幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。
第138回はタレントの塚地武雅(ドランクドラゴン)さんについて。芸人俳優というカテゴリーがあるとしよう。最近では金田哲(はんにゃ)、角田晃広、ヒコロヒーなどがクレジットに目立つ。その中でも約20年近く、ドラマや映画に連続して出演しているのが塚地さんだ。お笑い芸人さんとはさまざまな才能に長けているというのは、何となく分かっている。でもたまに国民的愛されキャラまで輩出してくるのだから、目の離せないカテゴリーだと思う。今回は塚地さんについて、率直に思うことを……
堀井しのぶさん、昼も夜も大活躍
まずは現在、塚地さんが出演されているドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)のあらすじを。
新宿歌舞伎町にある聖まごころ病院。土地柄、治療費もなく救急で運ばれてくる患者が多くいる。よって赤字経営である。そんな病院に突如、姿を現したのはヨウコ・ニシ・フリーマン(小池英子)。アメリカの医師免許を持ち、軍医として働いていた経験がある。ちなみに院長の隠し子で、英語と岡山弁を使いこなす。そしてヨウコ先生は次から次へと運ばれてくる患者を、軍医らしい少々手荒な技で、次々に治療していく。
夏ドラマの特徴でもあると思うが、1つの作品に対する好みが「苦手」「好き!」と真っ二つである。特に『新宿野戦病院』に関しては脚本家の宮藤官九郎氏が、今年の冬ドラマで放送された『不適性にもほどがある!』(TBS系)で、スマッシュヒットを飛ばした経緯もあり、放送前から視聴者のボルテージは高まっていた。
ところが放送開始後は「ゴチャゴチャしている」「分かりにくい」とネガティブな意見が飛び交う。ただ一方、クドカンファンの私からすると、今回も"クドカン節"が作品に活きている。ジェンダー、トー横キッズ、ホストクラブの売り掛け問題など、今、問題になっている要素が盛り込まれていて、面白いのに……と、ひとりごちる。
そんな作品に塚地さんは、看護師長・堀井しのぶ役として出演している。こちらの役も当初「男か女か分からない」という、登場人物紹介の表記に揶揄が飛び交った。ジェンダー問題に関しては、世間の琴線がどこに張り巡らされているのか分からない。でもクドカンならこの問題、見捨てるはずはないと思い、放送を見守った。
そして8月14日の放送で、しのぶさんの素性があきらかになる。彼女は心が女性、見た目が男性というトランスジェンダー。病院ではあくまでも女性看護師だ。ただ認知症の実母の前では、通勤途中に着替えて、ぶっきらぼうな息子になる。この二つの顔を行き来している理由は、大好きだった夫を失った母のため、父親になりすますしのぶさんの愛情のこもった演出だった。複雑な理由ながらも、伝わる親子の愛情深さ。この役を塚地さんは演じた。
なぜ全世代から愛される?
塚地さんの所属事務所の公式ホームページによると、身長168㎝、体重88kgの小肥満体型。今回のしのぶさん役も、朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)の海野弁護士役もよく育った腹部が目立つ。加えて私と同じくアラフィフの独身のおじさん。プロフィールだけ眺めていると、最近の意識の高い若手からは嫌悪されそうな素材が揃っている。ちなみに私も立派な出っ腹だ。
が、塚地さんは全世代から愛されている。5歳の子どもが塚地さんを見て、メロメロになっている様子を見たこともある。彼、まるでディズニーキャラクターに登場するプーさんにように愛でられているではないか。
彼のようなビジュアルで人気者のタレント、俳優は多くいる。でもご本人しか持ち合わせないような魅力は何だろうと、もう一度『新宿野戦病院』を見た。
「ね、みんなちょっとずつ嫌な気持ちになったでしょ? それがアメリカ、それが資本主義。ああ、ヤダヤダ……」
そこで改めて気づいたのが、彼が発するセリフは一語一句、非常に伝わりやすい。よりナチュラルな演技や台詞回しが受け入れられやすい昨今にもかかわらず、彼の話し方はまるで昭和のホームドラマを見ているようだ。台本に丁寧だと言ってもいい。得てして、それらを「棒読み」と呼ぶ人もいるけれど、これは塚地さん独特のスタイルと呼んでも過言ではない。
この言い回しとヒットしたのが『裸の大将 21世紀版』(フジテレビ系 2007年)の山下清役だった。あの「ぼ、ぼ、僕はおにぎりが食べたいんだな」なんていう、これもまた独特なセリフを表現できたのは塚地さんだからなのだろう。見る側からしても中高年や、子どもには発音が分かりやすいのは肝心だ。
思い返すと他の作品でもこのスタイルだけは、ずっと同じ。継続は力なりと、今、どの作品でも話題をかっさらう姿を見て、改めて実感させられた。
ちなみに彼のドラマ以外の出演作で面白いのは『ドランク塚地のふらっと立ち食いそば』(BS日テレ)。要は彼が巡る街ロケ。自然と店に馴染んでいく姿、トークは(現在の役柄なら)まるで、しのぶさんそのもの。しかもうまそうに食べているので、ご興味ある方はぜひ。