悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、会社組織の中で恋愛することに悩んでいる方へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「職場恋愛しても組織のバランスがくずれない方法はありますか」(33歳女性/メカトロ関連技術職)

  • 職場恋愛で失敗しないために


このような質問をくださったということは、いま職場恋愛をしていて、その影響で職場のバランスが崩れつつあるということかもしれませんね。

だとすれば、やはりそれは早めに解決する必要があるでしょう。もしも現在まずい状況にあって、しかも“そのまま”になっているのだとしたら、今後さらにバランスが崩れる可能性があるのですから。

しかし、よくよく考えてみると、ご本人にとっては少しばかり腑に落ちない話なのではないでしょうか? なぜって、そもそも恋愛は自由なのですから。

もちろん、職場全体に悪影響を及ぼす上司との不倫関係とか、そういうことであれば話は別です。そうなのであれば改善の余地はあまりなく、潔く職場から身を引くか、あるいはその相手との関係を断つしかないかもしれません。

でも、そうではなく純粋な恋愛であるなら、誰にもその関係をとやかくいう権利はないはずです。繰り返しますが、恋愛は自由なものなのですから。

ただし、自由には責任が伴うものでもあります。これは恋愛に限った話ではありませんが、「自由でいる」ということは、自由でいることに伴うすべての責任を背負うということです。

ですから、つまりは現在ある状況のなかでの責任を背負えばいいのです。「やるべきこと」さえしっかりやれば、必然的に文句を言う人はいなくなるはずなので。

では、今回のことに関する責任とはなにか? それは、職場の雰囲気を乱さないこと、そして自分の仕事をしっかりやることだと思います。

仮に現在、ラブラブなムードを社内に振りまいているのだとしたら、非難されて当然。そんなことは人の目がないところでやるべきだからです。したがってそういう場合は、まずその点を考えなおしてみなければならないでしょう。

そして、仕事は仕事、恋愛は恋愛と割り切り、与えられた職務を全うするべき。逆にいえば、恋愛に気を取られて仕事もろくにできないのであれば、社会人としては失格だからです。

仕事においても恋愛においても、立場をわきまえて、やるべきことをやる。やはり、それに尽きると思います。

社内恋愛には「ルール」がある

  • 『社内恋愛の教科書』(片瀬萩乃 著、あさ出版)

「人を好きになる」という点においては、どんな恋愛も違いはありません。
しかし、社内恋愛に限っては、他の恋愛と同じように行動するとうまくいかないことがよくあります。
にもかかわらず、ほとんどの人が他の恋愛と同じように行動してしまうのは、なぜでしょうか? それは、社内恋愛の「ルール」を知らないからです。(「はじめに」より)

『社内恋愛の教科書』(片瀬萩乃 著、あさ出版)の著者は、本書の冒頭でこう主張しています。

会社はそもそも仕事をする場なので、そこで恋愛をするのであれば、他の恋愛と同じようにいかないのは当然の話。多少は制約がかかるわけですが、ルールを知り、ルールを守ればいいということ。上記の「やるべきこと」がこれにあたると思います。

たとえば著者は「ケンカをしたときの行動ルール」のひとつとして、「なにがあっても普段と同じように接する」ことの重要性を説いています。

大事なのは、たとえケンカ中でも、普段と同じように接すること。どんなに相手の態度が許せなくても、絶対にしゃべりたくないと思っても、会社の中ではその気持ちを表に出さず、いつもと変わらない自分でいてください。
これは社内恋愛中のカップルの大原則です。(200ページより)

理由は、2人の関係を周囲に気づかれないため。普段、周囲に知られないように細心の注意を払っていたとしても、ケンカ中だとどうしてもそういった配慮がおざなりになってしまうということです。

ちなみにこれは、ケンカをしているときに限らず、社内のすべての状況に当てはまることだと思います。つまり社内恋愛をするにあたっては、周囲に対する細やかな配慮を一時も忘れるべきではないのです。

気をつけるべき女性間の人間関係

ところで、周囲に対する配慮について考えた場合、女性間の人間関係にも気を遣う必要があるのではないでしょうか? 僕は鈍感な男なので偉そうに言えないのですが、女性には繊細な部分がありますから、社内恋愛する際にも、同性としての配慮が必要となるのではないかと感じるのです。

  • 『女子の人間関係』(水島広子 著、サンクチュアリ出版)

そこで参考にしたいのが、『女子の人間関係』(水島広子 著、サンクチュアリ出版)。精神科医である著者が、なにかとめんどくさい女子の人間関係を医学的な観点から俯瞰した書籍です。

たとえば恋愛に関しては、「恋バナはお祭り」という項目があります。社内恋愛を知られている場合、あるいは知られてないないものの、なんとなく勘づかれているような気がする場合、ここに書かれていることは多少なりとも役に立ちそうです。

悩み相談と同様、恋バナも「形ばかりのつながり」においては重要なもの。ちゃんと自分を信頼して打ち明けているか、相手は幸せ過ぎないか、ということを「女」は常にチェックしています。(139ページより)

そもそも、他人の恋人のことを「その彼氏はおかしい」などと決めつけたりする時点で「女」度は相当高いと言えそうです。しかし考え方として、ある程度は仕方のない「社交儀礼」として余裕を持って接するか、あるいは「女」度を下げ、こういう「親しい関係」に執着しないか、どちらかを取れるだろうと著者は記しています。

前者の場合、「恋バナはお祭りのようなもの」と考えればいいそうです。仲間としてやっていくための「社交儀礼」と捉えられれば、自分の恋バナに対して領域意識のない「女」が決めつけをするのも、「お祭り」の一部として諦めることができるというわけです。

そしてもうひとつの手段は、恋バナから距離を置くこと。恋バナで「形ばかりのつながり」を維持しようと思わないということです。特に自分自身の恋愛が絡んでいる場合には、こちらのほうが適しているようにも思えます。

自分の恋愛相談は、親友と呼べる信頼できる人にだけして、恋バナを踏み絵のようにしている人たちとは一定の距離を置き、馬鹿にしているわけではないことを示すために愛想をよくしておく、というのも一つの道だと思います。(140ページより)

「認めること」の重要性

最後にご紹介したいのは、『男性上司の「女性は気がきくね」はなぜ地雷なのか?』(齋藤 直美 著、あさ出版)。タイトルからもわかるとおり、女性の扱い方に悩む男性をターゲットにした書籍です。

  • 『男性上司の「女性は気がきくね」はなぜ地雷なのか?』(齋藤 直美 著、あさ出版)

ですから女性であるご相談者さんは違和感を覚えるかもしれませんが、ここに書かれていることは女性でも応用できるのです。男性目線から女性の考え方を改めて確認してみれば、普段気づかなかったこと、いつのまにか忘れていたことを再認識できるとも言えそうです。

女性同士にもめごとはつきもの。特に先ほど『女子の人間関係』のところでも触れたとおり、恋愛が絡んでくると嫉妬心などが絡んで厄介なことになってしまったりします。

そのことにも関連しますが、著者はここで、女性にとっての「選ばれる」ことの重要性に焦点を当てています。

「選ばれる」ことは女性にとっていくぬく本能であり、そういう無意識の本能が女性のもめごとを生むといえるのです。(155ページより)

これは恋愛問題にもいえることではないでしょうか? たとえば社内の誰かの恋の話が噂になったりしているとき、恋人のいないある女性が、「自分は選ばれていない」と感じる可能性は少なくありません。それどころか、そんな状況がその人の攻撃性を刺激してしまうことも考えられるわけです。

実際、女性同士の足の引っ張り合いも、「選ばれなかった」ことへの嫉妬から生まれます。「攻撃」は不安や恐れ、「嫉妬」は自信のなさや劣等感が原因だったりします。
自分に自信があれば、他者が選ばれても気になりませんが、嫉妬心が強くほかの女性を攻撃する人は、本当は弱く自信がない人なのです。(156ページより)

では、どうすればいいのでしょうか? ここで著者は、「認めること」の重要性を強調しています。足の引っ張り合いは「認めてほしい」気持ちの表れなので、こちらがすべきは「その人個人をしっかり認めること」だというのです。

先にも触れたように、本書では男性の立場からこう考えているわけですが、とはいえ女性対女性でも、この考え方は成り立つはず。敵対視されないように、多少の嫌味を言われたとしても気にせず、あえて純粋な気持ちで相手を認めてみる。そうすれば、そんな気持ちが伝わって好感を持ってもらえるようになり、必要以上に詮索されることもなくなるかもしれないということです。


いずれにしても、目立たず、敵をつくらず、穏やかな気持ちで社内恋愛を楽しみたいところですね。