悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、職場の人間関係がうまくいかず悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「職場の人間関係がうまくいかなく毎日つらいです」(54歳男性/IT関連技術職)

  • 職場の人間関係に悩んだときは

    職場の人間関係に悩んだときは


僕が自営業者として仕事をしていることには複数の理由がありますが、そのひとつが「人間関係」です。ひとりでやっているのだから、人間関係で悩む必要がないということ。それはやはり気持ちが楽なんですよね。

というのも若いころ、組織のなかでの人間関係がうまくいかず、悩んだ経験があるのです。そしてそのとき、「僕は組織には向かない人間なんだろうな」という思いに至ったわけです。

もちろん、そんな20~30代のころとくらべれば、いまは多少なりとも人間的にも成長しているはずです。しかも、(変なところにコミュ障っぽい側面があるとはいえ)そもそも人づきあいが苦手だというわけでもありません。

ですから、仮にいまどこかの組織に入ったとしても、若いころと同じように人間関係のトラブルで悩むことにはならないのかもしれません。

が、心のどこかにあのときのトラウマがまだ残っているからなのか、“組織内での自分”をイメージしてみると、どうも否定的になってしまいがちなのです。

そんなこともあるので、今回のご相談にもなんとなく共感できました。それはつらいでしょうね。そこで、お役に立ちそうな3冊の本をピックアップしてみました。

詳細がつかめないため、もしかしたら的外れになってしまう部分もあるかもしれませんが、なんらかの参考になるのではないかと思います。

人間関係に関する4つの心理的弱点

『人間関係がうまくいく12の法則―誰からも好かれる人になる方法』(ジェームズ・ウォルドループ、ティモシー・バトラー 著、藤井留美 訳、日本経済新聞出版社)の著者によれば、人間関係に関する原因は以下の4つに集約されるそうです。

・自己イメージが悪いほうにゆがんでいる。
・他人の視点で世界を見ることができない。
・権威との折り合いのつけ方がわかっていない。
・力を行使するときに居心地の悪さを覚えてしまい、上手に活用して効果をあげることができない。
(237ページより)

  • 『人間関係がうまくいく12の法則―誰からも好かれる人になる方法』(ジェームズ・ウォルドループ、ティモシー・バトラー 著、藤井留美 訳、日本経済新聞出版社)

これ以前の第1部では“マイナス思考の「キャリア高所恐怖症」”“融通のきかない「正論家」”など12種もの「人間関係がうまくいかない行動パターン」を挙げているのですが、それらの問題行動のすべては、上記の4つに関わっているというのです。

したがって、自分の行動パターンが4つの心理的弱点に裏づけされていることを知っておけば、自分の行動を変えて、周囲とうまくやっていくために役立つということです。

そのために著者が提案していることのすべてをここでご紹介することはできませんが、たとえば「他人の目でものを見る」という項目は、人間関係に悩む人の多くのヒントになるだろうと思います。

自分が正しい知識と成功する意思を持っているだけでは、ビジネスはうまくいかない。他人が介在しないことには、些細な仕事ひとつ完遂しないだろう。そうだとすれば、「視野を切り替える」ことが重要になる。つまりビジネスにかかわるほかの人の視点で、いまの状況を眺めてみるのだ。(239ページより)

著者がコンサルタントとして指導するビジネスマンの多くは、この能力に欠けているのだそうです。しかし、自分ひとりでキャリアを築くことなど不可能。目標も、課題も、ニーズもばらばらの他人とうまく協力してこそ、最大限の成功を手に入れられるということ。

そして視野を切り替えるには、自分という殻から抜け出し、ほかの人の目で世界を眺めなくてはならないといいます。ただしそれは、妥協するということではありません。視野を切り替えることは、他人をより深く知って正しく評価することだというのです。

なお、それができれば、競争するうえでも有利な足場を築けることになるだろうとも著者は記しています。

あいさつでも実践「さりげない気遣い」とは

ところで人間関係を円滑にするためには、少なからず気遣いが必要になります。そこで参考にしたいのが、『誰からも好かれるさりげない気遣い』(菊地麻衣子 著、フォレスト出版)。著者は、日本航空のCAとしてキャリアを積み、独立後は「ホスピタリティマインドトレーナー」として活動している人物です。

ちなみにこの肩書きは「元CAということはマナー・接遇講師の方なのね」という反応へのアンチテーゼなのだといいます。なぜなら、マニュアルを超えた「ホスピタリティ」を発揮できる人材育成を行う講師を目指しているから。

つまり、そんな気持ちが、マニュアルを超えた「さりげない気遣い」につながっていくということなのでしょう。

そして当然のことながら、さりげない気遣いを発揮すべき場所や状況もさまざま。そこで本書では、「オフィス」「接客・訪問」「男女」「プライベート」などのシチュエーションごとによって異なる気遣いの方法を紹介しているのです。

たとえば、円滑な人間関係の基本である「あいさつ」については、このような記述があります。

他人にとっての心地のよさ、そして自分にとって仕事をしやすい環境をつくるために必要なあいさつは、「あなたの存在を重視していますよ」と感じさせるものです。そのためのポイントは2つあります。1つ目は顔を上げて目を合わせることです。(中略)日中のさまざまな声がけに対し、顔を上げずに行ってしまうことはあると思いますが、朝一番だけは「1日よろしくお願いします」の気持ちを込めて顔を上げる手間を惜しまずにいきたいものです。2つ目はあいさつの頭に名前をつけることです。目の前にその人しかいなければ、「おはようございます」だけでも、誰に言っているかは伝わります。それでもあえて「山田さん、おはようございます」とつけるのです。心理学的なテクニックですが、それによって相手はあなたに存在を認められているように感じ、好感を持ちます。(49~50ページより)

  • 『誰からも好かれるさりげない気遣い』(菊地麻衣子 著、フォレスト出版)

僕自身も、話の冒頭に名前をつけられて心地よさを感じた経験があるので、この考え方には共感できます。いずれにしても、こうした小さなことを実践してみるだけでも、人間関係は改善の方向に向かっていくのではないかと思います。少なくとも、試してみる価値はありそうです。

「自己肯定感」を高めることの重要性

さて最後は、『自己肯定感を高めて心を軽くする方法』(マーク・レクラウ 著、弓場隆 訳、かんき出版)をご紹介したいと思います。「人間関係がうまくいかないという悩みとは関係ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、自己肯定感の低さが人間関係に影響を与えることは往々にしてあるからです。

自己肯定感は、人生のさまざまな側面に大きな影響をおよぼします。人間関係、恋愛、自信の度合い、仕事での成功、幸福感、心の平和、将来設計などを大きく左右するのです。(「はじめにーー過去に何があっても、自己肯定感は高められる」より)

  • 『自己肯定感を高めて心を軽くする方法』(マーク・レクラウ 著、弓場隆 訳、かんき出版)

たとえば仕事の場においても、自己肯定感の低い人は間違った判断をしやすくなるもの。そして多くの場合はモチベーションが低く、目標を達成できるに終わる可能性が高くなるというのです。

また、それは人間関係にも影響することでしょう。そればかりか、自己肯定感が低いことを、無意識のうちに人のせいにしようとすることもあるかもしれません。しかし、そんなことをしても問題を解決することは不可能。

過去にどんなことがあったとしても、自分の人生に責任を持ち、自己肯定感を高めることは十分に可能なのです。そのためには、自分に関するネガティブな信念を修正し、自分の人間としての価値を正しく認識する必要があります。(「はじめにーー過去に何があっても、自己肯定感は高められる」より)

こうした考え方に基づいて書かれた本書のなかには、たとえば「どう思われようと気にしない」という項目があります。

人にどう思われているかは、なにかと気になるもの。しかし、自分に対する人の意見は彼らの問題でしかありません。すべての人を満足させるのは不可能なのだから、人を気にしすぎることをやめ、自分らしさをもっと追求すべきだと著者はいうのです。

人にどう思われるかを気にしなくなると、ストレスがやわらぎ、より自由になることができます。あなたはもう誰にもふり回されず、快適な気分で生きていくことができるようになります。(239ページより)

そうすれば人の態度も気にならなくなり、人間関係も少しずつ改善されていくというわけです。


人はそれぞれ生き方も考え方も違うもの。つまり、“違う人”同士でトラブルが起こったとしても、まったく不思議ではないわけです。

だからこそ大切なのは、面倒なトラブルからも目を背けず、相手の意見を聞き、冷静に話をすること。個人的にはそう思います。そこで、自分を追い込まず、あえて楽観的に「どうすべきか」を考えてみてはいかがでしょうか? 誠実ささえあれば、きっと気持ちは伝わるはずです。

著者プロフィール : 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。