悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、今の仕事にやりがいがない人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「今やっている仕事にやりがいがなく転職する勇気もなく悩んでいます」(51歳男性/その他・専業主婦等)


小さな会社に勤めていた30代前半のころ、仕事がつまらなすぎて毎日苦悩していました。

実務には慣れていたため、そつなくこなしてはいました。でも完全にマンネリ化していて、刺激が圧倒的に少なすぎたのです。しかも結婚して数年というタイミングだったものですから、簡単に辞めることもできません。

そこで考えに考えた末、思いついたのがライターになることでした。もともと文章を書くこと、そして音楽が好きだったので、書いてみたかったいくつかの音楽雑誌に原稿を送ってみたのです。その結果、思っていたより簡単にライターになることができ、以後しばらくは会社に勤めながらライターの仕事をしていました。

その後、会社を辞めることになったり、ある雑誌の編集部に編集長として招かれたり、独立したりと、いろいろなことがありました。現在は音楽ライターよりも作家・書評家としての仕事がメインになっていますが、ここに至るまでにはそのような経緯があったのです。

そんな経験をしてきたからこそ、「仕事にやりがいがない」と悩む方の気持ちはよくわかります。

でも、結論から言えば答えは2つしかないと思います。思い切って転職するなど環境を変えてみるか、あるいは現状のまま我慢を続けるか。つまるところ、それ以外にないのです。

とはいえ、後者は避けたいところでしょう。だとすれば、まずは動くために、さまざまな仕事のあり方を確認してみてはいかがでしょうか? 「自分にはまったく接点がなさそうだな」としか思えない仕事からも、意外なことを学べるかもしれないのですから。そして、それが自分自身を変えるためのきっかけになるかもしれないのですから。

そこで今回は、さまざまな仕事のあり方を紹介した3冊をピックアップしてみました。

丸亀製麺の社長秘書が語る「常識破り」なビジネス

最初は、『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(小野正誉著、祥伝社)。タイトルからもわかるとおり、うどん業界でダントツ1位の実績を誇る丸亀製麺が「売れ続ける秘密」を明かした書籍です。

  • 『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(小野正誉著、祥伝社)

著者は、丸亀製麺の経営母体である「トリドールホールディングス」で社長秘書兼IR担当をしている人物。つまり創業者である社長の生の声を聴く機会に恵まれてきたわけです。

まず驚かされるのは、同社がもともと焼き鳥店から始まったという事実です。しかも要所は、うどんに関するノウハウなど持ち合わせていなかったというのです。

丸亀製麺の正式名称は、「讃岐釜揚げうどん 丸亀製麺」です。その名前を聞くと「香川の麺職人が立ち上げた店なんだな」と思うかもしれません。
そんな皆さんの想像に反するかもしれませんが、社長の粟田貴也は元々麺職人ではなく、兵庫県で焼き鳥店を創業した人なのです。
粟田社長は学生時代に飲食店をやろうと決め、大学を中退して起業資金を稼ぎ、1985年に兵庫県加古川市に焼き鳥店「トリドール三番館」を開店しました。(26ページより)

粟田社長は、当時24歳。限られて資金での開業だったものの経営は厳しく、焼き鳥ならぬ、閑古鳥が鳴く状態だったのだとか。しかし紆余曲折を続けるなかで、ある結論にたどりついたのだといいます。

・大衆性
・普遍性
・小商圏対応

この3つが重要だという考え方。単発的なアイデア勝負で行くのもビジネスのひとつの手法ではありますが、資金や人手が限られていて、景気も良くない状況でクリーンヒットばかりを狙い続けるのは困難。

そこで、王道というべきこの3点を重視し、差別化を図る道筋を見つけることこそが長く売れ続ける秘訣だということに気づいたわけです。いうまでもなく、その考え方は丸亀製麺に引き継がれていくことになります。

いわば丸亀製麺の成功は、若くてお金もノウハウもなかった創業者の「常識破り」の姿勢があったからこそ実現できたもの。それは、どのような職種にも応用できる普遍的な考え方でもあると思います。

倒産寸前の煎餅工場が復活した理由

この本に書かれていることは、スケールの大きな話ではありません。即効性のある役立つ情報が載っているわけでもありません。
東京下町にある倒産寸前の煎餅工場を、4代目兄弟が、がむしゃらに走り続けて、家業を立て直した、過去から今の"リアル"を記した本です。
読んでいただいた方に、その"リアル"から何か"ポジティブ"な力を少しでも感じてもらえたらと思い、筆を執らせていただきました。(「はじめに」より)

『倒産寸前からの復活! センベイブラザーズのキセキ ~赤字を1年で黒字化 金、時間、経験なし 町工場の奮闘記~』(センベイブラザーズ著、大和書房)の冒頭には、こう書かれています。

  • 『倒産寸前からの復活! センベイブラザーズのキセキ ~赤字を1年で黒字化 金、時間、経験なし 町工場の奮闘記~』(センベイブラザーズ著、大和書房)

著者は、2014年に倒産寸前の家業である煎餅工場を引き継ぎ、起死回生のために工場初の小売ブランド「センベイブラザーズ」を立ち上げた40歳前後の兄弟。それから数年のうちにセンベイブラザーズは独自のポジションを築き、家業を成長させることができたのだそうです。

と書いてしまうと、順調に進んできたように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。時系列に沿って話が進められて行く本書に目を通すと、彼らがさまざまなトラブルを乗り越えてきたことがわかります。

貧困生活、借金返済までの日々、アル中になる父親、崩壊する家庭、父親の死、弟が工場長になるも売上減、果ては工場閉鎖の危機ーー。

"金なし、時間なし、経験なし"
2014年9月、僕らのスタートはまさにこの三重苦から始まる。何かを始めなければいけないのだが金がない。金がかかることはできず、かといって何かをやらないと、工場は瀕死状態。銀行の追加融資がストップしてしまったため、もはや延命措置もできない。時間なしの待ったなしである。
そして、極めつけは、経験なし。強みは弟が煎餅を焼けるくらいで、米菓業界の中ではとても経験というに及ばない。直売をやるとは言ったものの、小売経験は皆無の僕らである。(50~51ページより)

しかし彼らはやがて、そんな自分たちにも武器があるということに気づきます。兄はデザインができて、弟は煎餅をつくれるということ。ジャンルこそ違えど、ものづくりことが兄弟の強みだったというわけです。

その武器を最大限に使いながら、全てにおいて、自分たちのできることを全力でやるしかない。(51~52ページより)

かくして彼らはブランドを立ち上げ、地道に活動を続け、自社の商品を「インターネット販売で最長1~2か月待ちのせんべい」として広く認知させることに成功するのです。そこに至るまでのプロセスが熱い筆致でつづられた本書は、「どんな逆境に追い込まれたとしても、本気で取り組めばなんとかなる」ということを教えてくれます。

元暴力団員がやりなおす姿に学ぶ

『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。 極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記』(廣末 登著、新潮社)の著者は、福岡・博多を拠点として犯罪社会学を研究しているという人物。

  • 『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。 極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記』(廣末 登著、新潮社)

具体的には、反社会勢力と言われている暴力団に向かってしまう若者の行動や心理、境遇、また暴力団を辞めた人(暴力団離脱者)の社会的な復帰についても、彼らから直接話を聞くという方法を用いて研究しているのだそうです。

福岡県で暴力団排除条例(暴排条例)が制定された平成22年以降は、全国的に暴排の嵐が吹き荒れました。筆者は、暴力団員のみならず、彼らの家族、そして、暴力団を辞めた者にまで社会権が制約される現実を見るにつけ、「こらあ、誰かがちゃんと研究せんといかんばい」と考えるようになりました。なぜなら、筆者が研究で知り合った暴力団離脱者ーー元ヤクザの人たち、その家族も、かなり窮屈な生活を余儀なくされていることを知ったからです。(「はじめに」より)

あるとき著者は、北九州・小倉の街角で、ひとりの暴力団離脱者を受け入れ、共存しているという実例に出会うことになります。そして、そこで行われている暴力団離脱者の企業を題材として、彼の反省も含めて書きとめようと考えたのだそうです。

そのような経緯を経て誕生したのが、北九州市内で暴力団離脱者がうどん店を開業するTVドキュメンタリー「元ヤクザ うどん店はじめます」、そして本書。

そんなところからも推測できるように、本書は「転職」や「起業」をテーマにしたものではありません。それどころかページの大半は、30年の極道歴を持つ暴力団離脱者の壮絶な人生ドラマに費やされています。

描かれているのは、泣く子も黙る武闘派組織の元専務理事であった彼が、銀行口座開設も保険加入もできないシビアな現実と戦いながら「堅気の人生」をやりなおそうと奮闘する姿。

つまり描かれているのは、「転職のヒント」のようなこととは無縁の世界です。しかし、逆境を乗り越えようとする暴力団離脱者の姿は、「うまくいかない仕事の現状をなんとかしたい」と考えている多くの人の心のなかにも、さまざまな思いを残してくれるのではないかと思います。


長く仕事を続けていれば、「つまらない」「やりがいがない」など否定的な思いと直面することは誰にでもあるはず。しかし、そんなときこそ、「仕事をする」ということの意義を再確認すべきではないでしょうか? そういう意味で、それぞれタイプの異なるこの3冊は、なんらかのヒントを与えてくれるはずです。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。