悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「マルチタスクができない」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「ポイントやキャッシュレスなどうまく活用しているつもりだが、なかなか貯蓄が増えない」(37歳男性/販売・サービス関連(小売・フード・旅行・ホテル・エステ他))


恥ずかしながら根が大ざっぱなので、僕はポイントを集めたりすることが苦手です。

もちろん仕事で必要な本をアマゾンで買ったりすることは多いので、そんなことを続けていれば自然とポイントは貯まっていくことになります。ですからそれはどこかのタイミングで使うわけですけれども、そもそもたいした額ではありません。

そのため"ポイントの恩恵"を感じることもあまりなく、したがって「少しでもポイントを貯めよう」という前向きな発想にはなかなかなれないのです。だから、ポイントやキャッシュレスを使いこなしている人は純粋にすごいなあと感心してしまいます。

しかし、その一方では別なことを感じてもいるのです。「貯蓄を増やす」という観点から考えた場合、ポイントやキャッシュレスなどをうまく活用することよりも、もっと大切なことがあるのではないかと。

それは、「この先に訪れる未来のためのお金について考えること」です。

そこでビジネス書を参考にしながら、「貯蓄を増やすためにはどうしたらいいか」について考えてみたいと思います。

お金を増やす方法は3つだけ

『「お金の不安」から自由になるための お金が増える強化書』(上岡正明 著、アスコム)の著者は、宣伝PRコンサルティング会社の経営者、プロの個人投資家、YouTuber、ビジネス書作家、脳科学研究者、大学講師など、さまざまな顔を持つという人物。

  • 『「お金の不安」から自由になるための お金が増える強化書』(上岡正明 著、アスコム)

お金の心配もなく、「経済的自由人」としての自覚を持っているそうですが、そうなれたのは"お金が増える波"に乗れたからなのだと自覚しているのだとか。興味深いのは、「お金を増やす方法は3つしかない」と断言している点です。

それぞれについて確認してみましょう。

(1)サラリーゲイン

これは著者による造語で、生活の糧にしている「本業」で得られる収益。といってもサラリーマンだけにあてはまるものではなく、フリーランスなどの場合も、本業で得られる毎月の収入と捉えればいいということ。

著者にあてはめれば、20年近く経営しているというPR会社の役員報酬がサラリーゲインということになるわけです。

(2)サイドゲイン(副業での利益・事業所得)

これは、本業以外の「副業」で得られる収益のこと。上記のように、著者でいえばYouTuberやビジネス作家、セミナー講師などの活動から得られる収益がこれにあたります。

(3)キャピタルゲイン/インカムゲイン(投資での利益/金融所得)

「キャピタルゲイン/インカムゲイン」は、投資によって得られる利益。たとえば株を買った企業の株価が値上がりしたとすれば、そのぶん利益がもたらされることになります。それがキャピタルゲイン。また、投資先によっては、配当金が定期的に支払われることもあり、それがインカムゲイン。

不動産でも基本的な仕組みは同じで、土地の売却で得られる利益はキャピタルゲインで、毎月の家賃収入はインカムゲインということになるのです。

お金を増やしたいときには、これら3つのゲインをいかに増やしていくかがテーマになるのだと著者は主張しています。なお、お金を増やすというと投資のことばかりを考えてしまいがちですが、実は投資の利益を最大化させるにあたっては、「サラリーゲイン」と「サイドゲイン」を増やしていくことがとても重要なのだそうです。

安定したサラリーゲインやサイドゲインを上手に活用すれば、投資に回せるお金が増えて、爆発的な利益を生み出せる可能性が生まれるということなのです。(「はじめに」より)

また、本業や副業で毎月の収入が安定すると、心に余裕が生まれるというメリットも加わります。投資への不安や恐怖がなくなり、冷静な判断ができるようになるということ。

つまりサラリーゲインやサイドゲインという「お金を増やす小さな波」に乗れると、やがてキャピタルゲインやインカムゲインという「お金を増やす大きな波」に乗れるようになるわけです。

本業、副業、投資、それぞれのゲインの波。これら3つ、すべての波を使い分けながら上手に乗りこなし、最後にビッグウェーブを乗りこなす。これが、経済的自由人になるための鉄の掟だと心得ておきましょう。(「はじめに」より)

大切なのはお金を稼ぐ・貯める・増やす力

『新時代の堅実なお金の増やし方』(小宮一慶 著、ぱる出版)のメインテーマも「お金の増やし方」ですが、著者は「お金をただ増やせばいいというものではない」とも主張しています。どういう生き方をするかということを考えてお金を稼ぎ、貯めて、そのお金を増やし、そしてどう使うかが大切なのだと。

  • 『新時代の堅実なお金の増やし方』(小宮一慶 著、ぱる出版)

たしかに、お金の増やし方にはいろいろな方法があります。ですから、どのようなお金の増やし方を選ぶかは人それぞれの選択ということになるはず。なかには投資で大儲けをしたいと思っている「一攫千金派」もいるでしょうが、本書はそういう人に向かないと著者は記しています。

この本で紹介するお金の増やし方は、私がこれまでに実践してきた投資法です。私は、自分が額に汗して稼いできたお金をハイリスクにさらしてまで大金を手にしたいと思ったことはありません。したがって、一攫千金派の期待にはまったく応えられないのです。(「プロローグ」より)

そんな著者の投資法とは、ある程度のリスクを取りながら、それでも無理をせず「地道に」お金を増やしていく方法。もちろんローリスクではないものの、うまく投資すれば、ミドルリスク・ミドルリターンを得られるというイメージだそうです。

さらにもうひとつ重要なのは、余裕資金で投資すること。「少なくとも4、5年は使わないお金での投資」が大前提だというわけです。

ちなみに著者は、お金を増やすための3つの力として「稼ぐ力」「貯める力」「増やす力」を挙げています。お金を稼ぐ力がないと、貯めることも増やすことも困難。したがって、まずは稼ぐ力を養うべきだというのです。

最初に、稼ぐ力をつけ、その上で(それと同時にでももちろんかまわないですが)、貯める力→増やす力という能力を養うことになります。3つの力を順次にアップしていくことを目指してください。
3つの力のうち、1つが欠けてしまうだけで、お金の増えるパワーがみるみる減退してしまいますので、3つの力をバランス良く同時に養うことが大切になるのです。(42ページより)

つまり3つの力がそれぞれパワーアップしたとき、安定してお金を増やすことができ、10年で資金を2倍にできる投資環境ができるというのです。そのメソッドのすべてをここでご紹介することはできませんが、実際に本書を手に取ってみて、参考にする価値はありそうです。

貯蓄よりも毎月の収支を黒字にすることを考える

ところで、ご相談者さんは37歳とのこと。そのため、『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(山中伸枝 著、東洋経済新報社)というタイトルを見ても「まだまだ先の話」だと思われるかもしれません。

  • 『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(山中伸枝 著、東洋経済新報社)

しかし現実的には、あと13年で50歳です。そう考えれば、いまから準備しておくことは決して遅くないということがわかると思います。

本書の冒頭に登場するのは、少し前に世間を賑わせた「2,000万円問題」です。老後に安定した生活を送るためには2,000万円の貯蓄が必要だという考え方は、多くの人を不安にしたものです。

しかし、この点について著者は、年金や退職金を上手に活用すれば、老後は破綻しないようにできているので大丈夫だと主張しています。とはいっても、実際に老後破たんする人がいるのも事実。それはなぜなのでしょうか?

この問いに対して著者は、「50歳を過ぎても、いままでのお金に対する考え方を変えることができないから」だと答えています。そして50歳になったら、次のように考えることが大事だというのです。

貯蓄を増やすことよりも、毎月の収支を黒字にすることを考える。(「はじめに」より)

そのために必要なのは、これからの収入や支出がどう変わるのかを知ることではないでしょうか。

まず55歳前後になると、「役職定年」を迎えます。会社の制度によっても違いますが、一定の年齢に達するといまの役職から降ろされ、給料も減るわけです。そしてその5年後には、雇用延長期間に入ります。たしかに昨今は、雇用延長期間として65歳まで働ける環境を整えている企業も増えていますよね。ただしここでも、給料は大幅カットになります。

そして65歳になると、いよいよ年金生活がスタート。もちろん、以後も現役時代と同じくらいの額がもらえるわけではありません。

ざっと考えてみただけでも、あと10数年後に訪れる50代以降の生活がいかに大変かはイメージできるのではないでしょうか。だからこそ、漠然とでもイメージしておくことは無駄ではないと思います。