悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「熟睡できない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「眠りが浅く、熟睡した実感が得られない」(38歳女性/経理関連)


物心ついたときからすでに、「ちょっと異常なのではないか?」と周囲が心配してしまうほど寝つきの悪いタイプでした。ですから当時は目覚めも悪く、朝はいつもどよ〜んとした感じ。今回のご相談者さんと同じように、「熟睡したなあ」という実感を得られることはほとんどなかったのです。

早寝早起きの習慣がついたせいか、いまではずいぶん改善され、寝つけず悩む機会は減ったんですけどね。ずいぶん極端な変化ではありますが、ともあれ過去の寝つきの悪さ、眠りの浅さが尋常ではなかっただけに、眠れない悩みには強く共感できます。

熟睡できないような状態が続けば、イライラしてしまうなど精神的にも少なからず影響が出てくるかもしれません(僕も昔、そんな状態になりかけたことがありました)。そればかりか、やがて健康面にも影響が出てくる可能性も否定できないでしょう。

いずれにしてもいいことはないのですから、なんとかぐっすり眠れるようにしたいものですね。

けれど、そもそも「ぐっすり眠る」とはどういうことなのでしょうか?

「ぐっすり眠る」とは?

睡眠専門医である『ぐっすり眠る習慣』(白濱龍太郎 著、アスコム)の著者によれば、「ぐっすり眠る」ということを定義するのは簡単ではないようです。極論すれば、日常を自分が望むパフォーマンスで駆け抜けられているとき、「ぐっすり眠れている」といえるのだとか。

  • 『ぐっすり眠る習慣』(白濱龍太郎 著、アスコム)

いいかえればそれは、きちんと充電できているということです。

人は眠っているあいだ、レム睡眠とノンレム睡眠という二種類の状態を繰り返していきます。このうち、深い眠りであるノンレム睡眠には3段階あり、もっとも深い「深睡眠」と呼ばれる状態は、眠ってから4時間以内に現れることがほとんどです。
この深睡眠がしっかりとれており(理想は、一晩で2回程度)、かつレム睡眠とノンレム睡眠のバランスがいいことを、この本では「ぐっすり眠る」と表現します。(「はじめに」より)

つまり、そんな状態をつくることができれば、脳と心がきちんと回復し、パフォーマンスが上がるということなのでしょう。では、具体的にどうすればいいのでしょうか?

その答えのひとつとして、著者は"寝る前の「ぐっすりストレッチ」"の効能を強調しています。ぐっすり眠るためには、寝る直前の軽いストレッチが効果的だというのです。

ストレッチに、ラジオ体操のように反動をつけて筋肉を伸張する「動的ストレッチ」と、静止した状態で筋肉を伸ばす「静的ストレッチ」があるのはご存知のとおり。

前者はいわゆる準備体操で、交感神経を優位にするもの。対する後者は副交感神経が優位に働きやすくなるため、リラックスした状態になるわけです。

就寝前にストレッチをするなら、静的ストレッチがおすすめです。全身の筋肉を伸ばす必要はありません。例えば、ふとんの上であおむけになり、深呼吸しながら足首をゆっくり手前に曲げて再び戻す動作を、1分ほど行うだけでも効果があります。それにより、足の血行を促進し、深部体温を下げることができます。呼吸は止めず、ゆっくり息を吐くことを意識してください。そうすることで、より副交感神経に働きかけることができ、熟睡効果が高まります。(88〜89ページより)

また、近所を散歩するなど、日中の適度な運動も効果があるようです。ウォーキングのようなリズミカルな反復運動は、精神を安定させる作用のあるセロトニンの分泌を促すというのです。夜にはセロトニンをもとに、睡眠のリズムを調節するメラトニンがつくられるため、不眠症の改善に役立つわけです。

息が上がらず、軽く汗ばむくらいの速さで、一定のリズムを意識しながら30程度ウォーキングすればOK。目標は8,000歩だそうです。

ウォーキングが難しい場合は、屋内で使える子ども用トランポリンで跳ねる程度でもかまわないのだとか。可能な範囲で、できるだけ有酸素運動をすればいいということです。

おすすめは、短時間で効率よく負荷をかけられる「踏み台昇降」です。(中略)要するに段差をリズムよく昇り降りするだけです。高さ20センチほどの安定した台があれば、すぐにでもはじめられます。自宅に階段があるならば、それを活用してもいいでしょう。時間は10分程度を目安にしてください。(90ページより)

こういった有酸素運動は交感神経の刺激にもなるため、朝から昼間にかけての時間帯にやるのがベストだそう。そうすれば日中のサイクルにメリハリが出て、メンタル面でもプラスに働くわけです。

仕事の能率も、意識的に身体を動かしてからのほうが向上するというので、試してみる価値はありそうです。

マインドフルネスで睡眠の質を上げる

一方、『心のざわざわ・イライラを消すがんばりすぎない休み方』(荻野淳也 著、文響社)の著者は、睡眠の質を上げるために「寝る前のマインドフルネス」を勧めています。

  • 『心のざわざわ・イライラを消すがんばりすぎない休み方』(荻野淳也 著、文響社)

マインドフルネスとは"いま"起きていることに注意を向ける心理的な過程を指しますが、つまりここでは「寝る前に呼吸に集中して、思考のざわざわを静める」ことを重要視しているのです。

眠れないときには、不安や恐れ、心配などのネガティブな感情に左右されてしまうことが少なくありません。しかしベッドタイムにマインドフルネスを取り入れると、寝つきがよくなったりすることも少なくないというのです。

寝る前の5分でいいので、部屋の明かりを消して姿勢を正して座り、リラックスして呼吸に意識を向けてみましょう。その日の反省や明日の心配が浮かんできたら、それに気づき、また呼吸に意識を戻していきます。慣れない方は、瞑想アプリなどのガイドを使い、誘導してもらうとスムーズです。(57ページより)

なおリラックスしたあと、そのまま寝てもいいように、寝転がった状態で行なってもいいそう。専門的な道具も必要なくとても簡単なので、ぜひとも実行してみたいところです。

昼寝は「合理的な行動」

さて、夜の眠りがどうしても浅いのなら、昼寝をしてみてはいかがでしょうか? 『Google流 疲れない働き方』(ピョートル・フェリークス・グジバチ 著、SBクリエイティブ)の著者も、昼寝を「合理的な行動」として勧めています。

  • 『Google流 疲れない働き方』(ピョートル・フェリークス・グジバチ 著、SBクリエイティブ)

人間のサーカディアンリズム、いわゆる体内時計は概ね24時間周期になっており、午後2〜3時くらいに活動が低下すると言われています。昼食を食べたかどうかにかかわらず、この時間帯は眠くなりますが、無理に頑張ろうとするより仮眠をとるのがパフォーマンスアップには効果的です。(122ページより)

じつは僕も昼食後に昼寝をしているので、この考え方には強く共感できます。「昼寝をしたら夜に眠れなくなるのではないか?」と思われるかもしれませんが、むしろメリハリがついてよるもしっかり眠れるような実感が(少なくとも僕は)あるのです。

ただし昼寝ですべてを補えるわけではなく、当然のことながら、普段から睡眠を十分にとっておくことは不可欠。

できれば6〜7時間の睡眠を確保したいところですが、著者が在籍していたグーグルには、「睡眠」のとり方を指導しているチームがあるのだそうです。参考までに、このことにも触れておきましょう。

仕事が忙しかったりすると、なかなか睡眠時間をとれないこともあるかもしれませんが、一番大事なこととして、「起きる時間を一定にする」ということを指導しています。(124ページより)

平日は同じ時間に起きたとしても、休日はついお昼まで寝てしまう」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それでは体が混乱してしまうため、週明けは疲れたまま仕事を始めなくてはならないことになります。しかもそれが習慣化すれば、体内のリズムが崩れ、体に悪影響を及ぼすことになります。

ちなみに「平日は睡眠不足だから、週末に寝だめしよう」「きょうは早く帰ってこられたから早く寝るけど、明日は残業で遅くなるからあまり寝られない」というようなケースもあるでしょうが、それでは回復を望めない可能性大。

良質な睡眠をとるには、日々のパターンが重要です。できるだけ毎日の睡眠パターンを揃えるようにします。夜更かしすることが何となく習慣になってしまっている人は、すこしずつ睡眠のパターンを揃えられるように工夫してみてください。(137ページより)

眠れない日が続くと、つい「眠れない」という事実にのみ意識を奪われてしまいがち。しかし著者がいうように、本当に重要なのは大前提としての「生活のリズム」なのではないでしょうか?

眠れないと悩んでいるのなら、あえてそういった原点に立ち戻ってみるべきかもしれません。