幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第139回は俳優、声優の津田健次郎さんについて。最近、中年の活躍ぶりが目立つ。俳優の岡部たかしをはじめ、バイプレイヤーたちが40~50代からブレイク。今年のオリンピックでは総合馬術団体のメダリストたちが、ほぼアラフィフだったことで"初老ジャパン"と呼ばれたり。初老という表現には若干、違和感があった。でも日本が高齢化する40年以上前は"50代"は確かに初老というイメージがあったので、間違った表現ではない。

そんな中年ブームの先陣を切ったのは、津田健次郎さんだ。写真集バカ売れのビジュアルに、声、演技ともに露出を切らしていない。40代後半までそれなりに苦労はあったと思うけど、この方、無駄がない生き方だと思う。

  • 津田健次郎 撮影:泉山美代子

グッルグル、グッルグル、焦らない~

まずは現在、津田さんが出演中の『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)のあらすじを。

アプリ会社に勤務する、38歳、独身の西園寺一妃(松本若菜)。ローンで手に入れたマイホームの賃貸ルームで同居することになったのは、同僚の楠見俊直(松村北斗/SixTONES)と、4歳の娘。会社には秘密の"偽家族"として同居が始まった。一見、風変わりな生活に西園寺さんは心を癒されていく。途中、久々の彼氏ができたり、楠見のことが好きになったり。彼女が最終的に選ぶ生活は一体?

夏ドラマで翌週の放送がとても楽しみだったのは『西園寺さんは家事をしない』。ハマる要素はいくつもあるけれど、やはりゴールデンタイム初主演ドラマとなった、松本若菜の存在は大きい。とにかく明るく、真っ直ぐで淀みのない、サザエさんのような西園寺さん。そんな女性を超絶美人の松本が、振り切った演技で魅せてくれた。周囲でもハマっている人が多く、明るさに人気は集まるのだと実感させられた瞬間でもあった。

そんな西園寺さんの(一瞬だけ)彼氏となったのが、津田さん演じるカズト横井。料理系のYouTuberで、西園寺さんの元同僚。ずっと思いを寄せていたが、自分に自信が持てず、告白に至らなかった。が、再会を果たした自分には名誉も財力もある。彼女をやっと幸せで包囲できると告白したものの、彼女の心は楠見の元へ……

「グッルグル、グッルグル、焦らない~」

歌い、踊り、そして料理をする横井さんはまぶしかった。彼の人生にまたピンクの光が差すことを願う。

無駄な脂肪ゼロボディに艶肌

津田さんが世に知られることになったのは、日本中のメディアから聞こえてくる声だろう。全くアニメに詳しくない私でも『ONE PIECE FILM RED』のゴードン役、『呪術廻戦』七海建人役……くらいなら、容易に想像がつく。その他、朝ドラをはじめ、多くのナレーションでも声を振う。

そして津田さんの前進と、声優たちの人気上昇が相まって、いつの間にか色男おじさんが完成した。そう、私は予測する。

ふつうのおじさんは声優として、それなりの評価を得ていたら人生は安パイだと動かない。でも津田さんはずっと俳優をやりたかったと『日曜日の初耳学』(TBS系)で話している。特に「あきらめなければ、敗者復活戦はある」という言葉は印象に残った。

と、ここまでの彼を反芻すると、無駄がない人だと思う。まず中年にもかかわらず、全く無駄な脂肪が付着していないスリムな体。痩せ体質もあるかもしれないけれど、いずれにしても弛みをまったく感じさせないためには努力がいる。私も立派な中年なのでよくわかる。加えて、肌。至近距離で拝んだことがないので、断言はできないが日焼けも避けた、ハリ艶のある肌だ。

俳優業に進出した経路も、後付けに考えると無駄がない。なぜなら本来、俳優はど正面からのビジュアルと演技で勝負する。声はその次だ。俳優として認知されたあたりから、ナレーションや、アニメ映画の声優を始める。ただ津田さんの場合は異例で、全ての経路を逆走している。今後、芸能人生にどんな風が吹き荒れようとも、盤石な声優という武器であり、保険がある。苦労はしたかもしれないけれど、結果的に大物俳優よりも手堅い道を歩み、無駄を省いたように見える。

こんなことばかり書いていると、津田さんのイメージが悪くなりそうなので、ラストに私が見つけた彼の愛らしさをひとつ。『西園寺さんは家事をしない』で、楠見の娘・ルカ役の倉田瑛茉ちゃんと、津田さんの共演シーン。2人、ソファに座りながら、自然と4歳の瑛茉ちゃんが、津田さんにピッタリと寄り添っていた。人見知り時期の、4歳女子の心を掴んでいるということは、舞台裏では相当いい人なんだろうと思った。

ダンディズムで、無駄がなくて、尚且つ優しいおじさん。それが津田健次郎だ。