コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第156回は俳優の飯島直子さんについて。なぜこの人は歳を取らないのだろう? と思う著名人は数多いる。そりゃ見た目が商売につながるのだから、ありとあらゆる手段を用いて、老いを食い止める。ただ明らかな無理を感じてしまう人もいる。そんな最中で飯島さんはあまりにもナチュラルにエイジレス。『DAISUKI!』(日本テレビ系)への出演時から、あまり変化が見られない。笑顔の水面下では、凡人には底知れない努力をしているのだろうか。いずれにしてもかわいい。そんな彼女が今、(私=ドラマオタク)史上一番だと言える、ハマり役を演じている。
典子と直子はかわいいぞ
エイジレスの件が続く。日本女性の平均寿命が約90歳と言われる昨今、一般女性のアラフィフ、アラカン世代も健康かつ、輝いている。私が幼かった頃は「50歳」は初老のイメージさえあったのに、今はバリバリの現役だ。ただ日本の芸能界には古来から脈々と続く、男尊女卑の風潮が否めず、50~60代の女優が活躍する作品はとても少なかった。
が、春ドラマでは異変が起こっている。『ディアマイベイビー 私があなたを支配するまで』(テレビ東京系)で、56歳の松下由樹が主演。『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)では、59歳の小泉今日子と63歳の中井貴一がダブル主演。これはとてもいい傾向だ。何しろ視聴者も年を取っているのだから、同年代の俳優軍の出演によって、共感性をドラマから感じられる。
前振りが長くなったが、飯島さんが出演しているのは『続・続・最後から二番目の恋』で、第一シリーズスタートから13年間、ほぼ俳優が変わることなく出演している。主演俳優だけではなく、他バイプレイヤーも漏れることなく中高年。これだけで感じる、心穏やかさよ。
飯島さんが演じているのは水谷典子役。鎌倉に移住したテレビ局員の吉野千明(小泉)の隣家・カフェナガクラであり、長倉家。この家の長女で、結婚をして専業主婦となった。夫の広行(浅野和之)が役者を目指していることを許しているファンキーな夫婦でもある。人の話は聞かず、思い立ったら即行動で、離婚危機は数えきれない。毎朝、実家で朝ごはんを弟の真平(坂口憲二)に作らせるけれど、一応、一男の母。「親戚にこういうおばさん、一人はいるよなあ」の典型女性とても言おうか。
そこはかとなく香る、マイルドヤンキー感
飯島さんは多くの作品で多くの役を演じてきた。いくつかは私も記憶している。中でも典子役を「すごくよく似合っている!」と太鼓判を押したくなるのは、ご本人のプロフィールとのリンクだ。
典子は高校時代に高校教師だった広行と恋に落ちてしまい、結婚している。今から40年前の出来事……とは、この事実にはそこはかとなくマイルドヤンキー感が香る。実は飯島さんご本人も学生時代は制服のスカートは長く、待ち合わせに来なかった彼氏が少年院に入所していた……といったエピソードをかつてテレビで披露している。ちなみにヤンキーとは自由ではあるけれど、上下関係も厳しく、ピュアで優しい生き物でもあると、私は解釈している(出典:漫画『ホットロード』)。
思い返すと飯島さんはグラビアアイドル時代の続きなのか、茶髪で派手なコーディネート……と、色気のあるイメージ。ああ、典子だ。第5話でもセカンドキャリアだとスカウトされた「湯煙美人」のお色気モデルをやっていたっけ。どおりで二人はよく似ている。
「ここぞ!」のシーンは典子の出番
典子はマイルドヤンキーらしく、「ここぞ!」では威厳を発揮する一面も見せている。『続・最後から二番目の恋』(2014年)でのこと。長倉和平(中井)の妻が砂浜の桜貝を集めており、亡くなった後も和平と家族は妻の習慣を引き継ぐように、桜貝を集めていた。でも収集していた理由を誰も知らない。
「あたし、知ってるけど」
驚く一同。
「だからさ 真平がこの(カフェ)ナガクラを始めた時に、表の看板とかメニュー表を自分で作ってたでしょ? 『私は何もしてあげられないから、せめて鎌倉らしく、桜貝で飾り付けをして、真平にプレゼントしたいんだ』って、言っていた」
こういうすごい秘密を知っていて、家族を驚かせるのが典子だ。『続・続・最後から二番目の恋』の第4話では、主治医が亡くなった事実を隠していた真平に説教をする。これは万里子(内田有紀)によると、何年かに一度起こる現象であまりの正しさと説得力と怖さに、和平は泣いた経験もあるらしい。
「あんたさ、逃げてんでしょ。(中略)なんか急に怖くなったんでしょ、死とか、そういうのが。考えたくない、だから聞かなかったことにしょう、どっち? (中略)お世話になった人にお悔やみの言葉をいうのは人として当然でしょ。どんなにバカでもアホでも適当でも、そういうことはちゃんとしなきゃダメでしょ! 違うか? 違うなら言ってみろ!」
ここですでに反ベソの真平。
「あたしたちはずっとずっと(真平の病気を)分かろうとしてる。大事なのはずっと分かろうとしているって気持ちなんじゃないの? ねえ、壁作ってのは真平だよ。(中略)がっかりしたよ、お姉ちゃんは!」
かつての血が騒いだのか、典子にはドスと迫力があった。いや演じている飯島さんの血も大騒ぎしたのかもしれない。でもすぐに「お腹が空いた!」とは典子。かわいい女性なのだ。
ドラマ放送は折り返し地点を過ぎてしまった。毎週月曜が楽しみで仕方ないので、このままTBSの渡鬼のように『続・続・続・続……』とご長寿番組になってくれないかと思う。典子ももちろん、キャラクターは変わらないまま、大声で笑って、泣いていてほしい。