて思い出す作品といえば『ナースのお仕事3』(フジテレビ系 2000年)の高杉健太郎役。主役の朝倉いずみ(観月ありさ)の彼氏・研修医役で登場した。あ、また医者だ。当時まだ20代の藤木さんがちょっと頼りない男子を演じていたのだけど、甘顔にピンときてしまった。

それからテレビでよく見かける人になったけれど、彼に対してさらに興味がわいた理由がもうひとつある。それは徹底してプライベートを見せない、匂わせない、感じさせないこと。

今でこそ芸能人が我が子のパーソナル情報は伏せるようになった。でも彼が結婚したと言われている2000年付近はあのキムタクでさえも、子どもの名前をマスコミに発表するような慣例があったのに、藤木さんはまったく情報を開示しない。

もう周知だけれど『おしゃれイズム』(日本テレビ系)でパーソナリティを務めるも「いや~、ウチの子も……」などとゲストの会話に入り込んでくることは一切ない。むしろ独身の雰囲気で構えているようにも見える。

それが藤木さんのポリシーなのだろうけど、そういうブレない精神と対応は人として信用ができる。これは本やらコラムやらいろいろな現場を経験して感じたことだけど、信用ならない人は意見が必ずブレる。最終的にものすごく欲張りになっているように感じる。もちろんTPOに合わせて変えていくことは必要だと思うけれど、それと芯の部分はまた別問題。藤木さんはその芯が役者であることにしか集中していない。そのスタイルが信用を呼んで、毎クールのドラマ出演が続いているのではないかと思う。

さて『グッド・ドクター』。湊との距離がどう縮まって、ここからどう変化していくのか。毎週泣かされながら見守りたいと思う。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。