幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第58回はタレントの松井玲奈さんについて。現在『エール』(NHK総合ほか)に出演中です。SKE48、乃木坂46時代の活躍ぶりをほぼ知らない、無知な私ですが、最近の松井さんは地上波でよく見ています。真っ白な肌に、いつも凛としているイメージが残っています。特に今回の朝ドラで見た演技にグッと惹かれたので、その魅力をまとめてみることにしました。
"子どもがいないプレッシャー"に耐える姿に涙
新型コロナウイルスの影響により、撮影中断を余儀なくされ、現在も放送中の『エール』。本来であれば2020年開催のはずだった東京オリンピックに合わせた、華々しい作品だったのに……と、小さな悔しさは残るものの、11月27日(金)に最終回を迎えようとしている。
もう何も言うことはないほど、バランスが良くできていた。主役夫婦から溢れんばかりの愛情、才能をつなぎ、夢を追いかけることの意味。命と友情の尊さ。朝ドラはどの作品も完璧だけど、今回は感動がひとしおであるのは、やはり放送中止からの、復活を待ちわびて見ているからだろうか。最終回は号泣しそうな気がする。
この作品で松井さんはヒロイン・音の姉、吟を演じている。三姉妹の長女で、独身時代は婚活に燃える女性だった。数々のお見合いを経て、やっと陸軍の馬政課で働く夫に辿り着いた。ところが運命とは意地悪なもので、吟夫婦は子宝に恵まれない。吟の葛藤が始まる。
朝ドラ出演歴2回目にして、故郷へ錦を飾る
今でこそ、男性不妊が当たり前のように言われるようになったが、舞台は戦前〜戦後。どうしても女性に問題を疑われてしまう。子どもがいないことへの周囲からのプレッシャー、そして妹・音には一人娘がいることへの嫉妬。
松井さんはこの機微を見事に表現していた。時代は変わっても女性の悩みはさほど変わらないことを、知らされた気がする。ただ吟は腐ったままで終わらない。そこがいい。
夫は戦後、職を失ってしまい、まさかの脱サラリーマンのようにラーメン屋を営むことになる。現在で言うなら国家公務員を辞めて、他の地位を約束されたポストもあったのに、それを蹴って開業……というところか。私なら旦那を自宅に入れない。ただ吟は違った。
「人のために命を燃やせるのがあなたの誇り。私はそう信じてあなたについてきました。(中略)(紹介を受けた)貿易会社でもラーメン屋でもどちらでもいい。その生き方ができる選択をして欲しい」
このセリフを放つ、松井さんにはアイドルの影が一切なかった。ご本人を表すような、しなやかな強さが表現されていた。ちなみに彼女、これが二回目の朝ドラ出演である。以前は『まんぷく』(2018年)にヒロインの同級生役を演じていた。短期間の空きを経て、今回の役を掴んだ。おそらくオーディションで勝ち取ったものだろう。しかも吟は松井さんと同じく、愛知県豊橋市出身。吟も音もずっと豊橋市の方言を使っていることを思い出す。コロナさえなければ、地元は観光地になったかもしれないとも思うが、松井さんにとって故郷に錦を飾るということは嬉しかったことだろう。私も地元に貢献する本を作ったときは謙遜しながらも、心で鼻息を荒くしていたので。
彼女が何度も朝ドラオーディションを受けているが根底には、ヒロインを目指す意思もがあるのかもしれないが、こういうガッツはどこまでも応援をしたくなるのだ。次回の出演作、お待ちしております。