「迅速」「正確」「親切・丁寧」という3つの鉄則の次は、電話応対時に言ってしまいがちな誤った言葉遣いの事例を紹介していきましょう。

▼「お名前とご連絡先を頂戴できますか?」

電話をかけてきた相手の社名、氏名、連絡先などを聞くときに使いがちな「お名前を頂戴できますか?」「連絡先を頂戴できますか?」という表現は正しくありません。

本来、「頂戴」とは「もらう・受け取る」の謙譲表現です。「お名前を頂戴する」というのは、先方の名前そのものを自分が受け取るという意味になるので不適切です。名前はもらう物ではなく「尋ねる」ものです。したがって正しくは「尋ねる」という意味の尊敬語「伺う」を使い、「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」あるいは「お名前をお聞かせいただけますか?」になります。

相手の名前が聞き取れず、丁寧に聞き直す場合も、「申し訳ございませんが、もう一度お名前をお聞かせいただけますか?」「恐れ入りますが、お名前の漢字を教えていただけますでしょうか?」「少々お電話が遠いのですが、もう一度お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」といった表現で確認しましょう。

  • 電話中の敬語、正しく使えていますか?

    電話応対時の敬語、正しく使えていますか?

▼「佐藤部長は、ただいま外出しております」

取引先など外部から自分の上司宛てにかかってきた電話を取る際に気を付けなければいけないのは「上司の呼び方」です。

「佐藤部長はいらっしゃいますか?」と聞かれ、つられて「佐藤部長は、ただいま席を外しております」と答えてしまう人がいます。

「部長」「課長」といった役職は敬称です。そういった役職・肩書きを名前のあとに付けると、自社の社員に対して尊敬語を使っていることになってしまいます。自社の社員は呼び捨てにし、相手に敬意を示すのがマナー。正しくは「部長の佐藤は、ただいま席を外しております」となります。

なお、こちらから取引先に電話をかけて先方の部長を呼ぶ場合は、「〇〇部長様」や「〇〇部長さん」などと言ってしまうと敬称が二重になってしまうので、「部長の〇〇様、いらっしゃいますか?」と肩書きを前に持ってくると耳障りが良い尋ね方になります。

▼「お休みをいただいております」

上司の山田課長が会社を休んでいる日に取引先から電話が入り、「課長の山田様はいらっしゃいますか?」と聞かれた際はどのように答えるのが適切でしょうか。よく聞く受け答えに「山田はお休みをいただいております」という言い方があります。丁寧な言葉づかいで正しい敬語のように感じますが、これは誤った言い回しです。とにかく丁寧な表現をすれば無礼にならないと思い込んで使う間違い表現の一つです。

自社のスタッフの行動を他社に説明する時は、謙譲語を使うのが適切です。したがって、上司であろうと自社スタッフが休む行為に「お」を付ける必要はありません。さらに休暇は会社、つまり自社からもらうものであって、取引先からもらうわけではありません。ですから、「いただく」という尊敬語を使うと、自社に対して敬意を示していることになってしまいます。

正しくは「課長の山田は休みを取っております」とシンプルに言うべきです。もしこの言い方が少し失礼な言い方に感じるようであれば、「あいにくですが、課長の山田は休んでおります」「恐縮ですが、課長の山田は休みを取っております」とクッション言葉を文頭に入れると良いでしょう。

電話の応対は、社会人になりたての頃は誰でも緊張するものです。ただ、経験を重ねることで、緊張や失敗も必ず少なくなります。新入社員のうちは、社内での取り次ぎがほとんどですから、基本のパターンを覚えて、そのとおりに話せば大丈夫。何度か電話をかけたり受けたりしているうちに、自然と適切な言葉が出てくるようになりますから、決して焦らず、丁寧な態度を心がけていきましょう。

著者プロフィール: 江上いずみ(えがみ・いずみ)

筑波大学客員教授・札幌国際大学客員教授・Global Manner Springs代表。東京生まれ。筑波大学附属高等学校から慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1984年日本航空入社。客室乗務員として30年間で約19,000時間を乗務。オリンピック・パラリンピック教育担当講師として全国の小中高校で「おもてなしの心」をテーマに講演。国内外での年間講演数は250回に及び、「おもてなし学」の構築に取り組む。主な著書は「幸せマナーとおもてなしの基本」(海竜社)、「"心づかい"の極意」(ディスカバートゥエンティワン)