ビジネスマナーって教えてもらった?

まもなく新社会人を迎える時期が迫ってきた。「新人の頃は大変だったな」と、ノスタルジックな気分に浸る新人ともベテランとも言えない微妙な社会人歴を重ねた筆者。多種多様な職種の人と会う機会が多い職業柄、ふと最近自分のビジネスマナーは大丈夫か? と心配になることがある。

マスコミ業界には良くも悪くも「THE 業界人」の業界用語を多用し、軽いノリがウリの人も少なくない。ド派手なデザインの名刺を片手で渡されることも、「業界柄」として許される風潮が残っていることも事実だ。

  • ビジネスマナーってどこまで知ってる?

    ビジネスマナーってどこまで知ってる?

新人時代を振り返ってみると、会社で使用するツールやルールは先輩社員から学びはしたものの、マナーについては「一切」教えてもらった記憶がない……。この業界だけかなと周囲の人間に聞くと、意外とどこの業界でも明確にマナーについて学ぶ機会がないという声が多い。

そこで今回、マナーのエキスパートである江上いずみ氏に、「正しいビジネスマナー」について学ぶ企画を依頼しに行くという先輩社員・落合に同行させてもらった。そこで先輩社員が身をもって、正しいマナーを叩き込んでもらった姿の一部始終をお伝えする。

  • 江上いずみ氏

    江上いずみ氏

江上氏は、日本航空(JAL)で30年間にわたり、国際線・国内線先任客室乗務員として勤務。1987年10月に皇太子殿下・美智子妃殿下特別便に乗務した経験をもつ。現在は、筑波大学および札幌国際大学の客員教授を務めながら、大学、官公庁、企業、医療機関、介護施設などで「職場に活かすおもてなしの心」をテーマとした講演や研修を手掛ける。また、オリンピック・パラリンピック教育担当講師として全国の小中高校・特別支援学校・幼稚園などで子どもたちに「おもてなしの心」を伝えている。年間講演回数は250回に及ぶまさにマナーのプロだ。

間違えがちなマナーの落とし穴

  • 気をつけるべきポイントは?

    気をつけるべきポイントは?

打ち合わせ当日。江上氏の待つ「筑波大学東京キャンパス文京校舎」に待ち合わせ15分前に到着した我々は、いつも以上に入念に打ち合わせ内容を確認しつつ、その時を迎えた。江上氏の初対面の印象は、これほど「凛とした」という表現を似合う人はいないだろうと思わせるほど洗練されており、柔らかい丁寧な口調は上質な品位に溢れていた。企画者である落合との会話がメインにはなりがちの場だが、サポート役である筆者にも、何度も質問を投げかける気配りで、満遍なく会話できる空気を作っていたのは、さすがの一言だった。

ひとしきり企画の説明を終え、心なしか安心した表情を浮かべた落合。が、江上氏に「打ち合わせ時におけるマナー」を指摘されると、その顔はみるみるうちに青ざめていった。

リアクションの大きさ

江上氏は今回の打ち合わせで気になったマナー面について、4点指摘してくださった。

江上氏が今回の打ち合わせで、落合を高く評価したのは「リアクション」。同氏曰く「何かお話をした時に深く頷いたり、『へーそうなんだ!』って目を輝かせてくださったりするとこちらもすごく嬉しくなって、もっと話したくなる。相手を気持ち良くさせることがおもてなしの基本ですから、聞き手として落合さんは素晴らしいですね」とニッコリ。

江上氏のマナーにまつわる歴史から、見落としがちな細かなルールまで、先輩社員はまるで学生に戻ったような気分で話を聞いており、終始「すごい!」を連発していたことが江上氏にとって気持ち良く話せるリアクションだったようだ。

椅子の座り方とバッグを置く位置

今回打ち合わせを行ったのが、ごく一般的な6人がけの長方形のテーブル席。江上氏と対面で奥から落合、筆者の順で座った。ちなみに席次は、入り口側を下座として、目上の方への敬意やもてなしの意味が込められているため、上司が入り口から見て奥側に座ることが大切なマナーである。

ここまでは良かったのだが、指摘を受けたのは椅子の座り方とバッグを置く位置。ビジネスマナーにおいて椅子は下座である左側から座るのが基本。これはプロトコール(国際儀礼)に「右上位」の考え方があり、椅子の右側は右隣の方の出入りのために空けておくという配慮によるものだ。従ってバッグも右隣の人の邪魔にならないように、椅子の左側に置くのがマナーなのだそうだ。就職活動を経験した人なら、バッグをテーブルの上には置かないことは、マナーの「基本のき」として知っている人も多いと思うが、バッグを床に置く時にもそのような配慮が必要であることに驚いた。

書類を出すタイミング

今回、打ち合わせを行う部屋には、江上氏が来る前に助手を務める方に先に部屋に案内してもらった。営業を行う人なども、先に受付の人に部屋に案内されるケースは少なくないはず。ここで気をつけなればいけないのが、先方が来る前に書類や筆記用具を机上に出さないことだ。

話し合いをスムーズに進行したいがために、手元に書類を用意してすぐに話に入れるようにした方が、親切だと思う方もいるかもしれない。しかし、正しい順序としては、名刺交換や挨拶が済んだ後に、自分の鞄から書類を出して、本題に入ることがマナーだという。

退出時

いつも以上にマナーに気を使い、今後の方針も決まったことで、無事に打ち合わせは終了。いざ退出しようと思った時にも気をつけなればいけないマナーがあった。

江上氏は「面接の時などでも『貴重なお時間を頂戴してありがとうございます』というお礼の言葉は、目線の高さが合っている時に言いましょう。もし『今日はこれで結構ですよ』って相手に言われ、立ち上がってしまうと『ありがとうございました』というお礼が上から目線で言うことになってしまうので、まずは座っている間に感謝の意を伝えましょう。それから立ち上がって『失礼します』と言うと、とても心づかいのできる配慮が行き届いた人だという印象を与えることができます」と最後まで気を抜かないこともマナーのひとつであると教えてくれた。

マナーの衰退と重要性

日本のマナーのルーツは、飛鳥朝廷で働く人たちの階級や行動規範を制定した「冠位十二階」や「十七条の憲法」といえる。平安時代には貴族の儀礼や典礼が重要視されるようになり、室町時代になると質実剛健な気風を尊ぶ武家の礼節が示され、その後、日本の礼儀作法の基盤となった。江戸時代になって次第に庶民にも広まり、現在の私たちに受け継がれている。しかし、明治時代以降は西洋文明の影響を受け、徐々に礼儀作法に対する意識が衰退してマナーそのものが敬遠・軽視されるようになってきたと、江上氏は話す。

「堅苦しい・めんどくさい」と思われがちなマナーだが、その道のエキスパートである江上氏とのやり取りは、思いやりに溢れ、とても気持ちの良いものだった。日本に長く根付く文化だからこそ、日本人の感性として心地良さを感じたのかもしれない。

「マナー」と一言に言っても、様々な場面で気をつけるべきことが多くあると今回の体験を通して、自身の立ち振る舞いを見直す機会になったのは間違いない。「気持ちの良い仕事」の助けに、この我々の体験が一役買うことができれば幸いだ。ぜひ本稿を参考にして、ワンランク上のビジネスパーソンを目指してほしい。