日本ビジネスメール協会が毎年行っている「ビジネスメール実態調査」の2018年度版が2018年6月5日に発表されました。それによると、仕事で英文Eメールを書くことのある人が、全体の約2割いらっしゃることがわかりました。

  • 英文ビジネスEメールライティング、学びの課題は?

英文ビジネスEメールを書く人はますます増える

企業活動が国境を越え、社内の人事構成も多国籍化しつつある中で、英文ビジネスEメールを書くことは、今後ますます多くの人に求められることとなってくるでしょう。当協会で毎月実施している講座においても、「今度外資系企業に就職するので」あるいは「海外関連部署に異動になったので」と、これから英文ビジネスEメールを書き始める方々が多く受講されています。

英文Eメールを書く際のよくあるお悩み

講座では、最初に受講者の方々の英文Eメールを書く際のお悩みをうかがっています。「そもそも何から始めていいのかわからない」「日本語では表現できるが、英語でどう伝えれば良いのかわからない」「英語でも敬語はあるのか、あるのならそれが知りたい」「時間がかかって仕方がない」などが典型的なものです。

これら回答からは、日本語環境において行う仕事が英語環境ではどうしても進まない、経営効率を英文Eメールが著しく落としているというようにも解釈できる状況が、多くの会社にあるのではと推測されます。

Eメール、日本語と英語の共通点と違い

講座での質問で多いものの一つに「日本語のEメールでのこの表現に対応する表現は何ですか?」というものがあります。当然の発想かもしれません。しかし、現実には、日本語のEメールでよく使われる表現でも、それに対応する英語表現がないことは珍しくありません。つまり、そういう表現をすることが、英文ビジネスEメールにはふさわしくないのです。

英文Eメールでも「いつもお世話になっています」と書くの?

例えば、「いつもお世話になっています」という文で始めるEメールを皆さんも多く受け取られると思います。しかし、この「いつもお世話になっています」という表現に対応する英語表現は、Eメールの冒頭では使いません。

特に、初めてメールを送る相手には使うべきではありません。理屈っぽく言えば、「お世話になって」いるということは既に何らかの関係があることが前提になっていますので、初めての相手に「いつもお世話になっています」はありえないというのが、英語を母語とする人たちの発想といってもよいでしょう。

文化の違いと言ってしまえばそれまでですが、相手の文化を知らないと、思わぬ誤解を招いてしまい、ビジネスの目的を達成できないということにもなりかねません。このように、日本語ビジネスEメールの1文1文を「忠実に」翻訳したとしても、相手を動かす英文Eメールにならない可能性があるのです。

ルールの異なる似たスポーツと考えてみる

このように書くとわかりにくいかもしれませんが、日本語で書くビジネスメールと英文ビジネスEメールの関係を、似てはいるが異なるスポーツと考えてもらうとよいかもしれません。つまり、多くの部分で共通点があるけれども、所々でルールの違う部分があるというように。

例えば、硬式テニスと軟式テニスは同じテニスであり、似たような道具やコートを使い、打ち方も似ていますが、スコアの数え方や試合に勝つために何ゲームをとったらよいなどのルールに差異があります。野球とソフトボールも類似の競技ですが、道具や球場の広さ、あるいはルールも様々に異なっています。一方のルールで他方の試合に勝つことはできません。

英文ビジネスEメールを書く際も、日本語ビジネスメールで使うルールが適用できる場面もあれば、別のルールに従うべき場面もあります。この違いを知ることが、仕事を前に進める英文ビジネスメールを書くための重要な知識となります。

英語には敬語がない!?

また、もう一つよくある質問が、「英語には敬語はありますか」というものです。「英語には敬語がないから、日本語で書くより楽」との発言も見られます。

しかし、英語にも敬語など、人間関係に応じた丁寧表現はしっかりありますし、それをうまく使わないと、ビジネスを進める上で障害になる可能性もあります。また、英語にも、日本語と同様、話し言葉と書き言葉の違いは間違いなく存在しますので、書き言葉を使用すべきビジネスEメールにおいて、日常的に使う口語表現を使うことが不適切な場合もありえます。(いつもそれが不適切とは言い切れないのですが…)

英文Eメールライティングの学びにおいては、学校英語的に、ある日本語表現を文法的にも意味的にも正しい英語にするという技能を学ぶ必要はもちろんあります。しかしそれと同じくらい重要なことは、ここに述べたような日英ビジネスEメール間の共通ルール、相違するルールを知ることです。当協会で行っている講座では、このような部分についても、しっかりお伝えするようにプログラムを組んでおります。

戸田博之

一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師。オフィス エイ・エイチ代表。早稲田大学、法政大学、東京医療保健大学講師。2017年3月、東京大学大学院修士課程総合文化研究科言語情報科学専攻修了、現在同博士課程在学中。研究テーマとしては、ビジネス英語教育、特にライティング、プレゼンテーション等に力点を置いている。執筆や翻訳活動の他、ビジネス英語、英文メールおよび金融商品と社会保険関連セミナーなどの講師をつとめる。 また、金融ライターとして、東洋経済等一般経済誌他、金融業界誌への寄稿多数。著書に、「投信・個人年金セールス実践マニュアル」(こう書房)、「これで安心!年金をしっかりもらう本」(秀和システム)、「英文ビジネスEメールがサクサク書ける 自律的ライティングのすすめ」(研究社)がある。

日本ビジネスメール協会

日本で唯一のビジネスメール教育専門の団体。ビジネスメールに特化した講演・研修などの事業を10年以上前から行っており、これまでにメールに関する書籍を中心に28冊出版(内2冊は翻訳され台湾で出版)。メディアには1,000回以上登場し、ビジネスメールについて情報発信してきた。仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査」を2007年から毎年行っており、本調査は、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査として各メディアで紹介されている。ビジネスメールに関する研修(講師派遣)や講演(公開講座)を実施。2時間でビジネスメールを学ぶ、「ビジネスメールコミュニケーション講座」は東京を中心に毎月開催。研修の問い合わせも受け付け中。