悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、人生に悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「人生の目標がありません。ただ生きてるみたいです」(44歳男性/技能工・運輸・設備関連)


ただ毎日決まった生活を送っていると、どうしてもペースは単調になってしまうものです。しかも仕事が中心になっている場合、変わりばえのしないルーティンワークに流されてしまいがちでもあります。

かつて小さな零細広告代理店に勤務していたころの僕も、似たような思いを抱いたことがあります。慣れていただけに日々の仕事を無難にこなしていく自信はありましたが、やはり虚しいのです。

「このままで、本当にいいのかな?」

ひさしぶりに思い出しましたが、30代にかかったばかりのあのころ、ずいぶん悩んだものです。いま文章を書いて生きているのも、あのときの苦悩があったからこそ。「生きている価値」のようなものをなんとか見つけたいという思いが、この仕事に結びついていったのです。

いや、僕のことはどうでもいいのですが、そんなプロセスをたどってきたからこそ、お気持ちはとてもわかるわけです。

でも、そんなときには改めて、「生きる」ことの意味を問いただしてみてはいかがでしょうか? 大げさだと言われるかもしれませんし、そうすることで答えがわかるわけでもないとは思います。

しかし、自分自身の原点を再確認するという意味において、決して無駄ではないはずなのです。そこで今回は、参考になりそうな3冊をチョイスしてみました。

「質問家」が問う人生の意味

答えを探しているときは、誰かに質問をしてみるのもひとつの手。そういう意味で、『人生、このままでいいの? 最高の未来をつくる11の質問』(河田真誠著、CCCメディアハウス)の著者の仕事には相応の価値があるのかもしれません。なぜなら、「質問家」という肩書きを持っているのですから。

  • 『人生、このままでいいの? 最高の未来をつくる11の質問』(河田真誠著、CCCメディアハウス)

生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「しつもんの専門家」として、企業研修や学校で授業を行っているというのです。もちろんそれは本書も同じで、その内容について「人生の道しるべ」になる本だと著者は記しています。

といっても、この本には、ありがたい名言が書いてあるわけでも、きらびやかな成功ストーリーが紹介されているわけでもない。ここに書かれているのは「質問」だ。質問には偉大な力がある。僕は質問に答え続けることで、人生を切り開いてきた。よりよい人生を求める中で、道に迷っても後悔ない決断ができたのは、そこに「よい質問」があったからだと信じている。(「はじめに」より)

具体的には、「今、何を感じているだろう?」「やめたいことや、捨てたいことは何だろう?」「もし何でも叶うとしたら、何を叶えたいだろう?」などの質問を出発点として、さまざまなアドバイスを行っているわけです。

そして今回のテーマに関していえば、「何のために生きているのだろう?」という項目が特に役立ちそうです。

この項で著者は、人生には、やらなくてはいけないことで埋め尽くされた「こなすだけ」の人生と、やりたいことであふれた「創造的な」人生があると指摘しています。当然ながら、よりよい人生を送るためには後者を選択すべき。そのためには、好きなことを仕事にするのが先決だということです。

しかし、好きなことを仕事にするという話をすると、起こしやすい勘違いがあるので注意したい。それは「楽(ラク)」と「楽しい」は違うということだ。(中略)「楽(ラク)する」とは動かないこと、手間をかけないでいいこと、ワクワクすること、喜びを感じることだ。(中略)だからこそ、チャレンジする楽しさを知らない人は小さくてもいいので、ぜひ何かにチャレンジし、成し遂げる喜びを味わってほしい。(112~113ページより)

ひとつひとつの質問に対し、著者はこのように熱いメッセージで答えています。他にも今回のテーマに即した回答が数多く収録されているだけに、手にとってみればなんらかの気づきを得ることができるかもしれません。

迷ったときのヒントになる言葉

タイに生まれた『いのちの最後の授業』(カンポン・トーンブンヌム著、浦崎雅代訳、サンガ)の著者は、22歳のとき体育教師として水泳の模範演技中に事故に遭い、全身麻痺になってしまったという人物。

  • 『いのちの最後の授業』(カンポン・トーンブンヌム著、浦崎雅代訳、サンガ)

苦しい日々を送るなか、ルアンポー・カムキアン師という仏教僧に出会ったことがきっかけで瞑想をはじめ、幸せに生きる道を見出すことに。その後、2016年4月に60歳で逝去するまで、講演活動やラジオ番組などを通じて、多くの人に影響を与えてきたのだそうです。

その追悼本である本書は、著者が遺した説法と、友人たちからの手紙をまとめたもの。当然のことながら仏教がベースになっているわけですが、その魅力は、仏教徒でなくとも理解することができるということ。

多くはシンプルな言葉なので、ふと迷ったときにページを開いてみれば、なんらかのヒントを見つけ出せる可能性があるのです。

人生の定義
人生とは、学びです。
正しいも、間違いも、ありません。
ただ、学びとなる、教訓があるだけです。
最高の、学びに、達すること、
それは、真実を知ること。
そして、苦しみから、脱することなのです。
(82ページより)

たとえば今回のテーマに関していえば、このような説法は「考えるきっかけ」となってくれるのではないでしょうか?

「禅」のなかから答えを見出す

さて、もうひとつの手段としては、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ、グーグル元CEOのエリック・シュミットら、多くの著名人に影響を与えた「禅」のなかから答えを見出すという手段もあります。

そこで、その入り口としておすすめしたいのが、『禅に学ぶ人生の知恵 澤木興道名言集』(澤木興道、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。日本を代表する禅僧である、澤木興道(さわきこうどう)の名言集です。

  • 『禅に学ぶ人生の知恵 澤木興道名言集』(澤木興道、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

幼くして両親を失い、決して裕福とはいえない養父母のもとで育ったという経歴の持ち主。1899年、19歳の年に永平寺で出家。生涯独身を貫き、自分の寺を持たず、各地の道場を転々として坐禅を広めたという人物です。のちに駒澤大学特任教授として、後進の指導にあたったことでも知られています。

興道の魅力は、一切の無駄を削ぎ落とした、シンプルで力強いメッセージ性。その教えが、米スタンフォード大学にある曹洞禅センターにうけ注がれたという事実からも、影響力の大きさがわかることでしょう。

多くの講話のなかから現代人にも響く言葉が厳選されているだけに、本書もきっと、迷い悩む人に力を与えてくれるはずです。

先を考えるから苦しい
人間というやつはおかしなことを考えるもので、そのままずっとゆけば何のこともないのだが、それから先を考える。
(28ページより)

今、すべきことがある
自分には自分のすべきことがある。
今日は今日のすべきことがある。
今は今のすべきことがある。
(29ページより)

ただ働く
ただ働く。
ただ働くということほど愉快なことはないんじゃ。
どうかしてただ働いて、食わんで死んでやろうと思ってガン張っておるけれども、わたしらまだ生きておる。
一生懸命命がけでただ働く。
(34ページより)

このように、ひとつひとつの言葉はとてもシンプル。しかも強さのなかに暖かさを感じさせるからこそ、無理なく心に飛び込んでくるのです。

深刻に考えすぎると頭が混乱してきて、「なにを考えるべきか」「なにをすべきか」を見失ってしまいがち。そんなときに本書を開いてみれば、忘れかけていたことを思い出せるはずです。


今回の3冊を読みなおしてみた結果、改めて感じたことがあります。

「人生の目標」について考えようとすると、必然的に気持ちは重たくなっていきます。しかし本当に重要なのは、「いま」がプロセスにすぎないということ。いいかえれば、ここで出すべき答えがすべてではないわけです。だからこそ、この3冊も「自分が前に進むためのきっかけ」として活用すれば、それでいいのではないでしょうか。やがて、それがなんらかの結論に到達するはずなのですから。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。