悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「若いうちにマンションを買いたい」人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「若いうちにマンションを買っておきたいが、心がけるべきことは?」(29歳男性/サービス関連)


僕も住宅ローンを抱えていますが、後悔していることがあるとすれば、やはり「もっと早くに買っておけばよかったな」という点に尽きます。もちろん、ある程度の年齢になってから購入したことにはそれなりの理由もあるのですけれど、とはいえ長くローンが続くのはつらいものですからね。

だからこそ、できるだけ早い時期に購入し、少しでも早く完済するに越したことはないと感じるわけです。

そういう意味で、「若いうちにマンションを買っておきたい」という判断は正しいと思います。ただし大きなお金が動くわけですから、いろいろ不安が生じたとしても当然。心がけるべきことは、きちんと頭に入れておきたいものですよね。

ところでご相談者さんはすでに「購入」を決めていらっしゃるわけですが、世の中ではさまざまな場面で「賃貸と持ち家、どっちが得なの?」という問題がしばしば話題になったりもします。そこでまずは基本をおさらいするという観点から、この問題について考えてみましょう。

賃貸と持ち家どっちがいい? メリット・デメリットを確認

たとえば、『子どもが小学生になる前に、家を買いたいと思ったら読む本』(浦谷基貴 著、クロスメディア・パブリッシング)の冒頭には次のような記述があります。

  • 『子どもが小学生になる前に、家を買いたいと思ったら読む本』(浦谷基貴 著、クロスメディア・パブリッシング)

いざ家を買うとなると、まとまった頭金が必要ですし、住宅ローン以外にかかる諸費用も無視できません。
一方で、最近では賃貸情報誌などで一生賃貸暮らしで家を持たないという価値観について紹介されています。しかし、賃貸暮らしをずっと続けるということは、家賃を一生支払い続けていかなければならないということです。また、引越しのたびに礼金や手数料が発生します。
では、「どっちがいいの?」という話になりますが、結論から言えば、持ち家には持ち家の良いところ、賃貸には賃貸の良いところがあり、どちらが正解ということはないのです。(15ページより)

となれば話が終わってしまいそうですが、そういうわけにもいきません。賃貸と持ち家、それぞれのメリット・デメリットを確認してみることにしましょう。

まず賃貸の最大のメリットは、ライフスタイルや家族構成、収入の変化などに応じて住み替えられること。また、転勤や転職などの理由で引越しが必要となった場合にも、賃貸ならすぐに新しい住居に移ることができるわけです。

コスト面では、その家の所有者にはならないため、固定資産税などの税金を支払わなくてもいいという点があります。また、メンテナンスの必要がないのも魅力。家を購入した場合、壁の修繕・ペンキ塗りなおしといった"定期的な支出"が必要になりますが、賃貸にはそれがないということです。

一方、賃貸のデメリットは、(当然ではありますけれど)「自分の資産にはならない」点。そもそも自分のものではないのですから、勝手にリフォームすることもできません。

さらには、定年退職などによって収入が減少したあと、家賃の支払いが大きな負担になることも考えられます。また、「子どもたちも独立したし、狭いところへ引越したい」と考えたとしても、年齢的に賃貸物件を借りにくいというデメリットもあります。

では、持ち家についてはどうでしょうか?

住宅購入の最大のメリットは、やはり「マイホームを手にしたという満足感」につきます。そればかりか、賃貸物件にくらべて居住性能が高いことや、自由にリフォームできるといったことも魅力的です。

また、きちんとした資金計画を立てれば、ローン返済後の住居費がほとんどかからなくなるため、老後の不安が解消されるということも大きなメリットであるといえるでしょう。

デメリットについては、長期間にわたるローン返済によって費用が固定されることが最大の問題。

賃貸であれば、家族構成が変わった場合や、万が一収入が減少して支払いが苦しくなった場合には、家賃の安いところに住み替えることができます。しかし持ち家の場合は、購入した時点からその先何十年と固定費が確定します。

そのため、自分の身の丈に合っていない物件を購入したり、住宅ローン選びを誤ったりすると、返済が苦しくなった際には売却しなければならないということになる可能性も。

昔と違い、持ち家を売却してもローンが残ってしまうケースも少なくないため、本当に気に入った物件を購入するべきだということです。

マンションを買うなら「60m2」!?

ともあれ今回のご相談者さんはマンション購入に焦点を絞っているようなので、次に「どんなマンションを買うべきか」について考えてみましょう。参考にしたいのは、『マンションを買うなら60m2にしなさい』(後藤一仁 著、ダイヤモンド社)。

  • 『マンションを買うなら60m2にしなさい』(後藤一仁 著、ダイヤモンド社)

著者は東京を中心に30年間、不動産の購入・売却・賃貸・賃貸経営のサポート、コンサルティング、セミナーなどを行ってきたという人物。ここ数年は「いま、本当に家(マンション)を買っていいのか」「どんな家(マンション)を買ったら、将来的に高く売れるか?」という質問を受けることが多く、それらに対し、「60m2」×「利便性のよい立地」×「2001年以降完成」という結論を導き出したのだそうです。

その理由を確認してみましょう。

・60m2前後(下限は住宅ローン減税が確実に適用される55㎡[約16坪]。上限は夫婦2人、子ども1人ならある程度余裕をもって暮らせる66㎡くらい[約20坪]
・都心、準都心の駅徒歩7分まで(エリアによっては徒歩5分)の利便性の良い立地。
・2001年以降完成
(「はじめに」より)

こうしたマンションを適正価格で購入すれば、もっとも失敗が少ないというのです。なぜなら60㎡は、さまざまな側面から見て無駄がないから。70〜80㎡にくらべて価格が手頃であることに加え、途中で売ることや貸すことになった場合でも、“守備範囲が広い”ため「売りやすく、貸しやすい」というわけです。

このクラスのマンションに入居を希望する人たちは、「夫婦2人」から「子ども1人の夫婦」に加え、「夫婦と小さな子ども2人」「シニア」「1人暮らし」「兄弟姉妹」「母子または父子家庭」などと非常に広範。また自ら住む層だけではなく、「不動産投資」や「相続税対策」などの需要もあります。

しかも今後、「広い家」を必要とするファミリー層がどんどん減る一方、「1人暮らし世帯」「夫婦の二世帯」は逆に増えていきます。

そして重要なポイントは、資産性のない物件を購入すると、その家に縛られ、住宅ローンの返済に追われるような人生になってしまうこと。

今後の人口減少・少子高齢化が加速する日本で、新たに住宅を購入し、安心して暮らしていくためには、月々の負担(固定費)はできる限り抑え、「売れなくなったり貸せなくなったりすることにより、その家(マンション)に縛られてしまうリスク」「住宅ローン破綻のリスク」を回避することが大切です。(「はじめに」より)

加えて、「家を買うなら70〜80m2以上の広さは必要」というような従来的な価値観に縛られるべきではなく、もっと自由でフレキシブルな考え方が必要。そう考えると、60m2の物件がベストだということです。

したがって、本書を参考にしながら理想の60m2物件について考えてみるのもいいかもしれません。

価値が下がらない「お宝マンション」を見極める

ところで『年収300万円で人気の街に家を買う!』(井形慶子 著、講談社)の著者は自身の経験から、不動産は築年数よりもロケーションがなにより大事なのだと実感したのだそうです。

  • 『年収300万円で人気の街に家を買う!』(井形慶子 著、講談社)

築年が古くても価値が下がらない「お宝マンション」を見極めることが大切だというわけで、具体的には以下の条件をクリアしているかどうかをチェックしているのだとか。

●ロケーション: 街の中でも、特に人気の高いエリアに位置しているか
●耐震面: 外壁にヒビが入っていないか、4階建て以下の低層で、幅広く地べたに建築された安定感ある建物であるか
●眺望:窓からの眺望が抜けているか、2面彩光であるか
●管理状況:共用部分が古新聞やごみの放置などで荒れていないか、ポスト周辺にチラシなどが散乱していないか
●価格: 広さが40m2以上あり、2000万円台までの価格であるか
(20〜21ページより)

また、こうしたお宝マンションを見つけた場合には、次の4つのポイントを忘れるべきでないともいいます。

【お宝マンションを見つけたら、最初にすべきこと】
●住宅地図を取り寄せて、周辺環境をチェックする
●想定家賃でローン支払いに充当できるか確認する
●気に入ったら、その場で申込書を書き、交渉権を確保する
●内見はまず一人で行き、周囲の雑音を交えず判断する
(25ページより抜粋)

つまり著者の場合は、実際に住んだときのことを具体的に考慮しているわけです。もちろん売却する際のことなども考えておくべきでしょうが、「住みやすさ」や「利便性」に焦点を当てて考えることも、当然ながら重要だと思います。