ビジネスメールにおける宛名の書き方は、セミナーでも数多く質問を受けるテーマの一つ。それだけ悩む人が多いということでしょう。「部署名や役職も毎回書くべきか」「会社名を省略して名前だけでもいいのか」「省略するとしたら何通目からが適切か」疑問は次々と湧いてきます。

ビジネスメールの宛名は、会社名、部署名、役職、名前、敬称を全て書くと丁寧な印象を与えられます。これは、多くの人にとって共通の認識でしょう。初対面の相手にお礼のメールを送る際、情報の抜けや誤りがないよう何度も相手の名刺を見返したという経験もあるかもしれませんね。

しかし、丁寧な印象を与えるからといって、これらの情報を毎回必ず書く必要があるかというと、そうとは限りません。コミュニケーションを重ねれば、互いの関係性にも変化が生まれます。丁寧な宛名も、時には他人行儀と感じられたり、機械的な対応と受け取られたりすることも。相手との関係性によっては、宛名の書き方を簡略化しても決して失礼にはあたりません。場合によっては、より円滑なコミュニケーションを促進することにもつながるはずです。

丁寧さが引き起こす誤りも

部署名や役職は、毎回書くべきなのか。固定観念にとらわれず考えてみましょう。仮に、自分宛てに届いたメールの会社名や名前が間違っていたとしたら、決して気持ちの良いものではありませんよね。宛名は丁寧さもさることながら、なにより正確性が求められます。宛名の中でも、部署名や役職は変動する可能性の高い項目。正確に書いたつもりでも、相手に関する情報がアップデートされていなければ、正確性は損なわれます。部署名や役職が古いからといって、相手が目くじらを立てることはないかもしれません。とはいえ、現状との相違は、やはり気持ちの良いものではないはずです。

コロナ禍で人との接し方にも変化が生まれました。しばらく会わない間に相手が異動になっていた。商談がオンライン化し、そもそも名刺交換をしていないということも珍しくありません。それを思えば、部署名や役職を書くことにこだわる必要はないのです。

相手の会社に電話をしたのであれば、所属や役職を伝えることも多いかもしれません。それはスムーズな取り次ぎのため、電話の応対をしてくれた相手への配慮です。部署直通の電話番号だと分かっていれば、あえて部署名を伝えることもないですよね。メールは多くの場合、個人ごとにアドレスが割り当てられています。直接、相手に連絡できる手段であればこそ、なおさら部署名や役職にとらわれる必要はないとも言えます。反対に、会社の代表アドレス、部署の共有アドレスにメールを送るのであれば、部署名や役職を書くことが相手への配慮につながることもあります。宛名の本質は、誰に宛てたメールなのかが正しく伝わることなのです。

メールでも適切な距離感を

宛名の役割は、誰に宛てたメールなのかを正しく伝えること。相手は、宛名に自分の名前が書いてあるのを見て、それが確かに自分に送られたメールだと認識します。であるならば、会社名を省略して名前だけを書いた宛名であっても、その役割は十分に果たしていると言えるでしょう。ただし円滑なコミュニケーションのためには、正しく伝えること以外にもう一つ大切なポイントがあります。それは相手を不快にしないことです。名前だけが書かれた簡略化された宛名を見て、相手が失礼と受け取ったり、なれなれしいと感じたりするようであれば、それは適切な宛名とは言えません。

初めてメールを送るときや、丁寧な印象を与えたいときには、全ての情報をしっかりと書くのが良いでしょう。その後、何度かやりとりをするようになったら会社名と名前だけにする、関係性が構築できたら名前だけにするなど、相手や状況に応じて変化させていくのがベター。「何通目のメールから名前だけにしていいですか」と聞かれることもありますが、単に数の問題ではなく、絶対的な正解があるわけでもありません。相手との関係性によって柔軟に対応することが求められます。

例えば、別の会社に勤める学生時代からの親友と、縁があって仕事のやりとりをすることになったらどうでしょう。1通目のメールから宛名には名前だけを書くのではないでしょうか。お互いが、相手のことを会社よりも個人として強く認識しているからです。これがまさに相手との関係性によってということ。

相手との関係性を推し量る上では、対面や電話でのやりとりを想像するとイメージしやすいかもしれません。取引先であるアイ・コミュニケーションの田中さんという担当者に、ある商品の取り扱いがあるか確認したいとしたら、どう尋ねるでしょうか。きっと田中さんとの関係性によって尋ね方が変わってくるはずです。

a. 御社で〇〇はお取り扱いありますか
b. アイ・コミュニケーションさんで〇〇はお取り扱いありますか
c. 田中さんのところで〇〇はお取り扱いありますか

(c)の関係性であれば、メールの宛名は名前だけでも自然に感じられるかもしれませんね。対面や電話では相手と適切な距離感で接することができるのに、メールになると悩むという人もいるようです。丁寧さだけに固執すると、よそよそしいと感じられたり、時に冷たいとさえ感じられたりすることもあります。宛名はこう書くべきという固定観念にとらわれず、相手や状況によって変化させることが、円滑なコミュニケーションの促進にもつながるのです。