悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、定年退職前で向上心がわかないという人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「定年間近で向上心がわかない」(60歳女性/事務・企画・経営関連)


僕はいま59歳なので、あと数ヵ月で還暦ということになります。それはそれで驚くべきことだなあと感じずにはいられないのですけれど、とはいえ組織に属しているわけではない自由業者。

病気などで倒れたりしない限りは(←まあ、ここがポイントではあるのですが)仕事を続けていけるわけですから、「定年前の苦悩」については実感しづらくもあります。

でも立場が異なるとはいえ、それでも向上心や前向きさは持ち続けるべきだとは感じます。なぜなら、よほどのことがない限り、定年後にも人生は続くのですから。

たしかに、企業人にとって定年は大きな節目。そのあとも働き続けられたいと思っている方もいらっしゃるでしょうし、定年とともに完全リタイアしたいという方もいらっしゃるはずです。しかし、どのような道を進むにしても、まだ先はあるのです。

だとすれば、どのようなかたちであれ、多少なりとも前向きさを保ち続けるべきなのではないでしょうか?

「立つ鳥跡を濁さず」ということわざもあります。「どうせもう終わりなんだから」と投げやりになるのではなく、見苦しくないように美しく後始末をしてから立ち去るべきなのです。そう考えることができるなら、定年前にやっておかなければならないことがまだまだ残っていることにも気づけるはず。

定年間近であろうとも、組織に属している以上は最後の最後まで責任を全うする必要があるということ。それができてこそ、定年後を有意義に過ごせるのです。

モチベーション向上のための3つの方法

ただし、そうとはいっても、現実的にやる気が出ない(モチベーションが上がらない)ことはあるものですよね。そこで参考にしたいのが、『やる気が出なくて仕事が嫌になったとき読む本』(菊入みゆき 著、東洋経済新報社)。著者はここで、モチベーション向上の方法を明かしているのです。

  • 『やる気が出なくて仕事が嫌になったとき読む本』(菊入みゆき 著、東洋経済新報社)

まず強調されているのが、「モチベーションを意識する」ことの重要性。モチベーションには「意識するだけで上がる」という特徴があるというのです。したがって、「きょうのモチベーション」「今週のモチベーション」「今月のモチベーション」「今年のモチベーション」というように、節目の時期ごとに意識してみることが大切だという考え方。

2つ目の方法は、やる気のもと=モチベータを育てること。

どんなことが「よし、仕事をがんばるぞ」という"やる気のもと"になっているのかを意識し、それらが強く伸びていく様子をイメージしていこうということです。たとえば、「もっとお客様の笑顔を見られるようにがんばろう」とか、「チームワークをもっと感じられるように意識して行動しよう」など。

そして3つ目の方法は、メンターを持つこと。メンターとは「師」と呼べるような、精神的なサポートをしてくれたり、相談に乗ってくれたりする人のことですが、企業で成功している人や生き生きと過ごしている人は、若いころからメンターを持っていることが多いのだそうです。

メンターを持つことのメリットとして、実践的なサポートやアドバイスをしてもらえるということがあります。仕事の現場をうまく乗り切っていくための実用的なメリットです。 さらに、精神的な支えという効用も大きいでしょう。「あの人が見守ってくれている」という大きな安心感が、やる気の底に流れるのです。(196ページより)

今回のご相談者さんにも、こうしたメンターの存在が必要なのではないかと感じます。僕の勘違いかもしれませんが、「定年間近で向上心がわかない」という思いをおひとりで抱え込んでいるようにも感じられるからです。

でも、社内であれ社外であれ、現在の気持ちに寄り添ってくれるような人はどこかにきっといるはず。そういう人に支えとなってもらえれば、現在の局面を乗り越えることができるかもしれません。

仕事以外に熱中できることを探す

一方、視点を変えてみれば、また別にわかることがあります。仕事で向上心が持てなかったとしても、とくに問題はないということ。なぜなら、人生は仕事のためだけにあるわけではないから。

それは、『「会社員」として生きる。』(石川和男 著、きずな出版)の著者の主張でもあります。

  • 『「会社員」として生きる。』(石川和男 著、きずな出版)

私たちの目的は楽しく、充実した人生を送ることです。
仕事は、それを実践するための手段の1つでしかありません。(191〜192ページより)

ちなみに手段としての仕事には2つの使い方があり、まず1つ目は仕事そのものを楽しむこと。仕事に夢中になったりやりがいを見出したりできれば、そこに喜びを見出すことができるわけです。が、それはうまくいかないというのが今回のご相談の趣旨ですよね。そこで注目したいのが、著者のいう"仕事のもう1つの考え方"。

会社の仕事は、あくまで生活のためのお金を稼ぐ手段と割り切り、楽しみややりがいは仕事以外で見つける、というスタンスです。(193ページより)

これからの時代は、仕事以外をいかに楽しめるかが重要になってくるとさえ著者は主張しています。なにか熱中できることを見つけるべきであり、そういう意味で無視できないのが「趣味」を極めること。

たとえばここでは著者が個人的におすすめできる趣味として、「運動・スポーツ」「読書」「映画鑑賞」「勉強」が挙げられていますが、もちろん他にも有意義な趣味にできることはいくらでもあるはず。仕事に役立ちそうなものでもいいでしょうし、趣味の延長として資格取得を目指すという方向性もあることでしょう。

制約はないのですから、自分が心地よい時間を過ごすための"なにか"を探し出せばいいわけです。いずれにしても、仕事以外に熱中できることがあれば、仕事をする際にもモチベーションを維持できるようになれることでしょう。

仕事に楽しみを見出す人もいれば、副業に楽しみを見出す人、趣味に楽しみを見出す人、家族との団らんに楽しみを見出す人もいるでしょう。
仕事が楽しくないのであれば、仕事以外のところで楽しみを見出せればそれでいいのです。(199ページより)

改めて自分自身を見つめなおす

タイトルこそ"50代限定"のように思えますが、『心を満たす50歳からの生き方』(加藤諦三 著、大和書房)は必ずしも読者の年齢層を限定するものではありません。40代の方が読んでも60代の方が読んでも、それぞれ共感できるところがきっと見つかるはずです。

  • 『心を満たす50歳からの生き方』(加藤諦三 著、大和書房)

高齢期を充実して生きられない人は、ある年齢に達しているのにまだ外への拡張の発想から抜け出せないでいる。
若い頃は「あれができる、これができる」という発想でいいかもしれない。こんなに速く走れる、こんなに大きな事業を成し遂げた、こんなに多くの外国語を話せる、こんなに多くの人を知っている、こんなにお金を儲けた等々、外への拡張機の発想である。
要するに「形」を問題にした発想である。
この外への拡張から内面の充実に方向転換ができないと老いてから不満になる。いつになっても若い頃の心理的課題を解決できない。(「はしがき」より)

これは、人間の成長に関する本質を捉えた記述だといえるのではないでしょうか? また、著者は次のようにも主張しています。

「悩みは昨日の出来事ではない」とべラン・ウルフはいうが、まさにその通りである。
定年で悩んでいると思っているが、別に定年が問題ではない。
その時までのその人の生き方の結果が、今の悩みの気持ちである。(中略)
「さあ、やるぞ」という意欲があっても、周囲の現実の世界に興味と関心がない。
自己執着が強いから、長いこと現実の世界で生きていない。
「興味と関心の覚醒」という青年期の課題を解決しないで、肉体的、社会的に壮年期や高齢期になってしまった。(27ページより)

けれども、青年期の課題である「興味と関心の覚醒」の解決があって初めて、定年後の趣味が準備できるというのです。そういう意味では、いま改めて自分自身を見つめなおしてみることも重要な手段だといえそうです。