幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第66回は女優の岸井ゆきのさんについて。現在『天国と地獄 ~サイコな2人~』(以下、天国と地獄)(TBS系)に出演する岸井さん。最近、色々な作品で見かけるようになりましたが、そのたびに「すごいなあ……」とため息が出てしまう女優さんのひとり。身長148.5cm(公式ホームページより)という小さめサイズに詰まったとんでもないパワーを個人的に考察してみました。
振り返るとドラマには岸井ゆきのがいる
現在、岸井さんが出演している『天国と地獄』も最終回間近。ここらで復習も兼ねて、あらすじを紹介したい。
刑事の望月彩子(綾瀬はるか)と、ベンチャー企業の社長・日高陽斗(高橋一生)の体が入れ替わった。日高を凶悪殺人犯であると睨んでいた彩子にとって、青天の霹靂の事件。ただ日高の見た目となって事件を追っていくうちに、彩子のままでは知らなかった事実に気づき、一つの結論に辿り着こうとしている。二人の体は戻ることができるのだろうか……?
この作品で岸井さんが演じているのは日高の妹・優菜役。彩子と入れ替わった陽斗が軽度の記憶喪失になってしまったと信じて、兄を心配している。少しでも兄の力になりたいと、日高と一緒に記憶を辿るのが優菜だ。
次回、第9話の放送で二人が元の状態に戻ったのかどうかが判明する。『天国と地獄』は伏線回収というよりは、放送回ごとに新しいポイントが生まれてくる印象が強かった。「ああ、こうなるよね」という予想がつかないところが、昨今のドラマにはなかった。だから飽きずに最終回まで物語を追いかけることができるのだ。本当に目を離さず、ラストまで見守ろうと思う。ひょっとしたら岸井さんも最後の最後で「え、あんただったの?」という、マル秘ワザも持っていそうな予感がするのは私だけだろうか。
そんな岸井さんの様子をきっちりと覚えたのは『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』(フジテレビ系・2018年)の入間未蘭役だった。とんでもない女優が出てきたと記憶している。
適度に強く、そして適度に可愛く
岸井さんの演技は説得力があった。所属事務所の公式ホームページによると、やや複雑な家庭環境の名家に生まれながら“まっすぐないい子(ここポイント!)”に育ち、義母に毒殺されそうになる。そんなアクシデントをのりこえながら、漁市場で働くこれまた人のいい青年と結ばれていた。文字にするとこれだけの出演量なのに、岸井さんの存在はどっしりと重かった。
バイプレイヤーとして見ると『木更津キャッツアイ』(TBS系・2002年)でミー子(平岩紙)を見た時の衝撃に近いものがあった。メインキャストの横にいるだけで、何かをアピールするオーバーリアクションもしていないのに、なんだろう……? と見ていると、ここから現在へ続く快進撃がスタート。
朝ドラ『まんぷく』(NHK総合・2018年)や『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系・2020年)、『私たちはどうかしている』(日本テレビ系・2020年)と出演ラッシュが続く。特に『わたどう』での、上半身裸のまま高月椿(横浜流星)に抱きついていくシーンは、本当にどうかしていて良かった。
ではなぜ岸井さんが気になるのか? まず、彼女は演技で見せる笑顔を思い出してほしい。何かを企んでいるような笑い、淀みや屈託のない嬉しさを表す笑い。その使い分けがとても巧みなのだ。この笑顔をもっと見てみたいとも、サイコパスのような役も見てみたいと思わせる。彼女の笑顔には説得力があるのだ。
最近の話題性ある若手女優陣は、杉咲花さんや上白石萌音さんをはじめて、ほぼ160 cm以下のバッグハグされやすいサイズが人気だ。岸井さんは148.5cmで、150㎝を切った。個人的にこの小ささは女性としても、表現者としても大きな強みだと思う。どこまでもエイジレスでいられるし、発声に力強さを感じられるから。
さて次にどんな姿を見せてくれるのか。今度は舞台で活躍する彼女に興味が湧いてきた。