皆様こんにちは、マネックス証券の益嶋です。「目指せ黒帯! 益嶋裕の日本株道場」第17回をお届けいたします。本コラムでは、「これから投資を始めたい」「投資を始めてみたけれどなかなかうまくいかない」といった方向けに、投資家としてレベルアップするためのいろいろな知識をお伝えしていきます。今月もまずは最近のマーケット動向を簡単にご紹介します。

日経平均は2万円前後のもみ合いに

前回のコラムが掲載された12月26日時点で日経平均は1万9,327円でした。さすがに売られすぎたとの観測から買い戻され、その後2万円を回復しました。しかし、やはり米中貿易戦争に解決の見通しが立っていないことや、英国が合意なしにEUを離脱するのではないかとの不安材料から上値追いには至らず、このコラムを書いている1月24日時点で2万593円となっています。

貿易戦争の影響から中国の経済指標は明らかに鈍化しています。さまざまなモーターで世界的に高いシェアを誇る日本電産は、中国からの受注悪化を要因として今期の業績予想を下方修正しました。

日本電産の永守重信会長は、足元の中国の需要落ち込みについて「尋常でない変化が起きた」「これまでの経営経験で見たことのない落ち込みだった」とまで語っています。永守会長といえば、長く日本電産を成長させ続けてきた名経営者として知られています。筆者はその永守会長が経験したことのないレベルで中国の需要が後退していると警告している事実に真剣に注目するべきだと考えています。現在はもう一段の株安に警戒を払っておいたほうが良いのではないでしょうか。

投資の世界に革命的変化をもたらした偉人が逝去

今回は、先日逝去されたある方をご紹介したいと思います。それは世界的な運用会社である米バンガード社の創業者、ジョン・ボーグル氏です。ボーグル氏は1月16日に89歳で逝去されました。同氏は1975年にバンガードを創業し、1976年に世界で初めて「インデックスファンド」という投資信託を世の中に送り出したのです。

インデックスファンドについて簡単にご説明いたします。投資信託は多くの人からお金を集めて運用を行う金融商品ですが、大きく「アクティブ型」と「インデックス型」に分けられます。アクティブ型とは、投資信託の運用責任者であるファンドマネージャーが投資する銘柄を個別に選定し、市場の平均(例えば日経平均やダウ平均など)に対して勝つことを目指します。一方のインデックス型は、市場の平均と同じ成績を目指して運用します。

アクティブ型とインデックス型、どちらが良いのかという点は長年議論されています。時期によってアクティブ型がインデックス型のパフォーマンスを大きく上回ることもあるので一概には言えないのですが、一般的には長い目で見るとインデックス型の投信のほうがパフォーマンスが良いとされることが多いようです。

その理由としては、どんなプロでも株価や経済の動向を正確に当て続けるのは不可能であるということ、またアクティブ型は投資家にとっての保有コストが高く、それによってパフォーマンスが圧迫されるということが挙げられます。

ボーグル氏は「コストの低いインデックスファンドこそが個人投資家の資産形成にとって最適である」との論に立ち、バンガード社も投資家の利益を最優先にしてコストを引き下げてきました。

バンガード社が運用する「S&P 500」という米国の代表的な株価指数があり、それに連動する投資信託の経費率(保有していることより1年あたりにかかる投資家にとってのコスト)は「0.04%」です。これは驚異的に低いコストで、同じようにS&P 500に連動する日本で作られたインデックスファンドを購入しようとすると、高い場合は「0.5%」程度になることもあります。

「0.04%」と「0.5%」。こう見ると大きな差はないように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、以下のグラフをご覧ください。

  • 保有コストによる運用パフォーマンスの差 (出典:筆者作成、運用パフォーマンスを考慮せず保有コストのみを考慮)

    保有コストによる運用パフォーマンスの差 (出典:筆者作成、運用パフォーマンスを考慮せず保有コストのみを考慮)

ある投信を30年間保有したケースで考えると、保有コストが年率0.04%の場合は30年経ってもほとんどコストがかからず100付近のところに線がありますが、保有コストが年率0.5%の場合、30年後には線が85近くまで減少しています。

もちろん運用対象が異なる商品の場合、投資成績によって最終的な運用成果は大きく異なりますが、投資対象が同じインデックスファンドであれば、基本的に運用成績に差は生じません。となれば、投資家にとって保有コストは低ければ低いほど良いということになります。

金融機関にとっては、お客様からいただくコストが収益になるわけですから、多くいただけるならそのほうがありがたいわけです。そのため、どうしてもコストが高い商品を販売したり、短期売買を推奨したりと、近年一部の金融機関で問題になっているような事象が発生しやすい構図があります。

ところが、バンガード社は投資家の利益を最大化すべく低コストの追求を続けているのです。バンガード社がそれを実践すると、当然ながら他の金融機関も顧客獲得競争に負けないために低コストの商品を作ります。こうしてどんどん低コストの商品が世の中に生み出され、投資家にとっては良い環境が整ってきているのです。

ジョン・ボーグル氏の信念やバンガード社が実践してきた取り組みは、個人投資家の資産形成において革命的な変化をもたらしたと言っていいでしょう。筆者、そしてマネックス証券は、ボーグル氏とバンガード社の偉大な功績を心から敬愛し、深く哀悼の意を表します。

今月も最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた次回!

執筆者プロフィール : 益嶋 裕

マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。2008年4月にマネックス証券に入社。2013年からアナリスト業務に従事。2017年8月より現職。現在は「日本株銘柄フォーカス」レポートや日々の国内市況の執筆、各種ウェブコンテンツの作成に携わりながら、オンラインセミナーにも出演中。日本証券アナリスト協会検定会員。
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