悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、子どもが生まれた後、一緒に過ごすか、それとも職場復帰をするか悩んでいる人のためのビジネス書です。

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■今回のお悩み
「子どもと一緒にいるべきか、お金を少しでも貯めるべきか、産後働くか悩んでいます」(31歳女性/販売・サービス関連)

  • "産後"の職場復帰、した方がいい?(写真:マイナビニュース)

    "産後"の職場復帰、した方がいい?


僕はふたりの子どもを育てました。上と下が離れていて、下の娘はまだ14歳なので、厳密にいえばまだ育てている途中なのですが。妻はときどきベビーシッターの仕事をしていますが、基本的には専業主婦です。つまり、収入の大半は僕にかかっているというわけです。

それが当然だと思っていたので不満もなかったのですが、振り返ってみれば経済的には決して楽ではありませんでしたね。なんといいますか、「よくやってきたなぁ」という感じです。

ただ、僕は家で仕事をしていますし、妻もまた家にいるわけです。つまり子どもたちは、常に親がいる環境で育ってきたのです。家族のあり方もいろいろですが、少なくとも我が家に関しては、それがよかったとも思っています。

そして、だからこそ今回のご相談者さんのお気持ちもわかるのです。子どもとはなるべく一緒にいたほうがいいと思うけれど、しかし子どもの将来を考えると、お金は貯めておきたいですからね。

というわけで今回もまた、なんらかの参考になりそうな3冊を選んでみました。

自分の"気持ち"をしっかり持つことが重要

まず最初は、『だれも教えてくれなかった ほんとうは楽しい仕事&子育て両立ガイド』(小栗ショウコ、田中聖華 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

子育て支援を行う認定NPO法人「あっとほーむ」運営者と、大学で女性のキャリアについて研究しつつ、あっとほーむを利用して仕事と子育てを両立してきた女性による共著です。

ところで今回のご相談の重要事項のひとつが、「出産しても、いままでどおり働き続けられるのか?」ということだと思います。

いざ出産するとなると、どうしても仕事を中断しなければならない時期が発生するのですから当然の話。しかも初めての出産の場合は、子育てについても復帰へ向けての準備も、なにもかもが初めての状態です。なにが起こるか予測もつかず、不安は高まっていく一方ではないかと思います。

とはいっても、長い人生において、子育てをするのはほんの限られた時間。頼れる実家が近くになかったとしても、現在ではさまざまな支援を受けることが可能です。

経済的負担もある程度は増えるでしょうが、キャリアをあきらめず仕事を続けたいのであれば、支持者を探してできる方法はたくさんあると著者は記しています。

いつも仕事の現場に戻ることを忘れずに意識していれば、子育てをしている間にも、仕事復帰準備に関する抵抗や不安を抑えられるということです。

ある女性は、出産を機にそれまで勤めていた銀行を辞めましたが、自分が35歳になるまでには、必ず何らかの仕事に復帰しようと決めていました。だから彼女は、出産後もすぐに自分には何ができるか、どんなことをやりたいかを探し続けられたし、それを見つけた後は、その仕事に必要な資格を在宅で通信教育を受けながら獲得しました。(48~49ページより)

  • 『だれも教えてくれなかった ほんとうは楽しい仕事&子育て両立ガイド』(小栗ショウコ、田中聖華 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

もちろん資格取得の過程は、決して楽ではなかったでしょう。しかし夫や実母の協力を得ながら、なんとか乗り越えたのだそうです。

この事実が教えてくれるのは、出産前と同じ仕事かどうかということに限らず、「働き続けたい」という気持ちがあれば、なんとかして実現しようと動き出せるということ。

自分の気持ちと方向性をしっかり持ち、「そのためにすべきこと」について考え、実行すれば、育児と仕事の両立は決して難しいものではないということなのでしょう。

「理想の母親像」を手放そう

『自分らしいキャリアも幸せも手に入れる! 「働くママ」の仕事術』(金澤悦子 著、かんき出版)の著者は、今後の仕事やキャリアの方向性に迷う女性に「ハッピーキャリア(=ココロもサイフも満たされる生き方)の見つけ方を指導・支援している学校「はぴきゃりアカデミー」の代表。

ママになった今こそ、自分らしく生きるチャンスです!といっても、決して独立や起業をすすめているわけではありません。本書では、仕事も人間関係も何も変えなくても、劇的にあなた自身や子育ての満足度が上がる方法をお伝えしています。(「はじめに」より)

  • 『自分らしいキャリアも幸せも手に入れる! 「働くママ」の仕事術』(金澤悦子 著、かんき出版)

ただ、子どもを抱えながら働くことに、さまざまな壁があることも事実だと思います。そこで著者は、多くのお母さんが抱えがちな悩みについての解決策を提示しているのです。

たとえば第4章「働くママの ムリをしない自分らしい生き方」で訴えているのは、「『理想の母親像』を手放そう」ということ。

母親としての自分自身のあり方に対して、いまひとつモヤモヤした気持ちがあるのだとしたら、世間で言われる「理想の母親とはかくあるべし」を実行しようとしている可能性があると指摘しているのです。

もちろん、理想の母親像を追い求めることが必ずしも悪いとは言い切れません。しかし、自分が実行しようとしていることが、本当に自分自身や家族、そして子どものためになっているのかを改めて振り返ってみるべきだということ。

なぜなら、自分でも気づかないうちに「かくあるべし」に縛られているケースは決して少なくないから。けれども、そこを抜け出さないと、問題が深刻化する可能性も否定できないわけです。

世の中を見渡せば、子育ての専門家はたくさんいます。子育てに関わる本も、毎年量産されています。中には「とにかく褒める」とすすめる専門家もいれば、「褒めすぎるのはダメ」などと、ある論理を真っ向から否定するものもあります。つまり、子育てには正解がないのです。仕事も然り。ママが仕事をするか否かと、いい母親か否かは必ずしもリンクするものではありません。とすれば、子どものために何を選び、何を捨てるかを決めるのは、やはりあなた自身なのです。(139ページより)

世間でいう「理想の母親像」が、必ずしも子どもにとってベストとは限らないということ。そして、子どもにとって本当にベストな状態をつくれるのは、お母さん以外にいないわけです。そういう意味では、自分をしっかり持つことがなにより重要だということになりそうです。

さて、ここで話題を「受験」に変えましょう。

仕事と子育てを両立するとしたら、いつか直面するかもしれない問題が受験だからです。特に中学受験は、子どもの将来を見据えるうえで意識しないわけにはいかない問題かもしれません。

もちろん公立に進むという選択肢もあるわけですが、いずれにせよ、どうなってもうろたえずに済む心構えを持っておくことは重要。そこで、今回のご相談からすれば少しばかり気が早い話かもしれませんが、この問題に焦点を当てた書籍もご紹介しておきたいと思います。

受験は「当たり前」をきちんとこなすことを理解させるきっかけ

『共働きだからできる 中学受験必勝法!』(西村則康 著、土居佳代子訳、あさ出版)がそれ。著者は、難関中学・高校受験指導一筋のカリスマ家庭教師です。

共働きだと、必然的に子どもと一緒にいる時間が限られてしまいます。だからこそ、少しでも早く準備に入り、行きたい学校が決まった時に様々な対応が可能な状態にしておくのです(シングルマザー・シングルファーザーなどひとり親のご家庭も同様です)。「中学受験することを決めてからでいいのではないか」と思うかもしれませんが、勉強のやり方や問題を解く時の考え方などはもちろん、忙しいスケジュールを制する計画の立て方、目標に向けて自分を律する自己管理、学ぶことを面白いと思う気持ちなど、その後の学力向上、ひいては人間がよりよい知的生活を送るために大事なことなど、中学受験のために努力した経験は、必ず子どもの人生にプラスになります。(139ページより)

  • 『共働きだからできる 中学受験必勝法!』(西村則康 著、土居佳代子訳、あさ出版)

この主張を受け止めてみれば、中学受験について考えることが必ずしも早すぎるとはいえないということがわかるのではないかと思います。ちなみに著者は、共働き家庭に対しては「上手に役割分担をする」ことの重要性を説いています。

親が何から何までやってあげなければいけないと考えないでください。親ができることとできないこと、他人の力を借りてはじめてできることがあります。(中略)共働きで忙しいからこそ、上手に役割分担していきましょう。(15ページより)

当たり前の話ではありますが、その「当たり前」をきちんとこなすことは意外に難しいもの。だからこそ早い段階からそのことを理解させておく必要がありますし、そうすれば(中学受験がどうであるかは別としても)人間力を育むことができるのではないでしょうか?


子育てと仕事の両立についてはいろいろな考え方があり、『自分らしいキャリアも幸せも手に入れる! 「働くママ」の仕事術』の著者がいうように「正解がない」のだと思います。

だからこそ大切なのは、親がしっかりと自分の考え方を確立させていくこと。そのためには、今回ご紹介したものだけでなく、さまざまな関連書籍にあたってみるのもいいかと思います。

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。